あの日、僕達は何を。



『……ずっとずっと前から、〇〇のことがっ』


俺、あの時が一番人生で緊張してた。
って、今になってそう思う。



全校集会で舞台の上に上がるよりも

卒業式で名前を呼ばれるよりも

リレーでバトンが回ってくる時よりも



どんな時よりも、
心臓が爆発するくらい動いてた。


俺は
真っ直ぐに彼女を見つめて、こう言ったんだ。




『っ好き…でした、付き合って下さい』



頬を赤く染める彼女にとてもドキドキしていたな…なんて。


そうだ、思い出したよ。



彼女の口が開く瞬間に
とても胸が苦しくなったことを。




「……はい、私でっ…よければ」



なんて、よくあるセリフに目頭が熱くなったな。



本当に本当に嬉しくて
とっても幸せな心地で。

彼女を離さない、俺はそう決めたんだ。







【あの日、僕達は何を。】






俺達は生まれた頃から仲が良かった。

って言いたいところだけど、そうではなくて。


小学生の頃、俺はマンションの下の部屋に住んでる彼女のことが嫌いで嫌いで仕方なかった。


当時、俺は大人しいガキンチョで
親からもよく



「あんたって本当に静かね、友達いるの?
そういえば!下の階の〇〇ちゃんはね…」



何かあれば"下の階の〇〇ちゃんはね…"
って。

"下の階の〇〇ちゃん"がそんなに凄いのか。

勉強もスポーツも彼女はずば抜けて優秀だったらしく、おまけに友達がたくさんいる人気者。
ま、小学校が違ったから別になんとも思えなかったけど。


そんなある日
"下の階の〇〇ちゃん"の両親の帰りが夜中になるそうで、彼女が家にご飯を食べに来た。


もちろん、名前は親から何度も聞いたことがあったけれど

見たのも、会ったのもこの時が初めて。



「……こんばんは、おじゃまします」


って小さな手でドアノブを回しながら
隙間から顔をひょっこり出してそう挨拶してたっけな。



「ほら、シゲアキも挨拶しなさい」


って促されて



『…………こんばんは、』


我ながら無愛想な奴だなってつくづく思う。
でもそんな俺に駆け寄って手を取り、



「シゲアキくん、初めまして。
〇〇です、よろしくね」


優しく微笑んでくれた。
多分その時点でもう俺は一目惚れしちゃってたんだろうな、

まぁその時は



『さわるな』



って手を払っちゃったけど。
今にも泣きそうな顔をしていた彼女の顔を、はっきりと覚えている。





その日を境に彼女は
頻繁に俺に会いに来るようになった。



『……なんで来たの』

「シゲアキくんと仲良くなりたいの」

『……俺はなりたくない』

「もう小学校6年生だよ?そんなこと言ってて恥ずかしくないの?」

『…………お前こそ恥ずかしくねーの?』

「なにが?」

『男の部屋に入るなんて』

「どういう意味?」

『だからっ…』




ドサッとベッドへ押し倒す。
顔を近付け




『こういうこと』

「……なっ、なっ…、!」



目に涙を浮かべ顔を真っ赤にした彼女を俺は

未熟な知識で傷付けた。


この日から、立場は逆転。

俺が彼女の家に通うように。




『なぁ』

「……なによ」

『ごめんて』

「……なにが」

『………押し倒して』

「なっ!…………いいよ、別に」



"私が悪かったんだから"
なんてブツブツ言って少しいじけた表情



『いいよって顔してない』

「…だって、恥ずかしかったんだもん」

『…なんで?』

「そ、それは」

『……いいや、聞かないでおく』



少し不満気な表情を浮かべたが、気付かぬふりをした。



そこから俺達は

曖昧に育っていった。


お互いに気持ちを伝えることなく

お互いに恋人を作ることなく

あっという間に高校を卒業。



『……今日こそは、〇〇に告白…』

「なぁシゲ?」


親友の、小山の声が後ろから聞こえた。


『ん?なに?』

「早く行かなきゃ今〇〇ちゃん告白ラッシュだよ?」

『……ま、じ?』


ゴクリと、唾を飲む。


「うん、バンバン振ってるけどね」


ネクタイを締め直し、髪を整える。


『……どこも変じゃない?大丈夫?』

「…うん、いつも通りイケメン!」

『はいはい、ありがと
いってくる』


はぁ、ずっと前から決めてたことなのに
今更超緊張する。


それでまあ、冒頭に戻るわけ。


無事に彼女と付き合えた俺は
今までで1番幸せだった。

たしか、彼女との初デートは……




______
____




『……よし、10分前には着くな、』


俺の性格上、必ず待ち合わせ時間の10分前には到着してないと気が済まないようで。

ま、〇〇が俺のマンションの下の階なんだから迎えに行けばいいんだけど

デート気分を味わってみたいじゃん?(笑)



