見つめる

年齢不詳。性別不明。一人称は「僕」やら「私」やらと時々変わる。風呂は誰とも入らず、寝る時だって何処で寝てやがるのか分からない。もしやナミさんやロビンちゃんと同室でもしてるのかとそれとなく聞いてみたりした事もあったが、「その時の気分」としか答えてくれず、けれど何故か俺が気になっていた女性と寝る事に関してはケラケラと笑いながら否定したもんだ。あいつには俺の全てを見透かされているようで、なんとも落ち着かない。俺が船に乗った時には既にいたし、向こうは何となくだが俺の全てを知っているようで俺はあいつの事を何も知らないのにと子供染みた嫉妬に思わず笑ってしまった。


「何を笑ってるんだい?」


食器を洗っている俺の背中に向かって投げてきた言葉の持ち主は今しがた俺の頭の中にいた人物で。頬杖をつきながら、その何でも吸い込んでしまいそうな目で俺の事を見ていた。

ほら、またそうやって、俺の事を見つめる。

何を考えているのか分からない目で、けれど目を合わせてしまえばその全てを答えていそうで。
だから俺はこいつと下手に目をあわせられないでいた。


「別に、何でもねェよ」
「そうかい。食器洗いは終わったかい?」
「そろそろ、かな」


野郎と女性。話し方も容姿も所作さえも中性的で、どう扱えばいいのか分からない。だからこんな中途半端な話し方になるし態度になる。きっとあいつはそんな俺の心境を知っていて、笑ってるに違いねェ。だから相手のペースに乗せられているような自分が時々嫌になる。けど、何故かそれもどこか心地よかった。


「お疲れさん」


食器洗いを終えた俺が少し前に出したミネラルウォーターを飲んでいるナナシ。振り返った俺にぼんやりとした笑みを浮かべると、そのまま目を伏せてミネラルウォーターを飲み出した。あいつの伏せられた目がいつもと違って俺を見ていない。だからこそまじまじと見つめる事の出来たナナシの顔に、俺は改めて性別がわからなくなってしまった。至って平凡で、ナミさんやロビンちゃんのような美貌はなく、街で出会っても何らアクションを起こさないだろう事は簡単に想像出来た。一言で言えばぼんやりしている。原因はおおよそその半目だろう。覇気のない、けれどどこか優しさを含んだその目。いつも飽きられる程見られていて意味も分からず無駄に緊張しているというのに、何故か今、この瞬間、その目に見られたいと思った。


ぱち。


「一目惚れかい?」


不意にあった目に心臓が大きく高鳴る。それと同時に目が離せなくなった。そんな俺にキョトンとした様子を見せたナナシだが、それでも、あいつも俺から目を外す事はなくて。

以前、仲間がまだナナシに慣れる事が出来なかった時、そいつと異様に仲の良かったルフィに皆が訳を聞きに行った事があった。その時ルフィはいつもの笑顔でハッキリと言い切ったのだ。


『ナナシ、スッゲェ分かりやすいぞっ!』


表情の変化も乏しく、加え性別も年齢も不明という中性的な顔立ちで、話し言葉でさえ少し癖がある。当時の印象としては不審者以外の何者でもなかった。けれどそれから暫くして俺達は雰囲気や感覚を覚え、ナナシの喜怒哀楽を理解していった。だがルフィの言う分かり易いとは程遠いもので、俺には一生理解できるものじゃないと、無縁なものだと思っていた。
そう、思っていたのに。


「サンジ?」
「〜〜〜っ」


目を見てはっとした。ルフィがナナシの事を分かり易いと言っていたのは、あいつはいつもナナシの目を見て話していたからだ。
思わず赤面して向かいに座っていた俺は顔を隠すようにテーブルの上に置いていた腕の中に突っ伏した。


「お前…少しは自重しろよ…」
「ん?…すまん、出てたか」


溢れんばかりの想いに当てられ、いつまで経っても引かない顔の熱に軽く唸る。ナナシは自覚があるのが少しの沈黙が流れた。それも妙な沈黙で耐えきれなくなったのは俺の方。そして抗議でもしてやろうかと顔を上げた。


「好きです」

「……は…」


突然の告白に目が点になり、加えていた煙草がポトリと床に落ちる。相変わらずナナシはぼんやりとしていて、一ついつもと違うとすれば俺を見てないところだった。僅かに逸らされた視線。けれど見られていると思えば見られているような気もして、あまりにすっとんきょうな出来事に俺はさっきの告白が嘘か幻覚かと思い始めた。が、不意にあったナナシの目から溢れ出る感情に、これは現実だともう一度目を丸くさせれば、ポツリと再びナナシが呟いた。


「私は饒舌な方じゃなけりゃ美人でもない。不審者みたいな奴だと自覚もある。だが言葉に出さなけりゃァ伝わるもんも伝わらないと思ってな」


返事を、聞かせて貰えるかい?


そう言って照れたようにはにかんだナナシに、不覚にもときめいてしまった。

お前の場合言わなくても伝わるよ。


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(因みに私は女だ、ほれ(バサッ)
(ブフッ!!!)