君との時間






ソファで仲良くふたり並んで、テレビを観る。


「あははっ、ふふっ…ふふふ、」


君はいつも大きな声で、肩を揺らして笑うんだ。
俺はそれを見て、


『ふは、』


つられて笑う。
そんな彼女と俺の、幸せな時間
幸せな、日常。


「ねえねえ、シゲくん」


彼女に突然頬をツンツンつつかれた。


『ん?なに?』


彼女はふふふ、と笑って


「なんでもなーい」


ってまた、テレビに視線を戻す。


『…なんだよ、?』


しばらくすると今度は


『……っ!?』


静かに俺の手が、温かい彼女の手に包まれる。


『…どうしたの?』


ん〜? なんて甘えた声を出して


「そういう気分なんですう〜」


たまに思う。彼女は本当に猫みたいだな、って。
気まぐれにツンツンデレデレ、こっちが引っ掻き回されて


「すーき」


ほらまた、俺を引っ掻き回した。


『なっ、なに、急に』


それだけ言って満足したのか
また正面を向いてテレビを見始めた。

しばらくするとまた


「シゲくん、だいすき」


今度はぎゅっと抱きついてきて
俺の心はいとも簡単に気まぐれな彼女に振り回される、


『……びっくりするから急に言うのはやめてよぉ、
シゲくんの心がもたないよぉ』


ふふふふ、って笑う彼女の肩が上下に揺れる。
そんな仕草も、心地よくて。


「ねえねえ」


顔が目の前に来て


「私のこと、好き?」


首を傾ける。


『……うん』


綺麗な睫毛に、見惚れてしまう。


「ちゃんと言ってくれなきゃわかんないよう」


なんて口を尖らせて。
そんな顔をされたらもう、言うしかなくなるじゃない。本当に、甘え上手だなぁ。


『すき、だよ。……〇〇、すき。』


改めて口にするとやはり、顔が熱をもってくる。


「えへへへ、照れちゃう」


目を伏せた君の頬が、ほんのり色付いている。


『シゲくんの方が照れちゃう』


頬を両手で包まれて


「私もすきだよ」


顔が近付いてきて、体温が重なった。
心もじんわり、ふたりと同じ温度。






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____




「シゲくん、あーん{emj_ip_0177}」


って、俺の目の前に差し出された いちごのアイスが乗ったスプーン。


『……ぶっ!』


唐突なそれに驚いて、吹き出してしまった。


『は?〇〇さん?ここどこか分かってんの?』


彼女に尋ねてみると


「うん?カフェだよ?」


えへへ なんて首を傾げ、けろっと答えるから


『……人いっぱいいるよ?』


こういう状況で少し躊躇してしまうのが、俺という人間で。

そう言い周りを見渡すと



「…うん?……ふふ、分かってるよ?」


なんてふにゃり 笑う。


『……も〜、』

「やっぱりこういうの、恥ずかしい?」


少し、悲しげな表情をさせてしまった。


『恥ずかしいわけじゃ、ない……わけじゃないけど、』

「じゃあいいじゃない、
……ん?よくない?あれ?わかんない(笑)」


ニッコリ微笑んで、スプーンを俺に近付ける。


『もう……〇〇〜…』


俺は今きっと呆れて迷惑がった顔をしている、はずなのに


「……だめなの?」


可愛い上目遣い。
俺、この顔に弱いんだよなぁ……


「はやくぅ、アイス溶けちゃう」


なーんて困り顔で
ほんと、どこまで男心をわかってるんだか。


『……ったく、しゃあねえなぁ…』


彼女がじーっと俺を見つめていることには気付いてないフリをして

差し出すスプーンに食いつく。


『ん、んまいね。いちご』


彼女の前にあるそれを指さすと


「……ふふふ、カップルみたいだね」


なんて目を伏せて笑うから


『付き合ってんだからカップルだろ、ばーか』


俺のアイスもスプーンで掬って
彼女の方へ伸ばす。


「…うぇっ、?」


びっくりしたその目が真ん丸。


『なんつー声出してんだ、そしてなんつー顔してんだよ(笑)』

「えっ、や……シゲくんがそんなことするとは…」


頬がゆるゆるで口角が上がりまくってる。
…なんというか、単純で可愛いな。


『はやく、あーん』

「ふふ、あーん」


わざとなのか、
口の横についたクリームをぺろりと舐め、


「おいしいね、シゲくんのも」


って本当に幸せそうな顔をしてくれて。


『どっちも美味いよ』


愛しい彼女の頭をポンポンすると


「…えへ、幸せ。」



そう言ってまたひとくち、アイスを食べた。







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「ん…ぅ…」


なんて彼女の吐息と寝返りで目が覚めた。
目を開けると隣には無防備な姿で眠る愛しい彼女の姿。


『…さらさら』


その髪を撫で、ぽろっと出た言葉。
黒くて綺麗なロングヘアー。
俺のために伸ばしてくれているらしい。そこがまた、可愛くて。


『……ぷにぷに』


頬をつついて、ぽろっと出た言葉。
太っているわけではないのに頬だけはぷにぷにで柔らかい。
ずっとこうやってぷにぷに触っていたいぐらい。
…流石にそんなことはしないけど


『………えっろ』


首筋を指でなぞり、ぽろっと出た言葉。
ここからもう少し下に降りてゆくと、ほくろが三つ並んでいるんだ。
俺しか知らない、君の色っぽいところ。


『俺変態だな』

「変態だね」


彼女の目がパチッと開いて。


『うわっ!!!』


びっくりして思い切り背中をそらしてしまい
ベッドから落ちそうになった。


「ふふふ〜、おはようシゲくん、
……あら、落ちちゃうよシゲくん、」


まだ完全に目は開いていないのに、
その笑顔はまるで子供だ。


『い、いつから起きてたの』

「ふぇ?首筋なぞられた時からかなぁ」


"私首弱いのっ、"

