十四松の場合

「灯油買って来た!」
「ありがと、タンクに補充しといてー」
河川敷公園にあるわたしの所属するアーチェリーチームの射的場で二人きりのデートだ。もちろん先生たちには許可をもらっているし、十四松くんのことを言うと、冷やかされもした。

ちなみにアーチェリーの射的場は横に長く、公共の場所ということもあって両側の壁はフェンスで仕切られている。隣は野球場で、たまに十四松くんがそこで素振りをしている姿を見ることができるが、球が飛んで来るとフェンスを破りそうな勢いなので、野球場側だけコンクリートにしようかという話まで出て来ている。が、そうなると野球場で練習している十四松くんが見れなくなるので困る。
今日は防寒のために、野球場側にシートを張っていて、十四松くんもここにいる。


ストーブに火をいれてしばらくすると、だんだん暖かな空気に変わる。とはいえ少しでもストーブから離れれば、一気に寒くなる。
「まだかなまだかなー!」
十四松くんは楽しそうに歌いながらにこにことストーブ前に陣取り、フェンスの向こうを眺めている。
というのも、今からすぐそばの川を会場にして花火大会が行われるからだ。いつもは静寂に包まれるこの辺りも今だけは微かながらざわめきに包まれている。
やかんに水を入れてきてストーブの上に置いて、野外で使うテーブルセットを置いて、花火が上がる時間までは十四松くんとたわいもないお喋りをする。

「しづくちゃんのお茶ー!はやくはやく!」
お湯が沸いて、お茶を淹れる。
十四松くんはココア、わたしはティーバックのアッサム。お湯をいれただけのココアのカップを十四松くんの前に置くと、彼自身でスプーンをくるくると回す。
十四松くんとティータイムを過ごせるなんて、なんて幸せなのだろう。いつもは野球のユニフォーム姿なのに、今日は水色のスーツ姿。普段と違う彼にかなりどきどきしてしまう。

「じゃ、いただきまーす!」
といったそばからココアを一飲みして、
「おかわり!」

んー、十四松くんに、ムードとか考えてもらう方が無理なのか。

まあ、いいか。
こんな十四松くんも、わたし好きだもの。

「十四松くん、落ち着いてね」
「はーい!落ち着く!!」
二杯目のココアは、のんびりと。
「おいしーね!」
にっこり十四松くんと、買ってきたプチクリスマスケーキを頬張って。
ああ幸せ!
「ねー、しづくちゃん」
「なんですか?」
「来年のクリスマスは、しづくちゃんのお手製ケーキが食べたいな」
「は…?!」
お菓子を作るのは好きだけど、クリスマスケーキは…!
「ね、食べたいなあ、しづくちゃんのケーキ」
「が、頑張ります」
「うん!」
来年の今頃も、十四松くんと一緒に花火を見れるように。ケーキ作るの練習しておこう。
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