同性としか結ばれないっていう生物のなんとやらとかに反したこの時代。
始まりは何だったかもオレは知らない、けど昔授業で科学が発達してクローンみたいに子供を作るってのが主流になったのに命の危険をおかしてまで子供を産むのはおかしいって言う学者が現れて、そっから何十年も経っていまでは異性愛のがマイノリティになったらしい。

そんな事をバーで隣になった異性愛者のおっさんがボヤいてた。
そんなん知らねぇよとか思いながらタバコをふかしてたっけ。

そんな事どうでもよくて、大事なのはその時代が自分に都合がいいか悪いかなんじゃねぇの?

気持ちよく酒を飲んでたのにそんなお堅い話をされたもんで気も萎えて店を出て繁華街を歩きながら最新型の端末を弄り最王手のメッセンジャーアプリで龍に連絡をする。

【今から帰るけどなんか必要なもんある?ԅ( ´•ω•` ԅ)】
【洗濯用洗剤と柔軟剤】
【(`・ω・´)ゞ】


龍からの返信を見て、首を傾げる。
この時間に洗濯用洗剤と柔軟剤売ってる店ってあんのか…?
とりあえず了解ってやっちまったし探すか…。

プラプラと歩みを進め、時たま会う知人と挨拶をしつつふと目に入ったのは100年単位で続いてる24時間営業がウリのディスカウントショップ。
日用品からパーティグッズ、ジョークグッズまで何でもござれの青いペンギンがマスコットの店を一番最初に作ったやつはきっと頭がおかしいな。
用途がわかんねぇもんばっかうって何がしてぇんだよってマジで言いたいもんが多過ぎるもんな、この店。
若い頃は面白がって18禁コーナーにゲラゲラ笑いながら入ったっけなぁ。

適当に店内に入り、日用品コーナーで洗濯用洗剤を物色するが困った。
家で使ってるのってどれだ…?

龍と一緒に住むようになってから多少はするようになったけど、それでもやっぱりオレに家事は専門外だしなぁ。
わかんねぇし下手に匂い変わるのも嫌だし聞くかぁ

【りゅー】
【何だ?】
【洗剤ってなにつかってんの?ヽ(´o`;わかんね】
【ファーファ】
【柔軟剤は?】
【同じ、頼むから柔軟剤2種類とか洗剤に種類とかやめろよ。ちゃんと見てから買えよ】
【りょーかい】

端末に送られてきた画像と見比べながら適当にひっつかんだカゴに洗剤と柔軟剤を入れる。

【つめかえ用買ってこいよ、ボトル捨てるのめんどくせぇから】

端末に浮かぶその字を見てカゴに入れた洗剤と柔軟剤を棚に戻して代わりに詰め替え用をカゴに入れる。カンのいい奴め…


洗剤類だけ買うのも面倒で店内をブラブラ散策し、気になった商品をカゴに投げ入れる。
カップ焼きそばサムゲタン味って、焼きそばなのかサムゲタンなのかハッキリしろよ。

レジで会計を済まし適当に袋詰めをし、上の階に行き雑貨やアクセ類を物色しよう。
初めて知ったけど、洗剤類って意外と重い…先に物色すりゃ良かったか。

ショーケースに並ぶブランドもんのアクセを眺める。
ふとピアスを見て龍の軟骨に開けたピアスがそろそろ安定すると思い出し、ピアスコーナーをうろつき眺める。
アイツ確かヘリックスにあけたよなぁ。

ヘリックスに使えそうなボディピアスを眺め、ストレートバーベル型の流線形の耳に添うようなデザインに一つダイアがついてるピアスを見つけ、少しアイツが付けるにはハデだけど似合うだろうと即決し、自分用にシルバーのバナナバーベル型のピアスを一緒に買う。
龍用のピアスは箱詰めしてもらいポケットにねじ込む。

それなりに暇も潰せたし帰るかとエスカレーターを目指し歩くとマグカップコーナーが目に入り、この間一つマグカップを割ったなと眺める。

へぇ、マグカップにもペアとかあんだなぁ…
ついでだしいいかとペアマグカップを手に取りレジに逆戻りし、会計をすまし今度こそ店を出てタクシーを捕まえて家に向かう。

車内で龍に【帰るわ】と送信、既読がつき、返信はない。
そのまま家の前につき鍵を開け中に入る。

「ただいまー」

リビングに龍の姿はなく、首を一つ傾げ龍の部屋を除いても居なくてさらに首をかしげる。

「んん?」

リビングのソファに買ったものを放り投げ床のラグマットに座り【どこいんの?】と龍に送っても返信も既読もなし。

いよいよおかしくねこれ?と端末と睨めっこをしてると後ろのドアが小さく音を立てて開き、振り向くとタオルを首にかけ上裸の龍が立ってる。

「なんだ風呂か」
「何だってなんだよ」
「帰っても居ないからどこいんのかと思ったんだよ」

なるほど、なんて呟く龍に頷く。

「そだ、龍そろそろピアス安定すんべ?」
「いや、わかんねぇし。ピアスあけんの初めてって言っただろ」
「もうそろ一月以上経つだろ?そんくらいだったら安定するから別のつけれるようになるからピアス買ってきた」

「またあんた余計なもんを…」

ウゲェって言いそうな顔をする龍にピアスの入った箱を投げ渡しビニール袋をガサガサ音をさせながら洗剤と柔軟剤を出しテーブルに置き、ペアマグカップの箱を取り出す。

「なにその箱」
「マグカップこないだ割ったから買ってきた」

箱を開けマグカップを取り出して洗剤の横に並べる。二重構造のステン製のマグカップでこれなら割れねぇだろ?