なんてにっこり微笑むけれど
そんなことはとうの昔に知っているし

朝からそんな事言われたら


『……食べたくなるだろ…』


顔を覆った手の隙間から、彼女を見つめるけれど


「え?お腹すいたの?」


『……ぶはっ、』


真面目な顔してそんなこと言うか?(笑)
予想外すぎて、馬鹿らしい。


『そうだな、お腹すいた。朝ごはん食べようか』


布団から出ようとすると


「先にキッチンに着いた人が勝ちね よーいどん!」


それだけ言い残しダダダッと行ってしまった。


『なんつー元気だ…さすが〇〇……』


"ぶはっ"
はぁ、こんな幸せで楽しい朝は初めてかも、なんて。


そんな一日の始まり。







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『……どうして』


人より努力はしているつもりだし、才能がないからって諦めている訳でもない。
なのに結果はいつも出なくて


『な、んでだよ…!』


そんな自分が嫌で机や壁を思い切り殴るも


『…っは、』


拳に痛みが残り、壁には穴があくだけ。
なんともいえない、虚しさ、苛立ち。


「…シゲくん?」


そんな時に後ろから聞こえた君の声


『……わり、…今はちょっと、一人にしてほしい』


唇を噛み締め涙をこらえようとするも
そんな粘りは無駄で
あっけなく床に落ちる水滴。


『…はぁ、』

「し、げ…」


彼女にこんなところを、
だっせぇ情けない自分を、
こんなことで泣いてる子供みたいなところを、
見られたくなくて


『1人に、してって……言ってるだろ』


背を向け言い放つが



「嫌だ。」


真っ直ぐな、君の言葉。
はぁ、頑固な奴め。


『は、いいから出てけよ……』


お願いだから、一人にしてくれ。
こんな惨めな自分、君に、〇〇には見られたくない。
嫌われたくないんだよ。幻滅されたくない。君を傷付けたくない。


…どうして分かってくれないんだよ。


「嫌だ。」

『お前いい加減に…っ!』


振り向いて彼女に思い切り拳を振り上げたところで


『…っ、』


ふわりと、彼女の温もりに包まれた。


「……大丈夫だよ、私が全部、受け止めるから。
大丈夫だよ、」


耳元で聞こえる、優しい、落ち着く声。


『お前に、俺の何がわかるんだよ…』


殴られそうだったからか、彼女の体は小刻みに震えていて。


「何もわからないよ、……でも、いつも家で頑張ってることは私が一番知ってる、わかってるよ。」


ぎゅう、と俺を抱きしめる力が強くなり、
落ち着く香りが、鼻を掠める。


『……俺、頑張れてる…?』

「うん、シゲくんは充分なくらい
頑張ってるよ、」


顔は見えないけれど、いつものように優しく微笑んでいるんだろう
見なくても、感じ取れた。
その優しい顔を想像して少し安心して。


『……っ、そう…よかった』


「たまには私に吐き出してね」



って頭をポンポン撫でる彼女の手。
彼女の背にゆっくり手を回し


『……ありがとう』


ぎゅっと、抱きしめた。


初めて、誰かの前でわんわん泣いた。




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唐突だった。一本の電話がかかってきたのは。


『はぁっ……はぁ…』


この歳になって、こんなにも全力で走ることになるなんて。
汗だくで、雨のせいでびしょ濡れで、マヌケな走り方。


『無事で…いてくれよっ……』


考えるのは、愛しい彼女
〇〇のこと。

病院に駆け込み、受付へ向かうと


「びしょ濡れじゃないですか、どうなさったんですか?大丈夫ですか?」


そんな言葉をも無視し、


『あの、あいつはっ……〇〇は、どこですか?
無事ですか?何ともないんですよね?大丈夫ですよね、?』

「…少々お待ちください」

『早くしてくれよ、』


こんな少しの時間でも、不安で不安でたまらない。


「彼女の病室は、104号室です、」


その部屋に向かって、また走る。


『〇〇……』


ふぅ、と一息ついて
部屋のドアを開けると


『……っ、』


包帯でぐるぐる巻きの彼女。
顔には傷がたくさんついてて、
部屋には何度もドラマで聞いたことのあるような規則的な機械の音が響いている。

すぐさま駆け寄り、彼女の手を取る。


『…〇〇……』


手をぎゅっと握ってから気付いた。


『なんで俺が震えてるんだよ…』


あれ、彼女の手はこんなにも小さかったっけ。
ぎゅう、と握ると簡単に折れてしまいそう。


『……〇〇?』


そういえば……どうしてこんなに冷たいんだ、?
彼女は体温が高いはず…


『…なぁ、このまま死んだりしないよな?
俺を置いて行ったりするのか?
まだまだ行きたいところはたくさんあるんだよ、なぁ〇〇、』


返事は、まったくない。


『……ほら、水族館とか。付き合う前に一度行ったけど結局その日はグダグダで…今度行く時はもっと計画してよねって、
怒ってた……だろ』


あぁそうだ、他にもたくさんあるよ。


『いちごのアイス……もっかいあーんしてあげるって、笑ってたじゃん。また二人別々のアイス頼んでひとくちずつあげようって
楽しそうに……言ってただろ、?』


なんでだろう、涙が溢れてきた。


『…お前、いつもいつも俺のこと振り回してたくせにさ……自分が振り回されると怒るんだよ。ほんと自己中なやつだよなぁ


自分勝手な……今だって、なんで1人でどっか行ったりするんだよ、
俺が一緒なら……お、俺が一緒にいたら!
っ、……お、おまえ…事故になんか…っあわな、俺のせい…俺が、お…っ、』


