※暴力表現・性描写有り


腹のデカい女を道端で殴る男が居た。治安が悪いのなんざ今に始まったことでもねぇし、オレが居た場所に比べりゃこの辺りは平和ボケしてると思ってたけどそうでもねぇのか。ふと、女がやけに腹を庇うのが視界に入って、その意味を理解してしまえば小さく舌を打つしかない。ロクデナシを適当にボコって、泣き噦る女をセーフハウスに連れて行く。元々手放す予定だったので、好きに使えとだけ女に言って、そのままアジトへ帰った。特に報告することまでもないと思い、そうしてその日からどれくらいの時間が経ったのか、そんな出来事すら忘れていた日。呼び出されて部屋に入った瞬間、顔面の横をグラスが通り過ぎて壁にぶち当たって砕ける。派手な音を鳴らした本人は椅子に座ったまま、なんの表情も浮かべずにオレを見ている。いつもの八つ当たりや気まぐれではない、深い緑の奥底からは確かに怒りを感じるのにそれ以上もそれ以下もわからない。機嫌を損ねるようなことをした記憶はないが、何がこの男の琴線に触れるかなんて分からない。

「…なんだよ。」
「認知はしたのかい?」
「は?」

認知?なんの?疑問符に埋もれるオレを見てトニーは表情を変えずに、それでもその瞳は答えを急かしている。そうして暫くの無音が続いた後、数週間前に助けた女の存在を思い出した。だが、アレは既に生まれる直前だった筈で、オレの子供ではない。

「オレのガキじゃねぇよ、ただもういらねぇセーフハウスを貸してやっただけ、」

そういえば目の前の男は小さく溜息を零し、机の上に置かれた呼び鈴を鳴らした。チリン、と音がして一分もしない間にローリーが扉を開けて部屋へと入ってくる。両手には綺麗な白い布に包まれた何か、その何かに対してローリーは笑顔を向けたままあやすように揺らしていて、ソレがなんなのか、理解する。


「ありがとう、ローリー。そこに置いてくれるかい?」
「ええ、ボス。…ふふ、可愛いわねぇ。あなたのその体でこれから沢山役に立って頂戴ね?」

そっと机に下ろされたソレはやはり、赤子だった。生まれて間もないであろう、まだ何も出来ない小さな命。ローリーはそのまま翻し、トニーに頭を下げてからゆっくりと部屋を出て行った。硬い机の上が嫌なのか、それとも母親が居ないからなのか、ピリついた空気を察したからか赤子がふえ、と泣き始める。トニーは不快そうな顔をした後、そのままジャケットの中へと手を差し込んでオレの足元へと取り出したナイフを投げた。コツン、と音がしてオレの靴とナイフが当たって、トニーを見れば数秒の間の後、口を開く。

「ソレを殺して私と生きるか、ソレを連れて二度と私の目の前に現れないか。お前が選ぶと良い。」

声の抑揚もなく、そう言い放った。そうして、ナイフを拾わずに赤子の方へと歩んで柔らかい肌に触れる。

「悪いな。」

ゴキン、と音がして泣き叫んでいた声が止まる。首の折れた赤子はもう息をすることもない。巻き込んでごめん、と。でもそれは言葉にならなかった。少なくともこれで多少の機嫌は取れたかと思い、トニーの居る方向へと顔を向けるもそこにはもう誰も居ない。は?と思った、その瞬間。

「お前にはガッカリした。」

後頭部に鈍い痛みが走って、打ち所が悪かった…否、選んでそうしたのだろう。そのまま意識を飛ばすしかなく、直前の柔い肌と手折った感触だけがやけに掌に残った。

「オイ、パーツは高く売れるから生かしたまま寄越せと何度も言っただろう。それとこんなことに俺を呼び出すな。」
「私は子供が大嫌いでね、知っているだろう?…女は朝陽の所にいるから新しい物でも作れば良い、数が必要ならそこら辺で適当に見繕うから今回ばかりは許してくれ、ジェイク。」
「チッ、…ほら、コレだ。あまり俺とローリーに面倒ごとを押し付けるんじゃあない。」

そんなやりとりが、ぼんやりと聞こえた気がした。


ぬるり、と濡れた物が触れる感覚。それが久しく感じていなかった性器への刺激だと気が付いて靄が掛かった意識が急激に晴れる。相手が誰であろうと構わないと引き剥がす為に腕に力を込めるが一切の身動きが取れない。舌を打ってこんなことをしてくるクソ野郎を蹴り飛ばしてやろうと下腹部へと視線を向ければ、そこにはよく見慣れた男。瞼を伏せているから目元の傷が一層痛々しく、いや、そんなことよりどうしてお前がそんなことをしている?動揺の中でぬるりと湿った薄く熱い舌が性器に触れオレの意志とは関係なく反応を示す。はく、と喉に言葉が張り付く。でも呆けている場合ではない、唇を噛んで意識をなるべく平静へと導く。

