「スリランカに行くぞ」

唐突な是平の言葉にきょとんともぽかんとも表現できる顔をした水樹は首を少しだけ傾げる

「スリランカ…?」
「あぁ、スリランカで大規模な鉱脈が発見されたらしくてな、行く価値はある。」
「えっと…そうなんだ?行ってらっしゃい?」

僕の言葉に頷きひらりと手を振り見送ろうとする水樹に首を振り「お前もだ」というと驚いたように目をまん丸にする。

「私も?」
「あぁ、スリランカは治安がそこまで荒れていないからな、仏教国で多少のカルチャーショックはあるだろうがネタになるんじゃないか?」

そう伝えると成る程、と頷き否定もせずに旅行の準備をするところは水樹の良いところだ。

「向こうには二週間滞在するから下着と薬なんかは二週間分以上用意しておけ。」
「はーい」

がたがたと立て付けの少し悪くなった箪笥の引き出しから服を出す水樹を尻目に自分も旅行の準備をする。
海外に行き慣れた僕はいつでも発てるよう半月分の準備がされたキャリーが部屋の片隅に置いてある。
これから準備するのはジュエリートレーとルーペ、輝石を持つ際に使用する白い手袋だ、あとは無粋と言われても保存に便利な小さなジップロックを手提げ鞄に放り込む。
あちらで日本銀行の引き下ろしなんてできないから関税を通るギリギリの額の日本円。
今は円高の傾向にあるから向こうで為替をした方がいいか。

「ところでいつスリランカに行くの?」
「今晩だ」
「もっと早く言ってよそういうの」

疲れたように言う水樹に笑って謝ると仕方なさそうに笑い返される。僕はこんな人間だとわかっているんだからさっさと慣れるしかないぞ。
時計を見るとそれなりの時間、準備が出来次第成田国際空港に向かい空港内のレストランで夕食を乗り搭乗手続きをしたらちょうどいい時間だろうか。

「フライト時間は十時間近くあるから暇つぶしの道具も持っていけ、慣れていないならアイマスクもな。」
「十時間って…遠いね…」

フライト時間を聞いただけで水樹はさらに疲れたようだが今から疲れているようだと文化も風土も全く違うスリランカでやってけるのだろうか?。

水樹の準備ができ、二人分の大きなキャリーを引き下げ。フロントに待たせているタクシーに乗り込む。

「成田国際空港まで」

そう運転手に伝えるとすぐに車は走り出す、成田空港までざっと二時間か。

「空港に着くまでにそれなりに時間があるから寝ておけ、昨日まで書き上げていて碌に寝ていないんだろう?ついたら起こす。」
「あー…そうしようかな、ついたら起こしてね。」

こてりと肩に頭を預け目を閉じる水樹に手に持っていたジャケットを掛ける。
タクシー会社に寡黙な運転手を頼むと頼んだだけありちらりとルームミラーで確認したあとすぐにラジオの音量を絞る運転手は気が利いているようだ。

走行する車の心地よい振動と隣から感じる安心する体温に眠気が誘われる、スマートフォンに搭載されるAIにアラームをセットさせ目を閉じる。次に目がさめる頃は空港だろうか。


ーーーーーー

予想よりずっと早くついたらしくAIによるアラームではなく運転手に起こされ、荷台からキャリーを下ろし荷物検査を済ませさっさと邪魔なキャリーを預けてしまい空港内を歩く。

「機内食はあるがしばらく日本食なんて食べれないからな、適当なところで食べよう。」
「そうだね、カレイの煮付け食べたいな」
「………空港でか?」
「だってしばらく食べれないんでしょ?」
「……まぁいいか。」

空港内のレストランにカレイの煮付けなんてあるのか…?
目についた和食レストランに入り、二人でメニューを眺めるとカレイの煮付けはあったようで水樹はそれを頼んでいた、僕は鰆の照り焼きを頼む。
そう間を置かず届いた料理を食べながらポツポツと話す。
京都で老舗の米屋がやっているレストランらしく、確かに米がしっかりとした味がして美味かった。鰆の照り焼きもレストランにしていい味をしていた。

