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「マルボロメンソール8ミリ」

 チャラいバンドマンみたいな大学生バイトに堂々とXLのゴムを会計してもらう。なんか新手のセクハラでもしてるみたいだ。
 嫌がらせに一番小さいサイズにでもしてやればよかったかもしれない。あのクソデカいブツにぱっつんぱっつんになって入りきらないところを想像したら笑えてきた。はは、カッコ悪。いいじゃん。

 ていうかちゃんと折本のサイズに合うようなゴム選ぶ俺、偉くない? だって別に誰が使うとは言ってないわけで。別に俺が使うわけでもないけれど。悲しいことに相手もいなければ出会いもない。思い切って風俗にでも行ってみようか。運動だ、運動。豚になっちゃうからな。

 しかしそれならわざわざマルボロ頼まなければよかったな。まぁ俺は吸わないけど。ただの嫌がらせだ。
 つっても折本が吸う煙草しか名前を知らない。なんで俺が興味もない煙草の銘柄暗証できちゃってんだよ。あー腹立つ。

 煙草とゴムを同じ袋に入れてもらって、お釣りで買った缶ビールをガチャガチャ言わせながら夜のコンビニを後にする。
 都会の夜空は煤けて、星なんて1つも見えなかった。

 帰ったらまだいんのかな、あの女。

 どうせもう会うこともないだろうし、だったら逆にじろじろ見てやってもよかったか?
折本の相手の中でもかなり顔がいい方だった。俺みたいな顔は平凡、それどころか職もない人間には一生手の届かない存在だろう。胸もでかかったしな。今更ながら悔やまれる。

「たでーま」

 またイチャコラ再開してんのかと思ったら腹が立ったから、せいぜい邪魔でもしてやろうかとドアノブに手をかけた。が、思い直して控えめに開ける。もう真夜中だ。けたましくドアを開ければ近所迷惑になってしまう。ちゃんと周りに気が使える俺、超大人。気遣いのできる俺超かっこいい。

「おー、おけーり」

 リビングで俺を迎えたのは折本1人だった。全裸から今度はパンツ一丁にランクアップしてる。どこのバトルゲームのチュートリアルだよ。クッソ腹筋が眩しい。なんでそんないい体してるの?
 なんて思いながら辺りをキョロキョロと見回す。

「あれ、彼女帰っちゃったの?」
「あぁ、だってこの時間だぜ?」

 だからだよ。なんつー時間に女の子1人で帰らせてんだよ。

「泊めたくないし」

 一周回ってすげーなこいつ。マジでヤるためだけにしか女呼んでねぇ。

「あっ、なんだよこれかー。お前一番安いゴムにしたろ。これあんま好きじゃねーんだよなぁ」

 机に置いたコンビニの袋をがさがさとひっかきまわした折本が文句を垂れる。そんなことを言うなら自分で行け。
 缶ビールのプルトップをひくと小気味いい音が響いた。あまり立ち寄らないリビングで、ふかふかのソファに身を沈める。他人の金で飲む酒はうめーなぁ。
 折本はぼけっとした顔で俺が買ってきたばかりの煙草に火をつけていた。

「今日の子可愛かったっしょ」
「左様で」
「タイプじゃない?」
「いいと思いますよ」
「ふーん……つまんね」

 重々しくそうため息をこぼすが、他になんて言ったらよかった。つまんないならそもそも聞くなよって話だ。どうせ気に入ってもヤリ捨てすんだろ。イケメンは得だね。そんなクズでも許される。

「でもなぁ、ちょっと喘ぎ声がうっさかった」

 ふーっと口をすぼめて煙を吐き出す。換気扇を回してないから俺のところまで煙が届いた。むふん、煙い。

「まじそれ」

 うるさいことこの上ない。なんて思ったが、それはいつものことだった。別に今日に限ったことじゃない。

「あとあれだなーやたら積極的でちょっと引いた」

 それは知らん。

「俺あんまフェラされんの好きじゃないんだよねー」

 余計知るかよ。

「はーあ……なんかこう、もっとぐあーっどばーって感じで気持ち良くなりてぇなぁ」
「キメてくれば?」
「犯罪に手は出さん」
「それはいいことで」
「だろ?」

 くつくつ笑った折本がにやりと俺に目をむけた。

「真崎は止めてくれるだろ?」
「俺の信条は清く正しく正義をふるう、だからな」

 キラッとキメ顔で言ってやればツボに入ったらしい折本が腹を抱えて笑っていた。
 まぁニートが言うことじゃないわな。俺もそう思う。



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