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「さっき何話してたんですか?」

 お盆を目前にした夏休み真っ只中ともなれば、大学近くに立地するこのコンビニも客入りはずいぶんまばらになる。店内には一人も客がおらず、のんびりとした時間だった。外の暑さはまだまだ引かないが、空は昼時の青さも薄れぼんやりと白みがかっている。

 おにぎりの廃棄チェックをしていたバイト仲間の白石がレジにいた俺に声をかけた。

「ほら、あの美青年」

 金髪碧眼、白皙の美青年。一目で日本人ではなさそうだとわかる。細身でありながら、180近いであろう長身はあの容姿に加え当たり前だが目立っていた。バイト仲間の間でも有名人な彼に、俺は今日初めて話しかけられた。記念すべき第一声はと言えば。

「ナンパされてた」
「ほ?」
「月に行こうってさ」
「なんじゃそれ」

 茶色いポニーテールを揺らしてこちらを振り返った白石がぽかんとしている。俺もそのアホ面をついさっき彼に向けてしまったところだ。

「あれじゃね? ほら、月が綺麗ですねと言い間違えたんじゃん?」
「謎すぎるでしょ」

 俺もそう思う。

「だいたい、なぜに御影さんに告白? しかも夏目漱石?」
「さぁ、日本文化の勉強じゃない? ほら俺、お手本のような日本人顔だから」

 この時は白石と一緒にケラケラと笑っていたものだ。俺が美青年にナンパ(仮)されたことは瞬く間にグループラインへと拡散された。

 帰り道、今度は家の前で真っ白の青年を拾った。ずいぶんとデカい。蛍光灯の光の下でもきらきら光る金髪はシルクのように綺麗で、見上げる瞳はびっくりするほど透き通った青だった。

「こんばんは」
「はい、こんばんは」

 あら、挨拶できて偉いわね。そこ、人んちの目の前ですけど。

「おかえり、御影」
「……た、だいま?」

 鍵穴に鍵をさし込んでいれば、背中がぞっと冷えた。やけに体温の低い男が後ろから俺を抱きすくめ、首筋に唇を押し当てている。
 冷たい温度とは裏腹に、慣れない外国の挨拶はやけに情熱的らしい。



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