一松の場合

河川敷で花火大会があることは前々から知っていた。
河川敷には、わたしの好きだった猫、シャンのお墓を作っていて、人々が集まるからなんだか心配だった。
一松さんに相談すると、
「おれとほのかで守ればいいんじゃない」
と言い切られて今、河川敷の草むらに隠れているシャンのお墓の隣にいる。シャンのお墓を挟んで一松さんが座っている。
小さな草むらだけど、一松さんと少し離れて座っていることがなんだかもどかしい。もう少し近くにいたい、なんてわがままだろうか。
一松さんの懐にはメガネにゃんこがいる。猫にまで嫉妬しそうだ。
「びっくりして逃げちゃわないかな」
そう言うと、
「それもそうだな…お前ここにいろよ?」
と紫のコートの中に閉じ込めた。
『フニャーン』
くぐもった鳴き声が聞こえる。一松さんに抱かれている猫になりたい。

人々が集まり出して、どうやら墓はちゃんと守れているようでホッとする。
「ほのか」
草むらを挟んで、ぎゅっと肩を抱き寄せられる。
「シャンの墓はあとでちゃんと作り直すから」
と一松さんから寄ってきたのだった。
「ほのかのこと、押し倒したいここで」
そう耳元で囁かれると同時に頭がボンと爆発しそうだった。
「な、なな…」
「猫にまで嫉妬してるほのか可愛すぎだし」
一松さんはいじわるだ。拗ねてやる。
「ごめん…ほのか、す、…、だから…」
す、の後が小さくて聞き取れなかったけど、すっかり沈み込んだ一松さんとあがり始めた花火に免じて許してあげよう。
シャン、少しだけ我慢してね。明日ちゃんと作り直すからね。
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