「鉱脈が発見されたって言ってたけど発掘されたものを買いに行くんじゃなくて鉱山を見に行くの?」
「あぁ、売人を通さない方が良いものを安く買えるからな。売人を通さず買えるならそっちの方がいい、鉱脈を発見したのも知人だったから入らせてもらう算段がついてな。」
「……この間崩落事故に巻き込まれたばかりなのに行くの?」
「発見されたばかりとはいえアーサーの鉱山だ、彼奴は父親を崩落事故で亡くしてから過敏すぎると言うほどに対策をしている、心配はない。」

僕の盆の上に乗っている小鉢に入ったほうれん草の煮浸しを横取りしつつ心配そうにこちらを見る水樹を安心させるように言うがなおも心配そうだ。そういえば此奴はほうれん草の煮浸しが好物だったか…小鉢を水樹に渡してやる。
あまり進んで言いたくは無いが、しかた無い。

「そんなに心配なら来るか?岩と土、泥しかない所だが」
「でも宝石はあるんでしょう?」
「なかったら僕は絶対にあんな所に行くわけがない」

不清潔なあんな場所仕事じゃなかったら誰が行くものか、とつなげて言うとやっと水樹は少しだけ笑ってくれた。

「是平の邪魔にならないんだったら行きたいな」
「わかった、今回行くスリランカで主に産出される宝石はサファイアだからな、良い石が出ると良いいんだが…」

すぐに仕事の話をしてしまう僕に少しだけむっとした顔をする水樹にしまったと思うがもう遅い、あまり僕が仕事の話をしないせいもあるがこうして話していると少しだけ水樹は拗ねる。
…スリランカに水樹が好きそうな観光地なんてあっただろうか。

二人とも食べ終わり、食後の一服を済ませた後に搭乗手続きをし乗り込む、十時間のフライトだが乗り慣れない水樹が居るからとビジネスクラスではなくファーストクラスにしたが正解のようだ。夜のフライトともあり、寝るのに不便はしなさそうな人のまばらさと広い座席に次からはファーストクラスにするかと思いつつ手提げ鞄を足元に起く。

「水樹、あちらに着く頃には朝だから時差ボケ対策にも少し寝ておけ。」
「わかった、なんか旅行以外でこうやって乗るのロシアに二人で行った時以来だね」
「そう言えばそうだな…また近いうちに旅行でどこか行くか」
「ほんと?やった」

これから海外に行くと言うのにもう次の旅の算段を立てるのもおかしい気がするが仕事の付き添いではなくちゃんと連れて行ってやりたい。

タクシーでも寝ていたが疲労がたまっていたのか座席を倒し横になると睡魔が眠りを運んで来る、隣では水樹がヘッドホンをして映画を見て居るのが見える、見たいと言っていたのにまだ連れて行ってやれてない映画でも見て居るのだろうか…そんなことを考えているうちに眠りに落ちた。


ーーーーーー

ふと意識が浮上し、体を起こすと到着時刻の五時間ほど前、結局四時間ほどしか眠れなかったか。
隣を見るとヘッドホンをつけたまま眠っている水樹の姿、寝ずらそうにしている水樹のヘッドホンを外してやりいつの間にか僕に掛けられたブランケットを見る、機内で貸し出されるブランケットではなく見慣れたシトロングリーンの手触りのいいブランケットを水樹にかけてやる。
僕は持ってきた記憶がないから水樹がもってきたものだろう。

幸せそうに眠る水樹の寝顔を少し眺めた後スリランカについた後の予定を考える。
スリランカの首都コロンボ、バンダラナイケ国際空港に着いたらホテルにチェックインし荷物を置いたらすぐ南東に100キロほど行ったところにラトナプラの鉱脈を目指す予定だったがラトナプラでホテルを取ってしまった方が良いだろうか。
その方が水樹はきっと楽だろう、最初の一週間は僕の仕事の予定がギッシリ詰まっているがあまりに水樹が暇なようなら人を借りて仕事の間観光させている方が良いかもしれない。
後半の一週間は予定を入れていないから二人で観光しよう、いきなり連れてきた詫びもそこでしよう。

……鉱脈も連れていかなければいけないんだった、約束をしてしまったからには果たさなければ彼奴はしつこいし破って拗ねさせるのも、悲しそうな顔をさせるのも僕の本意ではない。

もし、いいサファイアが手に入ったらそのうちの一番いいもので水樹の首を飾るのも悪くない。
そんなことを考えているうちに期待はバンダラケイナ国際空港に着こうとしていた。

珍しく僕が水樹を連れ出し仕事に向かう機内の特別な時間が終わろうとしている。


たると