『……あれ、もういる』


待ち合わせ場所の噴水の前で立っている彼女の姿を見つけた。

遠くから見てもわかる、その目立ったオーラ。
周りの人たちがみな彼女を横目に通り過ぎてゆく。

俺、あんなカワイイ子の彼氏なんだな。

と改めて幸せになった。


『…お、またせ』

「あ、シゲアキくん。
早いね」

『いや、そっちの方が早いじゃん(笑)』

「待ち合わせ場所に先に相手が待っててさ、私が近付いて行くのを見つめられるのが恥ずかしくて

小さい頃から15分前にはそこにいるようにしてるの」


そう俺に教えてくれた。


『じゃあ次からは20分前に俺が着いておくよ』


冗談交じりに笑うと


「なっ…!
シゲアキくん意地悪!!」


頬をぷくっと膨らませた
そんな彼女の前に


『……ん、』


って手を出し
その目を見つめる。


「…今のキュンときた」


伏し目がちに照れながら俺の手をとる。

それだけで心臓がバクバクで。

初デートはあんまり上手くいかなかったなぁ……
でも、とっっっても楽しかった。
俺と、〇〇の初めてのデート。


あの頃は純粋だったな。
手を繋ぐだけで恥ずかしくて
キスなんてもってのほか。

でも、最近の俺達は……


『ん、おまたせ』

「……ん」


到着と同時に彼女が俺の手をとりスタスタと歩き出す。
それでもやっぱり俺は幸せだよ。

もう行ってないところなんてないぐらいデートを重ねた。

映画もカラオケも遊園地も水族館も
海にだって行った。


「ねぇ、どこ行くの?」

『うーん、俺の家?』

「そういえば行ったことないや、シゲくんの家。」

『今一人暮らしだからね、実家には来たことあるよな』

「あーーー、小6とかね」


"ふふっ"
って笑ったかと思えば


「そういえば…私のこと押し倒して……」


肩を上下させながら目を細めて笑う。


『……懐かしいな、俺だっさ。』

「ほんと、でもねあの時
私既にシゲくんのこと好きだったんだよ?」


頬を紅くし微笑む〇〇。


『…はい、わかった。照れるからもういい』

「わー!耳まで赤いよ!」

子供みたいにはしゃぐ彼女の手を、強く握り直した。












______
____




今日はいつもの場所で待ち合わせじゃなくて
俺が車を出して彼女を迎えにゆく。


「……うわぁ、シゲくん運転できるんだねぇ」


なんて少し感動していて(笑)


『免許とったからね、いいだろ』

「うん、すごい」


車の中をキョロキョロ見渡して目をキラキラ輝かせる彼女


『ほら、シートベルトして。
行くぞ』

「れっつごー!{emj_ip_0092}」




______
____




その日の、帰り道。
行きと同じように彼女が助手席に座り
帰宅する。


『……』


お互いに何も言葉を発さず、
彼女も俺も少し疲れているのか会話もなかった。

それも特に変わった感じはなく、いつも通りの俺たちだった。



と思っていたけれど



______
____




『……よし、〇〇の家着いたぞ。』


ドアに手をかけると


「…ねぇ、シゲくん」


彼女に呼び止められる。


『ん?』


助手席の彼女の方に目をやると


「話があるの」


少しかしこまった彼女の顔。
視線は下。

……何を考えているかは、わからない。



彼女の視線と俺のそれは交わることなく
一言、こう呟いた。












「別れよう」






その言葉を理解するのには
少し、時間がかかって。




"わかれよう"
ってつまり、別れよう……




「聞こえなかったの?」



『…………っえ?』


「だーかーら
別れようって」


『え、〇〇?』




いつもの、優しい彼女じゃない。

嫌なものを見ているようなそんな鋭い瞳。






無意識に彼女の頬へ手を伸ばすと


「やめてよ!」


バシッと払われる。


『……〇〇?』


「やめてよ、気持ち悪い。」

『な、なんで?
朝はあんなに元気に…』




はーーー、と深いため息をついて

俺を睨む。




「今日が最後だから演技してあげてたの、そんなのも分からなかったの?

