現パロ



「喜雨ー!これこっちー?」
「リビングって書いてあるでしょうが。」
「あ、本当だ。」

何個も積み上げられた段ボールを見ていると気が遠くなるが、箱を運ぶ係を空護が担当してくれているお陰でマシな方か。キッチンと書かれた段ボールを開いて中に収まっている皿類を流しに積み重ね、ある程度の量で軽く洗って籠に置き、また段ボールへと手を伸ばす。二人分って結構な量になるなぁと思うけど出てくる食器類もキッチン用品も殆どが見慣れた物。あいつ本当に一人暮らししてたんだよね?ってくらい、物が少ない。ミニマリストなのかと聞かれたらそういうわけではなく、ただ趣味の物以外が少ないだけなのだが。空護の家にあった食器類は大皿一つ、どんぶり一つ、マグカップが一つ、そして箸が二膳という脅威の食器類の少なさ。まあ、その殆どがこの引っ越しの際に全てゴミとして処理されたが。彼が持って来たのは高校時代、親友と三人で揃いに買ったマグカップ一つだけだった。それはそれでどうなのか。

多いと言えど、殆ど私の家から来た物。一人暮らしにしては数が多いと思うけど高が知れているからキッチン周りはそこまでの時間は不必要だ。布巾で僅かに水分を残した皿類を事前に空護が組み立てておいてくれた食器棚へ仕舞ってしまえばもう終わり。オープンキッチンからリビングを覗き込んだら空護がいつの間にかテレビ台を組み立てていたので歩み寄る。簡単な物にしたと言っていたけどこんな簡単に組み立て終わるもの?

「ど?」
「もーちょい、コレ終わったらベッド組み立てっからあの辺の細けェの頼んでい?」
「はいよ。」

積まれた段ボールを開いてカレンダーやら写真立てやら、そういった細かい物をバランスを見ながら配置していく。小中高全ての卒業式に親友と三人で並んで撮った写真たちは一番目立つ所へ。空護と二人で撮った写真は…コルクボードにでも並べようかな。アルバムに纏めてあるから後で選別しよう。なんて考えていたらアルバムが出て来たので纏めて棚に並べていく。ん?此処にあると直ぐに取り出せるけどごちゃついてるように見えて微妙か?

「喜雨ー、悪ィけど、ちょい手伝って。」
「はいはい。」



「もうちょいかァ。」
「共有スペースは大体終わったからね。寝室はそんなに置くものないし…服くらい?」
「そっちはすぐ終わンだけどなァ、バイク用品…。」
「本当に四畳半の方で良かったの?」
「へーき、あっち部屋狭いけど収納多いからそっちのが助かンだよ。」
「なら良いけどさ。」

二人で住むには少し広めの部屋。付き合って六年になるけど、初の同棲。空護と付き合ったのは高校の時で、そこからお互い道は分かれた。私は大学に行って、空護も大学に行ったけど技術系だからほぼ短期で先に就職した。そうして私の卒業と同時にこうして同棲に踏み切ったのである。各々一人暮らしはしていたけれど、狭い部屋だったしどちらかの部屋に住むには不便だったから新居に至る。


出来合いの簡単な昼食を済ませてから紙を取り出す。食後に動くのは体の負担になるから、と食休みも含めて。そしてお互いが一緒に暮らしていく上で譲れない事なんかを話す。既に済ませてあるけど、確認の意味を込めてね。

一、料理と洗濯は私、掃除とゴミ出しは空護。もちろんお互い手が空いていればやるけど…まあ、得意な方がって事で。あと空護は家具の組み立てとかか。
二、夕食が要らない場合は夕方までに連絡すること。但し会社都合等は除く。
三、お互いの趣味に文句を言わない事。

あとは…とペンを口元に当てていると空護の手が私の持っていたペンを取る。あ、ペン泥棒。

四、ケンカしても一緒に寝る!!