「ッ、やめろ!お前がそんなことする必要ねぇだろ!」
「ん、起きたか。じゃあもうコレは必要ないか。」

唾液やらオレの体液の混ざったであろうソレらを手の甲で乱暴に拭ったトニーがなにをする気なのか、全く分からない。間違いなくこれは仕置きだ、だがどういう仕置きなのかそれはトニーの気分で決まるしこれまで何度も仕置きを受けたが口でされるなんて初めてだ。冷静さを取り戻そうとするが、そんなオレなんざ知ったことかとトニーがスルスルと服を脱いでいく。普段は肌を見せない、あのトニーが、だ。

「おい、何する気だ、…おい!」
「煩い。」

そうして、トニーがオレに跨る。爛れて皮膚が引き攣った右手の掌が先端に触れれば言葉にならない感覚を覚え、それでも溢れそうになった声を飲み込んだ。両手は拘束され身動きが取れない、これは確かハロルドの仕置きにも使われていたヤツだから簡単には壊せない。それでもガチャガチャと音を立てて抵抗するがトニーは知ったことではないとばかりの顔をして、そうしてオレを飲み込んだ。ブチリと音がして、そうしてギチギチと性器が締め付けられる。快感ではない、ただの痛みだ。

「ッ、ぎぃ、」
「っは、…成る程、慣らさないとこうなるのか。参考になったよ。」
「バカだろお前!さっさと抜け!!なんでこんなことしてんだ!」
「キャンキャンと喧しい。私の口から全て説明しなければ理解出来ないのか、バカ犬め。」

はあ、と深く息を吐き出したトニー。ローションもなく、互いの多少の体液と切れたであろうその血液で多少の滑りはあるものの、まだ動く程の余裕はないだろう。ギチギチと締め付けられる性器もだが、それよりも慣らしもせず無理矢理受け入れたトニーの方が痛みの方が激しい筈だ。なんとかしようと声を荒げ、身を捩るも一切の迷いもないその目にはまだ怒りを含んだまま。ずる、と抜け始め安堵するも、また無理矢理胎の中へと押し込む。トニーの表情は変わらないが、痛みからか不快感からかはわからないもののその肌は青白く汗が滲んでいて。

「ッ!トニー!」
「…はぁ、この脚ではろくに動けないな。お前が動け、ローランド。」
「は?」
「ほら、バカな犬とて腰を振るくらいは出来るだろう。」

目の前が真っ暗になるとは、こういうことか。どんな怪我を負っても飄々としていたこの男が血の気を引かせ、脂汗を滲ませているというのに。この行為を続ける?なんの冗談だ。

抱く側こちらがやりたかったのだろう?」

早くしろ、とその声が言う。聞き慣れたはずの温度も抑揚もない声。何も言えないオレにトニーは深く溜息を零しては脱いだジャケットに手を伸ばし何かを取り出す。ちゃぷん、と音を立てて瓶の中で揺れる水。それの中身がなんなのか、考えている間にトニーの手がオレの口を無理矢理広げ、歯で瓶の蓋を空ければオレの口の中へと流し込み、閉じられる。飲み込んではならないと本能が告げる、だが吐き出せばこの男はなにをしでかすかわからない。ごくり、と喉を上下させる。無味無臭のソレは筋肉弛緩剤か、それとも…。その時、ぞくりの背筋に刺激が走る。しまった、媚薬の類か。そう思った時にはもう遅く、やめてくれと思う筈が勝手に腰が揺れる。トニーのナカはキツくて滑りも悪い、碌な準備もしていないのだから当たり前だが。

「ッ、手ぇ、解いてくれ、」
「何故?」
「動きにくい、…逃げやしねぇ、から。」

そう言えば、不快そうな顔をしたけれど願った通りに手が解放される。そのまま両腕を細っこい体躯に回して押し倒し、一度性器を引き抜いた。

「ローランド。」
「ローション足させてくれ、こんなんじゃお互いどうにもならねぇよ。」

幸いいつものベッドだ、手慣れた手付きでローションを取り出して一度掌に落として冷たさを感じない程度にしてからトニーの後孔へと塗り込み指を一本潜らせてナカにもローションを馴染ませる。無理矢理突っ込んだせいか指一本くらいなら飲み込む、せめてもの救いだろう。何度か繰り返して濡れた所でもう一度、今にも暴発しそうな性器を押し当て、そうして捩じ込む。先程迄の痛みはない、が、キツい。異物を押し出そうとしているのがわかる。それでも、ゆっくりと単調な抜き差しを繰り返して慣れてもらうしかない。今すぐ揺さぶってぶちまけたい気持ちが膨らむが、そんなことよりこの男にこれ以上傷を付けたくない。