ぷっ、可哀想…」



手で口元を押さえ
ニヤリと口を歪ませる。


『……嘘だ、俺の知ってるお前はそんなのじゃなっ…』

「私の何を知ってるって言うの?
私がいつも何考えてるか分かるの?」









「やめてよ!私があなたのこと好きになんてなったことなんて、


1度もないんだから。」





視界が、うっすらと滲む。




「どうして今日まで我慢してたんだろ、ほんと馬鹿馬鹿しい。」




これが、彼女の本音、本心だとでも言うのだろうか



「黙ってないで なにか言えば?
別れる前に何かないの?」


『……これからも、俺の隣はずっと、


ずっとそばに居て、支えてくれるのは、死ぬまで笑っていられるのは





…………お前だと思ってたのに』










「嫌よ、あなたとなんかいきたくないわ。」







生きたくないだなんて……


本当に嫌いな人を見るような
眉間にシワを寄せ、歪んだ表情。




俺はこんな顔をさせる程、嫌われていたというのか

しかもそれに、気付いてやることが出来なかったなんて。




『……そうか、お前の気持ちは分かったよ…』


「そう、よかったわ。じゃあね」




あっという間に車から降り
スタスタと家へ帰って行く後ろ姿。


ドアに手をかけたところで




『〇〇!』



多分これが最後であろう、
彼女の名を思い切り叫んだ。









背中を向けたまま、おそらく彼女の神経はこちらに向いている。



『今まで、ありがとう。

あと』








少し彼女が俯いて





『俺は今でも、お前を愛してるよ。』






……返事は、なにもない。
ということは、つまりドッキリでも何でもなくて
現実であるということ。






『………じゃあな。』

「……」





____バタン
彼女は一度も振り向くことなく


家へ入っていった。












閉まった扉をいつまでも眺めたまま

俺は、息をするのも忘れていた




色々な事を次から次へと考えて、思い出して、悲しんでいるんだろうけれど

次の瞬間にはもう、その前に何を考えていたかなんて覚えていない



俺、今何してるんだろう。



手に水滴が落ちてから気付いた、





泣いているということに。





『……っは、…は……情けねぇ…』



上を向いても、頬を伝って喉に流れ落ちる水。
その水はとどまることを知らない。



人生で一番泣いているんじゃないかって思うぐらい
俺は泣き続けた。



俺の頭の中の彼女はいつも、笑っている。
今更それに気付いたのに、隣に君はいない。


ごめんな、〇〇。








『…っ、はぁ』



服が濡れて気持ち悪くなってきた。


『……俺ってこんなに泣けるんだ』


そりゃあそうだろう
ずっとずっと一緒にいた彼女に、ずっとずっと愛していた彼女に
とんでもなく残酷に振られたのだから。

いやー、これからどうしよう。


一瞬で真っ白だ。
もう、何も考えられない。……考えたくもない。

布の上からポケットの中のものに触れる。


『…はぁ、……うっ、うぅ…』



また、涙は溢れてきた。
まだまだ、枯れることはない。





______
____




あ、あの後ろ姿は。
見慣れた、ふわふわな茶髪。
間違えるはずがない。



「シゲくん」



振り向いた彼女は多分こう言った。

少し距離があるから分からないけれど。



ゆっくりと近付いてゆき、
彼女の頬を手で包む。



『俺を置いていくなよ』



どうしてこんなことを言ったのかは自分でもわからないが








彼女が優しく微笑み、言った



「……最後に会えて、よかったよ」



この言葉もわからない。


『……〇〇?』

「シゲくん、好き。」



なんだこの夢、変な気分だ。










「嘘ついて、ごめんね」


『……え?』




なんて、彼女は唐突に涙を流した。


「……大好き…なの、シゲく………嘘ついて…ごめっ、な…」




泣きながら必死に話す彼女の声を



俺は


最後まで聞き取ることが出来なかった。










______

____











…………ピピピピッ ピピピピッ










ゆっくりと目を開くと


目の前には白い……天井





『……え?』



[あ、目を覚まされたんですね!]


『は、はぁ……?』

[先生を呼んできますので、そのまま安静にしていてくださいね]




なんて看護師さんが走ってゆく。









『…え?………どういうこと?』

[あ、目を覚まされたんですね。よかったです……]





さっきとは違う看護師さん。



『あの、俺はなんで…?』

[あら、覚えてらっしゃらないんですか?
ドライブ中に事故に遭ったんですよ


大型トラックと正面衝突]


『え?俺が…?』

[えーと確か、一緒に乗ってたのは……





____〇〇さん?]




〇〇と一緒に?

ドライブってことは…、俺が運転してて…?




[ほんと、加藤さん意識が戻るなんて思いませんでしたよ。
1度心臓が止まりましたからね。]


『そう、だったんですか……』





一命を取り留めたってこういうことを言うんだろうな…






『あの、〇〇は……?』











看護師さんが悲しそうな表情を浮かべ、



















ゆっくりと首を振った。








『そ、そんな……』







あ、そういえば……
なんて付け足す看護師さん






[彼女が亡くなった途端加藤さんの心臓が動き出したんですよ。]






『……はっ?』







……夢でのあの言葉を思い出す。









「あなたとなんかいきたくないわ」

「最後に会えてよかったよ」

「嘘ついて、ごめんね」



いきたくないって
"生きたくない"って意味じゃなくて
"逝きたくない"って意味だったのか……?

最後に会えてよかったよって
死ぬ前に夢でも会えてよかったって…?

嘘ついてごめんねって
〇〇はまだ俺のことを好きって考えてもいいのか?






……なぁ、〇〇。



あぁ、君にはまだ、渡せていないものがあるのに。





ポケットに入っていた血まみれになった箱を開くと

そこには輝く指輪が








悲しそうに俺を見つめていた。



















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