デカデカと書かれた文字を見て目を丸くしていると空護がにぱっと笑う。それから私に手を伸ばして、頬に唇を押し付けてきたから反射的に肩を弾ませた。悔しい。

「後は思い付かねェや、男が居る飲み会行くなら迎え行きたいとかはあッけど。」
「予定が合うならね。ていうか、今までお互いの家勝手に行き来してたし今更感はあるというか…されて嫌なこととかなくない?」
「ま、一緒に住むならまた違うンだろォけどな。とりあえずこんなモンにしておいて、思い付いたら書こうぜ。」
「それが良いか。」

紙を持った空護がそれを冷蔵庫に貼ったのを確認して、そうしてまた荷解きをするべく腰を上げた。一度髪を解いて高めの位置で団子状に括り纏めると空護が此方を見ているから首を傾げていると、ちょん、と彼の指先が私の項に触れる。

「後で噛んでい?」
「ばッ、…かじゃないの、」
「お、その反応はオッケーのヤツだ。残り頑張ろ。」
「早くやれ!バカ!」


そんなこんなで休憩を挟みながら行っていた荷解きがやっと終わった。外はもう真っ暗で、放ったままになっていた端末は19時を示している。冷蔵庫の関係で夕食を作るのは無理だから昼食と同じく買いに行くにしても、もしくは外で済ませるにしても汗を含んだ服を着替えたい…寧ろ外食ならシャワーも浴びたい。酷使された筋肉を解すために軽くストレッチをしていたら空護がひょこりと顔を出す。

「終わった?」
「ン、終わった!」
「晩御飯どうしよっか、買って済ませても良いし外に行っても…、」
「出前取ろォぜ。」

また、首筋を撫でる。触れ方がいやらしいせいでゾクゾクするが、こんな状態で「はい、どうぞ」とは言えない。シャワー浴びたいし、ていうか、どのタイミングでそうなったのよ。咎めるような目を向けると空護は普段まん丸の双眸を細めて、私の首へと口付ける。

「風呂?」
「っ、シないよ、」
「いいよ、戯れたいだけだし。」


がぶ、と甘く歯を立てた空護は満足そうに笑って私の腕を引く。私より少しだけ小さい癖に、その手は私より一回りは大きいし、この体は私くらいなら難なく抱き上げる。駿を抱き上げられるんだから当たり前なんだろうけども。二人で浴室に向かったら、いつの間にやら湯船に湯が溜まってる。別行動してたし寝室は防音だから気が付かなかった。

兎にも角にも汗でべたついた体を清めたくて、二人で着ていた服を脱ぎ捨てる。そのまま促されるままに浴室に入った。熱いシャワーが体に当たって、湯気が立ち込める中で空護の首に腕を回して何度も何度も唇を合わせる。少し開いた隙間から舌を伸ばして絡め、ざらついた表面を擦り合わせる。空護の前髪が水分を含んで顔周りに張り付いているのがやけに色っぽく感じてしまう。

「ッあ、」

さっきとは比べ物にならないくらい、しっかりと肌に空護の犬歯が食い込む。何度も離しては食い込ませと繰り返し、薄い噛み跡を残されるのが、私は案外好きだった。周りの人間に見られたい癖はないけど、空護の独占欲だと思うとなんだか嬉しくて。いや、最初は痛みにびっくりして思い切りその胸を叩いたけども。でもそんなのも一年、二年と過ぎれば慣れる。それに、ソレがないと違和感すら覚えるのだから重症な自覚はあるけど。

「まって、くうご、」
「へーき、噛むだけ。」
「お風呂冷めちゃうって、ば、」
「追い焚き付いてンだろ。」


がぶがぶと甘噛みを繰り返しながらその手は腰を撫でるから本当に噛むだけで済ませる気があるのかないのか。数年で見慣れた裸ではあるけれど、でも、いつもと違う場所だからか落ち着かない。浴室は声が響くから声を上げたくなくて、唇を噛んで堪える。

「はは、首すげェ事になってそ。」
「ンぅ、」
「今風呂だから目立たないけど、多分明日すげェ事になってると思うからちゃんと首隠れる服選べよォ。」
「ッそう、思うなら、もうやめ、」
「嫌いじゃねェくせに。」