言葉にならず、吐きそうになる。


『……うっ、…おぇっ…っ、ゲホ、』


そ、そうだ…俺が一緒に行かなかったから……
どうして一緒に行かなかった…?
出かける時は大体付いて来いって、言うくせに
今回は


「んーん、私一人で行くの、
心配しないで 夕方には帰るから」


そう言って家を出た。
結局君は、夕方になっても帰って来なかった。


『…………なんで』


ああ、もう何も聞こえないや。


『ずっとずっと、隣にいてくれただろ、
昨日だって普通に笑って……』


突然部屋に人が入ってきて


「すみません、ちょっと離れて!」


なんて俺をグイグイ引っ張り〇〇から離そうとする。


『…っやめろ!離せ!
〇〇…っ、〇〇!!』


俺の叫びも虚しく、
部屋には ピーーーーーー という機械音が流れるだけだった。





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「残念だった、ね……若かったのに」


なんて悲しそうな顔をする女。
同情しているつもりなのだろうか。


「運が悪かったよ…事故だなんて」


彼女の親戚に声をかけられた。
運が悪かった…そんな言葉で片付けて欲しくない。
いいからほっといてくれ。


「そう落ち込むなよ、〇〇ちゃんもお前のそんな姿望んでない」


〇〇との共通の友人に慰められた。
何を言っているんだ、
俺のこんな姿?じゃあどんな姿ならいいんだ?
そもそもあいつは俺のせいで…


『うっせぇ、ほっといてくれ。お前に〇〇の何がわかるんだ。』

「シゲ、人に当たるな」


それを聞いていた手越が、割って入ってくる


『黙れよ手越、お前に俺の気持ちなんかわかんねぇ、幸せそうだよなお前は。
可愛い彼女とずっと一緒にいられてさ!』


……こんなことを言いたいんじゃない。
なんにも関係のない手越を傷付けたいわけじゃない。



「はいはい俺にはお前の気持ちなんかわかんないね」


ギロっと睨まれるが、今の俺にはどんな攻撃も効かなくて。


『…嫌味ったらしいやつだなほんと』


はぁ、とため息をつく。
手越がゆっくりと近付いてきて、俺の肩にポン と手を置いた。


「そういや、〇〇ちゃんからのプレゼント、貰った?」

『…………は?なにそれ』


プレゼント?
……なにか貰ったっけ
そういえば看護師から受け取った彼女のバッグ、何も確認してないな

あぁ、血まみれで何も見たくなかったからだった。


「もうすぐで記念日だからって
俺に相談してくれてたんだ
……お前の気持ちはわからないけど、〇〇ちゃんの気持ちはわかるよ」


あいつの、気持ち…


「メッセージでやりとりしてたんだ、ずっとずっとお前の話でさ」




ほら、と見せられた画面には
シゲくん の文字がたくさんあった。


「俺よりお前のほうが幸せ者だよ、羨ましいぐらいに」


〇〇……


「本当にお前のことばっっかり、」


あ、あ……


「…こんなに愛されてたんだよ、シゲは」


手越が、悲しそうに視線を落とす。


『……っ、う…〇〇っ……』


そんなこと言われたって、君への想いが募るだけじゃないか。


「帰ったらプレゼント、見てあげろよ」


