彼の瞳は静かに煌めいていた。夕方と夜の狭間、世界の闇を静かに見守る恒星のごとく。炎のような熱さも氷のような冷静さも併せ持った武士を思わせる佇まいで、初対面の私を真っ直ぐに見据えていた。
その漆黒の短髪もスーツもコートも。あるべき場所にスッキリと収まり、喜んでいるかのような佳麗さで満ちている。

事前に知り得ていた名前さえも美しいと感じていたけれど、見た目まで洗錬されているとは恐れ入る。新人さんを指導するという名目を忘れてしまいそうになった。

「夕神迅って、繊細で綺麗なお名前ですよね」
「はァ?」

仕事の話よりも前に単純な賞賛を口にした私を前に、その綺麗なひとは目を瞬かせた。ぱちくりと幾度も瞼を動かしながら怪訝そうな顔をする。だって、褒めずにはいられなかったんだもの。

夕暮れ時に世界を司る神様みたいな名前だなあ。疾風のごとく己の使命を全うし、時には正義のために迅雷を生み出すような豪胆なひとなのかも。
なんて、子どもみたいに想像した印象とまるで違わないひとが目の前に現れるだなんて、思ってもみなかったから。

「真面目な検事のセンパイって話を聞いて来たんだが、こりゃ眉唾物だったか」
「これでも普段は真面目なんですけどね。夕神さんを前にしたらダメだったみたいです」
「……ますます訳が分からねェんだが」

深々と息を吐かれてしまった。呆れたような色を浮かべた顔さえも綺麗でつい微笑んでしまう。ただ、さすがにこれ以上職務を疎かにする訳にはいかない。

「それでは、今度ご担当頂く事件についてなのですが……」
「名前」
「え?」
「おめえさんの名前、自分の口できちんと教えてくれねェのかい」

三日月のように唇に描かれた弧が、私の名を求めている。事前に知っている筈なのにと不思議に思いつつも、湧き上がる嬉しさのままはにかんだ。

「苗字と申します。夕神さん」
「苗字名前サン、だろ」
「やっぱり知っているじゃないですか」
「そんなことより、俺のどこが繊細だってんだァ?」

そんな印象は薄れただろう、と確信をもったような口ぶりに笑ってしまう。表情も声音も言葉尻も仕草も、あなたの全てに美しさを感じているだなんて、このひとは想像さえしていないのだろうか。

「全て、ですよ。夕神さん」

ぱちり、と再び瞳が瞬く。彼は一瞬ふわりと優しく笑った。流れ星を想起させる無二の煌めきを浴びて、胸に月が落っこちたような心地になる。何故だか無性に泣きたくなるくらい、言葉にならない感情が込み上げた。

運命なんて言ったらチンケな言葉だと笑われるだろうけれど、私にとってはきっと運命の出逢いだった。しかしその認識は、あくまでも一方通行であった筈なのに。

今でも私は、あのどこまでも柔らかな光に溺れ続けていた。