「お前は下手だね、"前の"は上手かったのに。」
「あ゛?」

もう、知らねえ。頭の中が嫉妬とか怒りとか、色んなモンが埋め尽くしていく。トニーの片脚を肩に掛けてそのまま好き勝手に揺さぶっていれば、多少慣れたのかキツすぎる程の締め付けが多少緩む。その勢いで抽送の速度を速め、大人しく揺さぶられるトニーを視界に入れる。双眸を細め、緩やかに笑う。クソ、気持ちよくはねぇってか。こんなん情けないオレの姿を見て機嫌を取り戻しただけだ。そこに悔しさはあれど、それでも、こうして腕の中に大人しく収まるコイツがどうにも嫌いになれない。両手で腰を掴んで揺さぶって、そうしてそのままトニーのナカへと欲を吐き出す。薬のせいか一度吐き出した所で収まる気がしない、乾き始めたローションの代わりにナカを濡らした白濁を使って、またオレはその細い腰に跡を残さんばかりに握ってただ腰を振った。


それから何時間経ったのか、漸く熱が引いた頃には目の前の男はぐったりと力尽きていて薄い胸が上下に動くのをぼんやり見ていたら、水、と掠れた声が聞こえて来て慌てて引き抜き冷蔵庫から水を取り出しキャップを開け、起き上がらせて背を支えながら口元に添えて傾ける。普段は食事どころか水分すらまともに摂っていないような男が何度も喉を上下させる姿が、先程までの行為を思い出させる。熱すら思い出しそうになるのをなんとか抑え込めばもういらないとばかりに顔を逸らす。落ち着くためにも残りの水を喉へと流し込めばその冷たさに少しばかりもたげた熱が散った。

「それにしてもコッチ側は私に向かないな。」
「何を今更。」
「こんな経験は二度としたくないものだ。最初で最後にしよう。」
「は!?」

ああ、疲れたと寝転ぶトニーにお前経験あるんじゃと問い掛ければ存外幼い顔を更に幼く見える表情を浮かべてあるわけがないと言い切る。タガを外す決め手となったあの発言はどうやら嘘だったらしい。本当にいい加減にしろよと喉まで出かかったが、トニーが顔を顰めたのを見ればどうでも良くなる。この男の暴走だったとはいえ無理をさせたことに変わりはないし、そもそもコイツの手足に後遺症が残る程の怪我を負わせたのはオレだ。

「痛むのか?」
「いや、不快なだけだ。」
「ア?」
「どれだけ出したのか知らないが、流れ出てくるのは不快だな。」
「ッ、そういう…あーもう、始末しておくから…。」


カッと顔に熱が集まるのを自覚する。ちらりと視線を向ければ随分と扇状的な光景が広がっていたが、ここで手を出す程バカにはなれない。左脚をそっと撫でてもトニーはなんの反応も示さず、なんとか体に負担をかけないようにしながら先程まで好き勝手していた場所へと指を触れさせゆっくり押し込む。指を伝って流れ出る白濁に羞恥心と罪悪感と性欲が頭を占めるが飲み込んで後処理に徹する。トニーがなにも反応しないでいてくれるお陰もあって、作業として考えられるな、なんて思いながら指を動かす。

「…ッ、」
「トニー?」

痛かったか?と慌てて顔を覗き込めば真っ白な肌が薄く染まっていて、唇を噛んでいる。その反応は、与えたのが痛みとは到底思えやしない。はあ、と熱を散らすように溢れた吐息に思わず肩を弾ませると気怠げな表情のままトニーの瞳がオレを捉える。

「なにを情けない顔をしているんだか。」
「……うるせぇ。」
「二度までだ、それ以上は許可しない。」
「は?」


トニーの細っこい左脚が動いて足の甲で反応を示した性器を撫でる。思わず揺れた腰を見た男は随分と愉快そうに笑うからどうしようもなく悔しい。無駄な脂肪も筋肉もない、薄っぺらい腰を両手で掴んだオレに楽しそうに声をあげて笑った男が口を動かす。

「…おいで、ローランド。」
「クッソ…!」

あんなにこびりついた筈の柔い肌も手折る感覚ももうオレには残っていない。硬い骨と普段より少しばかり体温の高い肌、脳にこびりついたように離れない恋人の甘えるような声だけが残った。どこまで計算だったのか、オレにはわかりゃしないが結局何をしても何をされても、一生この男から離れられないのだろう。わかりにくい歪んだ愛情も誰よりも強いオレへの執着心も、オレにだけ注がれていればいい。そんな風に思うオレが、きっと一番歪んでいるのだろうけれど。掻き抱いたこの薄っぺらい体を守る為に、お前の尊厳とプライドを守る為に、オレは生きていく。


/ きなこ