おそ松の場合

クリスマスイブはいつも一人だった。友達がいないわけじゃないけれど、彼氏ができたとかなんとかで一緒に過ごす友達が年々少なくなっていっていた。
でも今年はといえば、おそ松さんというお友達ができ、イブはその人に誘われていたのだった。

毎年赤塚区では、イブの日になぜか花火大会がある。全国的にも珍しいこの時期は、空気が澄んで美しい花火を見にカップルが集まる。

待ち合わせはいつもの占いスペースが終わってから。深夜11時。
おそ松さんは普段寝ている時間だそうで、少し眠そうな顔をしながらもスペースの通用口から出てきたわたしを迎えてくれた。

「おそ松さん眠そうです」
街はイルミネーションに煌めき、普段の商店街とは様相の違った中を二人歩く。
「ごめん、仮眠が長くなったかな」
あふ、と一つ欠伸をすると、こちらを一瞬見た後また目線をまっすぐに戻す。
「今日人多いね」
そう言って、手持ち無沙汰だったわたしの左手を、おそ松さんの右手が包み込む。
「いやかもしんねぇけど、迷子になったらアレだし、今だけ…な?」
へらりと照れ臭そうに笑い、再びジングルベルの響く雑踏の中をふたり歩いて行く。
「いやじゃないです、嬉しい、です」
そう口にすると、おそ松さんは嬉しそうに、手を繋ぎなおした。

「さて」
商店街を抜け、赤塚団地まで出た。ここにはいつもならチビ太さんのおでん屋台があるが、今日は姿が見えない。
「チビ太さん、今日はいませんね」
「これから花火大会だからな、稼ぎ時ってね」
「ああ!なるほどー」
屋台を花火大会の会場に出しているということだ。寒いしおでんよく売れてるといいな。あとで顔を出してみよう。

赤塚団地の公園には大きなツリーの形をしたイルミネーションがあり、何人かの人が常にそこにいた。子供連れ、カップル…
「綺麗ですねえ」
ぼうっと眺めていると、おそ松さんが肩をつついてきた。
パッと振り向くと、突然唇に温かい感触。
「へへっ」
わたしはといえば突然のことで固まってしまった。イルミネーションの光に照らされたおそ松さんの顔は照れくさそうに、少し頬に紅がさしていた。
「あの、あの…っ」
言葉にならない言葉を繰り返すことしかできないわたしにおそ松さんは。
「可愛いなぁ、かなたちゃん…もっかい、お願い」
返事をする前に再びキスが降りてきたのでした。

「こーゆーの、ロマンチックってんだろ?なんか恥ずかしいなー」
照れながらも嬉しそうに言うおそ松さんの顔は相変わらず頬が赤くなっていて、繋いだ手がほんの少しさっきよりさらに暖かくて、手に汗かくんじゃないかって変な心配までしてしまう。
「よかった、かなたちゃん、ドン引きしなくて」
「ええっ、そんな!引きません…嬉しい、です」
あんな事公衆の面前でされて恥ずかしく思っても引くことはないだろう。
そうしてわたしたちはさらに歩みを進めて、花火会場へ着いた。
「おうっ、おそ松にかなたちゃんじゃねえか!」
「どーおチビ太ぁ、おでん売れてる?」
いつもの暖簾をくぐると、お出汁のいい匂いが鼻をくすぐる。今日はいつもの椅子は屋台のそばに置いてあって、おでんを買った人たちが座って食べながら空を眺めていた。
「おかげさんですげえ売れ行きだぜ!あ!ただ食いしようたってそうは行かねえからな?きっちり取るぜー」
テキパキとおでん串を二つ作り渡してくれた。
渋るおそ松さんを横目にわたしがお金を渡すと、チビ太さんはおそ松さんを小突いた。
「お前ね、女の子に金出させんじゃねえよ」
「わーかってるって…じゃあなチビ太、また」
「お、おう…また来いよ」
わたしがお金を出したことで、おそ松さんの機嫌が悪くなってしまったかな…どうしよ。
「お、おそ松さん」
「ごめんなかなたちゃん、おれ、」
何かを言いかけたところで、空に大輪の花が咲き始めた。
「…花火、みよっか」
花火の光に包まれたおそ松さんは、いつものへらりとした表情に変わっていた。
「なにかあったなら、わたし占いますし。相談も承りますから」
「ありがと」
おでん串を頬張りながら見る花火も、なかなかオツなものである。
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