つ、と節くれだった指が腰を伝ってお尻に触れる。感触を確かめるみたいに揉んで、胸元に甘く吸い付く空護の頭を掻き抱くと喉を震わせて笑ってて腹が立つ。好きにされてばっかは、好きじゃない。濡れた髪を掻き乱して指を絡め胸に押し付けるとギブ!と背を叩かれる。

「ッたく、素直じゃねェの。」
「これ以上ないくらい素直でしょうが。」
「なに?胸舐めて欲しかった?」
「そろそろブン殴るわよ。」
「へーい。」


漸く解放されたのでまた戯れながら髪と体を洗って、湯船に浸かる。空護の胸板を背凭れにしながら腕を伸ばして体を伸ばして一息。疲れた。明日も明後日も休みで良かったわ、本当。空護はまだ体力有り余ってそうだけど。大きな手が手慰みに私の胸を揉んでるけど特に意図はなさそうなので放置。偶に項を甘噛みされる方がゾクゾクするしその気になりそうだからこっちは止めたい限りではあるのだが。

「メシ何が良い?」
「ン…なにがいっかな、ぁ、」
「なんだっけ、引っ越しソバ?でもなァ、…おれは米が良いけど喜雨は?」
「ぁ、ちょっと、考えさせて、って、」
「噛んでるだけじゃん。」
「それが、だめ、って、」

本当に噛んでるだけなのに。セックスの度に噛むからじゃんか、噛まれたらそうなんだって私の体に時間を掛けて教え込んだ癖に。

「キスしよ?」
「っ、ん…」

顎を捕まえられて、無理矢理後ろを向かせてくる。こっちに選択肢を委ねるみたいな言い方する癖にそうやって自分がしたいことするの空護の悪い癖だからな、なんて思いながらもキスは好きだから良いんだけど。他の人よりも尖っている犬歯を舌で撫でたらちょっとだけ噛まれて、また声が漏れた。

「出よォぜ、喜雨のぼせそ。」
「誰の、せい?」
「おれ?」


湯船から出て浴室を出るとひんやりとした空気が気持ちいい。結構な時間お風呂に入ってたから思ったよりのぼせかけてたのかもしれない。でも、普段烏の行水レベルの空護のが辛いだろう。体を拭きながら空護をちらりと見ると肌は赤く染まっていたけれど本人はケロッとしてた。あっちィ、とは零してたけど。態々風呂でするから、いや、私も乗り気だったけどさ。


「先メシにする?」
「その方がゆっくり出来るでしょ。」
「えろ。」
「ッ!休めるでしょって話でしょうが!」
「ンな照れンなって、どうせヤんのに。」
「シないって言った。」
「その気になってるクセに?」

ひたり、と空護の熱い手が下腹部に触れる。ぞくん、と背筋が震えて顔が熱くなって、その気持ちの消化の仕方が分からなかったから思わず目の前の体に拳をぶつけたら空護は楽しそうに笑っていた。クソ。


出前を頼んで届いたカツ丼と親子丼を各々口に運んで、後始末もそこそこにソファに腰掛けた空護の膝の上に乗り上げて口付けを交わす。空護の手が私の体を撫でる度に擽ったさやらが入り混じったよくわからない感覚が体を走るけれど、心地好い体温にそのまま身を委ねる。

「はは、やっぱすげェ事になってる。受け取り行かせなくて良かったわ。」
「空護って意外と、独占欲強いよね。」
「そりゃ自分の女にゃそうなるだろ。誰に見せても自慢の彼女だけど、だからって見せびらかしてェわけじゃねェよ。」

触れ合うだけの口付けを繰り返しながら私の服裾から手を差し込まれ、指の腹が背骨を伝うと熱が篭った吐息が溢れて、それに満足そうな空護が恨めしい。余裕そうな顔しやがって。鼻先を擦り付けながら至近距離で赤色の瞳が私を捉えて、意地悪く細まる。


「おれの彼女は誰が見ても綺麗系だけど、おれの前だと子猫みたいで可愛いんだぜって言いたくはなるけどな。」

ばーか、と彼を咎める筈の自分の声が想像よりもずっと甘ったるくて、明日遊びに来る予定の駿に少しの申し訳なさを感じながらソファで空護の手を受け入れた。


/ きなこ