東峰旭と教室で愛を囁く


好きになった理由は単純で、バレーしている姿が格好良かったから。バレーをしていない時の彼を纏う優しくて物静かな雰囲気が、話し掛けようと思うきっかけだった。彼の笑った顔を見て、思わず告白してしまった。そして、今に至る。

「おはよう、旭」
「おはよう、…名前」

まだ私の名前を呼ぶ時に少し俯いて恥ずかしそうにする旭に吹き出してしまう。笑うなよ…、と眉を下げる仕草は容姿に反して幾分と女々しい。

「名前は最初から俺のこと名前呼びだったからなあ」
「だって東峰なんて呼びにくいもの」

ギリギリまで朝練をしていたのであろう旭の首筋からは汗が垂れていて、持ってきているスポーツタオルを差し出す。付き合う前から毎朝毎朝必ず持っていく黒のスポーツタオルは、我が家では旭専用として認知されている。

「一限、なんだっけ」
「古典。品詞分解途中なんだよねー。旭、やった?」
「大地のクラスがさ、そこもう終わっててこの間プリント見せて貰った」

肉まんと引き換えに…と遠い目をする旭に相変わらずバレー部は肉まんを奢り奢られしてるのかと笑う。

机に置かれた鞄に勝手に手を伸ばし、旭がいつもプリントを入れているファイルを取り出す。そんな私に旭は何も言わずに、少し湿っぽい髪のゴムを解き、結わき直している。旭が髪を結わく姿も、好きだ。

「旭」
「どうかした?」
「好きよ」

ゴムを髪に引っ掛けて結いてる最中だった手が外れ、バチン、とゴムが切れる音がした。抑えていた手から髪がこぼれ落ち、真っ黒な髪が旭の顔まわりに流れる。

「どっ…したんだよ、急に」
「ん、なんか、好きだなあ、て」
「此処、教室だって分かってる?」
「旭のその照れてる顔も好きよ」
「名前って、時々凄く男前だよ」
「あら、女々しい旭にお似合いでしょ」

真っ赤に染めた頬に伝う汗を先程のタオルで拭ってやると、へなへなと旭は倒れこむように椅子に座った。

「ホント、名前格好いいよ」

でも、俺だって名前のこと好きだから。その台詞は、どうせなら顔を見て言って欲しいけれど、ヘタレな彼氏だから仕方ない。

そんな旭も好きなのは私だしね。

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