背中を2回叩かれて 手越はどこかへ行ったらしいが


『……っ、、うっ…あ……』


俺はその後1時間ほど動けなかった。




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家に帰り
彼女のバッグの中を見ると


『なにこれ、本…?』


1冊の、小さめな本。
1ページ目には


「君との時間」


という手書きの文字が。
どんどんめくってゆくと

今までの、二人の思い出の写真が
たくさんたくさん貼られていた。


『…っ、うぁ……っ、』


色んな君との時間が、頭の中を駆け巡る。


「ねぇ、もっと笑って?そんな顔しないで。
シゲくんの笑顔が私は一番大好きなの!」


って、落ち込んでる時に
彼女の両手で頬を包まれたな。




「好き?って聞くと、いつも うん ってしか返事してくれないでしょ?
でも本当は私の事好きなんだよね?分かってるよ〜?」


意地悪な、彼女の一面。
意地悪彼女の時は、いつもお腹か頬をツンツンつついてくるんだ。



「ふふ、シゲくんの匂い、……私この匂いが一番好き。
ずーっとこうやってぎゅってしててほしいんだぁ。」


朝目覚めたら、ぴっとり彼女がまとわりついていた。
彼女を抱きしめて、もう一度眠りについたんだっけ。そんな朝も、あったなぁ。



「私が泣いてる時、いっつも何も聞かずに抱き締めてくれるでしょ?だから私も、シゲくんにお返しなの。
大丈夫だよ、私が受け止めるんだから」



仕事で上手くいかなくて落ち込んでる時、このセリフを聞いて
自然に涙がぽろぽろ零れた。
泣くつもりなんて、1ミリもなかったのに 彼女の力とはすごいものだ。



「えぇっ?!サプライズだ!このネックレス欲しかったの〜!!!嬉しい!ありがとうシゲくん大好き!」


たまにはカッコつけてみたくて、頑張ってみたとき。
あんまり上手くはいかなかったけれど それはそれで俺たちらしい。








君の隣にはいつも、俺がいて。
俺の隣にも、いつも君がいる。


君が笑うと、俺も笑う。

君が泣くと、俺は君を静かに抱きしめる。


俺が笑うと、君も笑って。

俺が泣くと、君は優しく受け止めてくれた。




『…〇〇……〇〇、〇〇っ』


何度名前を呼んでも、もう君は笑って返事をしてはくれない。


『〇〇、好きだよ……大好きだよ…っ、愛してるんだよ』


どうして言えるうちにもっと伝えなかったんだろう。
今更悔やんでも、遅すぎるけれど。




『〇〇…………っ、会いたい』



もう二度と、目の前で肩を揺らして笑わないんだね。ふたりでアイスを食べることも、テレビを観ることも、
目覚めたら隣に君がいることも 惨めな自分を、受け止めてくれることも


もうないんだよね。



ただ君が隣で笑ってくれるだけで


よかったのに。








君が生きてくれているだけで


よかったのに。



『もう一度だけでいいから、…………〇〇に会いたい。』




俺の時間は、君がいなくなってから


止まったまんまだよ。




















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