木兎光太郎と彼女のランチタイム
歓声が止まない体育館に、ダンッと体育館を踏み付ける音が響く。そして、その腕に翼が見えた時、恋に落ちる音がした。
「…そして現実がなかなか上手く言っちゃうこともあるんだよね」
机に肘をつきながら雑誌をぺらりと捲る。そこに載っているのは我が梟谷学園高校男子バレー部主将。しなやかに、けれど烈しさが十分に伝わる、彼がスパイクを決める瞬間が切り取られている。最頂点は三メートルを優に超えるのだと、昨年同じクラスだった赤葦が言っていた。私の身長の二倍。そう考えると本当に意味が分からない高さだ。
「名前!」
二年セッターにインタビュー、という記事を半ばまで読んだところで教室の扉が開けられて、名前が呼ばれる。なぞっていた文字から目を離して、机の横に掛けていたランチバッグを取る。
「腹減った!」
「今日のおにぎりはおかかと唐揚げです」
「唐揚げおにぎり!旨いんだよなぁ」
昼休みだというのに制服ではなく、練習着と首からタオルのスタイルでやってきたのは木兎光太郎本人であり、私の彼氏。早弁をしてお昼休みのチャイムとともに教室を飛び出す彼は、昼休み終了の少し前に戻ってきて私の作ったおにぎりを頬張るのだ。
「着替えて来なかったの?」
「忘れた」
ああ、これはまた赤葦にお叱りを受けるやつだ。全く木兎さんは、と呆れたように言いながらも先輩である彼の荷物をきちんと持ってきてくれる。本当に出来た後輩というかセッターというか。同級生として誇らしいほどしっかりしている赤葦に、彼の彼女としては申し訳なく思う。これからも宜しくね、という意味を込めて赤葦にもおにぎりを渡そう。賄賂じゃない。感謝の意を込めて、ね。
「あまり赤葦に甘えないでね」
「…さっき、赤葦には名前に甘えるなって言われたんだけど!」
頬いっぱいにおにぎりを詰め込む姿は、梟というよりも大きなリスみたいだな。俺そんなに甘えてないし、とはどの口が言う、と詰め寄りたい気もするが、仕方ないのだ、私が彼に甘いのは。
だって、言うでしょう。惚れた方が負けだって。
「名前、明日はだし巻きが食べたい!」
「今日の甘いのは好きじゃなかった?」
「いや、美味いけど。気分!」
私も赤葦も、想いのベクトルは違えどこの大きな子どもに惚れてしまった人間だ。
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