A day
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とんでもないことをしでかした。
目を閉じれば昨日の光景が浮かんでしまって、一睡もできていない。学校もサボり、もはや今日一日をどこでどう過ごしていたのかの記憶もない。
謝って、謝礼金を。でもそんな、お金で解決なんて。
怖い。バレたくない。軽蔑されたくない。恥だ。
浮かぶすべての理由が利己的で余計に気分が悪くなる。
だから、幼い無垢な声が聞こえた時、ゾッとしたのだ。
バレたのか。
「どうしたの?」
賑やかな小鳥のような可愛らしい声だった。膝に伏していた顔を上げれば、膝小僧に傷をつけた小学生が立っていた。手に持った体操着入れの手提げを地面に引きずっている。汚れた手提げは今にも穴が開きそうだ。余計なおせっかい心が顔を出したが、どうこう言える心の余裕はなかった。
見上げると小学校低学年くらいの男の子がじ、とこちらを見つめていた。そのあまりの無垢な瞳に昨夜の出来事がフラッシュバックしてしまう。
「だいじょうぶ?」
「っ……っ、」
「先生、呼ぶ?」
「…………ひどい、ことをした」
「そうなの?」
少年はきょとんと首を傾げた。頭の上にはてなマークを浮かべながらも、少し眉を顰めている。俺の気持ちを、傷付いた他人の気持ちを慮れる子だった。
「謝っても許されない、とんでもないことをした……」
従妹をレイプした。大きな意味があったわけではない。
ただ、苛々してしまって嫌がることをしたいと思った。嫌な奴だったから。どうしても嫌いな奴だったから。揶揄われ馬鹿にされ続けることに耐えられなくなってしまった。
相手の怯えようは予想を遥かに上回った。なんだ、こうすればこいつは無力になるのか。そう思った。
だけど、事が済んだ後、彼女は発狂するだけで意味のある言葉を一切口にできなくなった。そこで初めて自分のしでかしたことの重大さに気がついてしまった。
一時的なものかもしれない。そうであったらいい。いや、そうなってしまったら困る。自分が彼女に何をしたのかがバレてしまうから。
「どうしよう……どうしよう……」
「ごめんねって言えばいいよ」
「そんな言葉じゃ許されない!!」
大きな声が出てしまった。びくっと震えた子どもが俯いて、窺うように俺を見る。怯えているのが分かって、ひくつく頬で笑いかけた。
「お、驚かせちゃったね……ごめん……」
「お兄さん、だいじょうぶ?」
「…………」
膝に手を当てて屈み、俺と目を合わせる子どもは健気で優しくて、愛らしくて。昨日犯した女の体とかけ離れていることにひどく安心していた。
小さな手足、くびれのない未発達の体、日焼けした小麦色の肌、肌の表面には産毛くらいしか生えていない。
何も知らない、何も理解できない、そんなまだ情緒の芽生えて間もない生命に泣きつきたい衝動に駆られる。
「そんなにひどいことしたの?」
「うん……うん……」
「じゃあ俺にも同じことしていいよ。絶対怒らないから。俺は絶対泣かないもん」
「え……」
顔を上げれば、澄んだ焦げ茶色の目と目が合った。
俺を許すの?
あんなことをした俺を?
「俺、叩かれても泣かないよ。転んでも泣かないよ。ほら、これはね」
血の滲んだ絆創膏を少年は誇らしげに指さした。
「逆上がりを練習してたら手を離しちゃって落っこちちゃった時にできたんだ。痛かったけど、俺泣かなかった!」
「は、はは……そっか、えらいね。すごい」
「へへ」
「俺は……俺は泣いちゃうかも」
「大丈夫だよ」
ニッと笑いかけられる。そんな風に笑えるんだ。すごい、綺麗だ。
絶対に傷つけない。この子を大切にしよう。この子に持てる全てを尽くそう。宝物を宝石箱に仕舞い込むように。罪を塗り替えるように。
「名前を教えて」
「山吹夕陽」
綺麗な名前だ。
山吹みたいに溌溂とした橙、眩しくて温かい夕陽だ。
「俺は星河だよ。星河珂雁」
夕陽の頬に手を伸ばした。なめらかでマシュマロみたいに柔らかい肌に俺の指が吸いついていく。さらりとした肌は子どもならではの少し高い温度だったが、汗ばむほどの熱じゃない。優しい体温だった。
とんでもないことをしでかそうとしている。
見つかるわけにはいかない。絶対に。
この子が欲しい。この子を連れて行きたい。
見つかるわけにはいかない。取られるわけにはいかない。
「呼んでみて、夕陽。俺は珂雁」
――A day………
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