「なんか二重構造になってて熱いまんまで冷たいまんまなんだってさ。あと結露もできにくいらしいぞ?」

箱に書かれているキャッチコピーをそのまま読み上げると龍もへぇ、なんて言いながらマグを見ていてこれはいい買い物らしい。
こいつって難しい奴だよな、ほんと。

「そうだ、今日って風呂?シャワー?」
「風呂」
「お、ラッキー。オレも入ってこよ」

テーブルの上のものをそのままに龍の横を通り過ぎようとしたら後ろ首のあたりの服を掴まれ喉が圧迫され止まる。

「おい待て酔っ払い、危ねぇから明日は入れ」「えーーー」

何回不満を漏らしても許可されず結局風呂を諦めて洗剤と柔軟剤を龍に渡してウォーターサーバーから水をグラスに入れて一口飲む。

その間に龍は洗剤類を持って洗面所に行って置いてきたらしく後ろで買ったばかりのマグを洗ってる。

「龍マグどっちがいい?」
「どっちでも」
「選び甲斐がねぇよなぁ、龍は」
「わるかったなつまんねぇ男で」
「オレシルバーな、んで龍が黒。」
「輩じゃねぇか」

失礼なヤツ!とケラケラ笑いながら水を飲み干すと龍に手を出され使い終わったグラスを渡す。
なんだかんだこいつホント世話焼きだよなぁ。

ソファにゴロリと横になり端末いじりSNSを流し読みしてると龍がオレの腰の横あたりの床に座りこないだ買ったらしい料理本を開いて読んでる。

「なぁ龍、オレそれ食いたい」
「どれ?」
「表紙に書いてあるヤツ」
「ん?」

表紙に書いてある緑の細いのと白い細いのと肉の炒め物っぽいやつを指差すと龍も表紙を見てあぁ、と頷く。

「青椒肉絲か、たけのこの処理以外簡単だしいいか」
「やりぃ」

よっしゃーなんて足をパタパタ動かしてたらべしりと足を叩かれて動かすのをやめる、こいつオレの扱い雑じゃね?

「てか乃愛お前なんで人参食えねぇのにピーマン食えんだよ」
「人参まずいじゃん…」

龍の不思議そうな呆れたような顔を見ないように顔をそらして端末に向けて目を動かす。
龍にバレないよう検索するのは【恋人 誕生日 プレゼント】
まだ暫く先だけどオーダーするとかなら早くて損はないしな。
検索結果を見つつチラリと青椒肉絲の作り方を見てる龍の後頭部を見て口を開く。


「龍なんか欲しいもんねぇの?」
「プレゼントし甲斐のない男なもんで思い浮かばねぇよ」
「引き摺んなよぉ」

ごろりと体制を動かしつつ端末の履歴を消して背中をゲジゲジと足で軽く押す、鬱陶しそうにする龍の胸ぐらを片手で捕まえ、引き寄せデコに軽くキスをしてニィッと笑ってやると水ぶっかけた猫みたいに目をまん丸に開いて固まる龍が面白くて吹き出す。

「まぁいいや、思いついたら言えよ〜?なんでも揃えてやっから」
「おまえなぁ…」

ため息混じりに言われる言葉に笑いながら腕を引っ張り寝室に連れ込みその流れで2人でベッドにダイブして横になる。
そのまま、オレは龍の胸元に顔を埋めて毛布を頭までかぶる。
タチネコを考えると逆だろって言われそうだけど、顔まで毛布をかぶんなきゃ寝られねぇ俺と、顔までかぶったら寝られねぇ龍の寝やすい体制の折衷案でこれが一番オレは落ち着くし龍も普通に寝てるからまぁ、落ち着くんだろ。

「おやすみ」

少し小声になった低い龍の声にもぞりと頷き、慣れた自分と龍の匂いに包まれて目を閉じる。

服越しに感じる龍の心音と静かになって聞こえる自分の心音がゆっくりと合わさっていくような感覚に酒の入ってるのもあってすぐうとうととまどろむ。

今まではこんなに人の体温と心音が落ち着くなんて全然知らなかったし、人に心配されるむず痒さと心地よさも、一人で食うメシの味気なさも、一人の部屋の寒さも、家事の大変さも、二人で笑う楽しさも、煽られる興奮も、必死になる感覚もコイツが教えてくれたんだななんて働かない頭で少し考える。

龍にはぜってぇ言わねぇけどコイツはすげえヤツだ、ロクデナシの人でなしをただの人にしちまうんだもんなぁ…

すぅすぅと聞こえる寝息に頬が緩み、龍に擦り寄り気付かれないように一言だけ小声で言う。


「……ありがとな」

何の礼なのかは自分でもわかんねぇけど、コイツにはきっとこれから吐く言葉全部ありがとうにしても足りないくらいの恩ができてる気がした。

このわけもなく礼を言いたくなった日の次の日の朝から、メシの時間には絶対2つのマグカップがテーブルの上に並ぶようになるんだろうって考えたら、また胸が少しだけむず痒くなった。


たると