カラ松の場合

「カラ松、遅くなってごめん」
「いや、すまないな可憐。こんな時間に」
ううん、と首を振る。
現在12月24日夜11時。赤塚団地下の公園のクリスマスツリーで待ち合わせ。
カラ松にイブを共に過ごさないかと提案されてここにいる。もちろん自分の意思で。彼に誘われるなんて思わなかったからとても嬉しい。
カラ松がめずらしくダッフルコートに青のマフラー、細身のジーパンにブーツを履いているので、ちょっとドキッとした。
「今日はあのギラギラしたやつじゃないのね」
「ああ…トド松に止められて、この服をコーディネートされた」
そう残念そうに言うが、わたしとしては願ったりである。トド松くんグッジョブ。
せっかく元はかっこいいのに、センスはクソである。
「かっこいいよ?すごく」
「本当か!それは良かった…!」
カラ松の顔がぱあっと明るくなって、それをみたわたしも嬉しくなってしまう。
わたしはアイドルという職業上、ファンの人に声をかけられることもしばしばあるから、あんまりカラ松と二人で歩くことはない。
今日は特別なのだ。
「行こうか」
二人肩を並べて歩き、公園を後にする。そういえば行き先は知らない。
「どこまで行くの」
「言っていなかったか?花火大会があるんだぞ、今日は」
ああ、そういえば、と毎月区で発行されている区報に書いてあったことを思い出した。
「道理でカップルが同じ方向に流れていくわけだー」
周りも花火会場に向かう人たちで流れが形成されているので、案外逆行する人もなく安定して歩けている。
「そうだな、なぁ、俺たちもその流れにあるわけだよな」
隣りを歩くカラ松がそう言って手をわたしにと差し伸べてきたので、どうするべきか考えていると、彼はわたしの手をそっと握ってきた。
「カラ松、わたしなら大丈夫…」
「俺が手を繋ぎたい、それではダメだろうか?」
カラ松の手の温もりでじんわりと心が温かくなってゆくようなそんな感覚に陥った。
会場に着くと人の流れが激しくなり、カラ松に手を繋がれているためにはぐれることもなく歩けた。
「な?よかっただろう?」
くくっ、と笑顔を見せるカラ松がすごくカッコ良く思えて、手を解いて腕の隙間に差し込んで腕を組むと、今度はとても驚いた顔になった。
「可憐…っ!?」
「まあまあ、このくらい大丈夫」
「ああ…おっ、始まったかな」
ヒュルルルル…ドーン!
人々の歓声とともに花火が上がり始めた。
「きれい」
冬の夜空に広がる色とりどりの花火が本当に美しく、見とれていると。
「可憐も、きれいだ」
ちいさく、でもわたしにも聞こえるようにカラ松が呟いた。
「ありがとう、カラ松」
ずっとカラ松と一緒にいれたらいいと願いつつ、花火を見上げた。
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