光彩陸離な叱咤激励
変幻自在の高火力集団。そんな第一印象を持った烏野は、実に多彩で華のあるチームだった。
それぞれの個性がぶつかり合い、その時に出せる最高火力を惜しみなく曝け出す。壁にぶつかれば真正面から攻略法を試行錯誤し、強引に穴を食い破っては突破する。まさしく烏らしい雑食性だった。
攻守共に穴を無くし、チームとして丁寧にボールを繋いでいく音駒 とは対照的に見えた。けれど、一方でよく似ているとも思った。
たとえば、勝利に対する貪欲さが。常により高みを目指そうと粘り続ける向上心の強さが。勝負を楽しもうとする目映い程の好奇心が。
嗚呼、これが因縁であり運命なのだろうかと実感して、背筋がビリビリと痺れていく。
「……猫又監督」
「ん? どうした、苗字」
試合終了の笛が鳴り、一試合目は音駒の勝利で幕を閉じた。そこでようやく、自分の息が止まっていたことに気付く。
練習試合をここまで齧り付くように観戦したのは、もしかしたら初めての経験かもしれない。烏野の日向くんが私の気持ちを代弁するように次の試合を求めてくれたから、ついガッツポーズをキメてしまった。
この対戦をもっと見ていたかった。こんなにも心を震わせてくれる皆と出会えたことに、改めて感謝するばかりだった。
「私、次の試合で審判やりたいです!」
「うん。ずっとウズウズしてたし、苗字ならそう言うと思ったよ。いってきなさい」
「ありがとうございます! 芝山、次から任せて良い?」
「はい! 勿論です!」
頼もしい後輩に仕事道具を託しつつ、ドリンクとタオルを抱えて選手に駆け寄った。試合中は出来る限り邪魔しないよう黒子に徹するけど、練習試合の合間ならば少しは許されるだろう。
ニヤリと笑った黒尾と目が合った。
「みんなお疲れ! 最高だった!」
「オス、お疲れ。苗字、やっぱなんか今日テンション高くね?」
「うん! あまりにも楽しくて気分が昂ったから、今から審判やる!」
「ブハッ、子どもかよ」
「だって、皆のカッコイイ姿を審判として見守れる機会もなかなか無いし!」
全員に素早くドリンクとタオルを渡していく。水分補給を終えた夜久が、私の言葉を聞いて笑っていた。
「相手チームが気になるんじゃなくて、俺たちを見たいってのが苗字らしいよな」
「なにせ私、全国制覇するチームのマネージャーだからね。頂点に行くまでの軌跡はバッチリ近くで見守らなきゃ」
その場の空気がピリッと引き締まるのが分かった。皆が浮かべる笑顔の中に、より真剣な色が入り交じっていく。
サポートに徹するマネージャーがかけるのは、過度で無理な期待ではなく、着実で丁寧な信頼であるべきだ。
すなわち、無責任に頂点を目指せと野次を飛ばすのではなく、彼らの努力を余すところなく知った上で、実現の可能性があると提示する必要があるだろう。
強引に声を張り上げ、喉を枯らすだけの応援だけでは無力だと理解していたから。大切な選手に直接届ける言葉には、なるべく誠実な説得力を持たせたかった。
「今日もちゃんと近くで見てるから。みんな、頑張って」
拳を差し出せば、選手のほぼ全員から───孤爪はそのままマイペースに水分補給しててね───力強い拳が返ってくる。いつの間にか円陣のようになっていた。
「オウ!」
その場にいた音駒全員の声が重なった。随分と気合いが入った大声だったから、烏野さんがビクッと肩を揺らしたのが見えて小さく笑う。
「苗字も一緒にやるか? いつものやつ」
「いや。今から審判やるし、私 が血液になるのは解釈違いだから遠慮しとく」
本気のトーンで断る私を見て、夜久と海が吹き出した。
「何だよそれ」
「苗字らしくていいんじゃない?」
チームの一員として線引きはしたいからねと同級生たちに返しつつ、次の試合前に伝えておきたかったことを急に思い出す。モヒカン姿のエースとサッと目を合わせれば、ギョッとしたように何故か敬礼を返された。そのポーズは謎だが気にせずそのまま喋る。
「山本! 二セット目終盤の綺麗に決まったスパイク、めちゃくちゃカッコよかった! 低いドの音って感じで!」
「……ッ! あ、アザーッス!!」
「出たなー。苗字の対山本限定の褒め方」
「褒めたっていうか事実だからね。他の皆にもコメントしたいけど、そろそろ次の試合も始まるもんね! いってくる!」
ネット際に近付くと、待ちきれない様子でソワソワしていた烏野の鬼と金棒コンビに出会う。自然と目が合った。
日向くんは緊張したように全身を強ばらせた一方、影山くんは全く動じない様子で軽く頭を下げてくれる。プレイスタイルから想像していた態度と違ったのが面白くて、つい笑ってしまった。丁寧にお辞儀を返す。
「日向くんも影山くんも、速攻すごかったね! カッコよかった!」
「ホァッ!? 他校の美女マネージャーサンに話しかけられた……!? あ、アザッス……!?」
「どうも。音駒のセッターさんも凄かったですね」
「でしょ。うちのセッターはチームの要たる脳で、全ての戦略に必要不可欠な背骨で、常に戦局を引っくり返す可能性を秘めた心臓だからね」
「おぉ……! いいなあ! 研磨かっけえ……!」
そうこうしている内に、両陣が続々とコートに集まってきた。勝負が始まる前の空気感って良いなと、ワクワクしながら見守れるのがひどく幸せだった。
しかし、何故だか真っ先に孤爪がジト目で近寄ってくるので首を傾げる。
「……苗字さん、翔陽に色々めんどくさいこと言ったでしょ」
「え? 単にうちの子自慢してただけだけど」
「いやオカンか」
黒尾のツッコミはすっかりお決まりで、いつもの調子でつい喋り出してしまった。
「いやー違うけど、烏野さんもカッコよくて素敵だったから興奮しちゃうよね! 日向くんと影山くんの速攻は勿論、西谷くんと澤村くんの守備は丁寧で綺麗だったし、東峰くんと田中くんのスパイクは強力で痺れたし、攻守でクレバーな月島くんも知的でチームにとって良いスパイスだなって思ったし!」
「おーい苗字、烏野さんが引いてるからストップストップ」
黒尾に肩を叩かれる。ヤバい、久しぶりにやらかしてしまった。心臓からサッと血の気が引いていく。
「ご、ごめんなさい。余りにも素敵だったのでつい……! 時間も勿体ないのに申し訳ないです……!」
烏野さんのほぼ全員ポカンとした顔をしていたが、いの一番に澤村くんが動き出す。
「いえ、その全く気にしてないというか、むしろ嬉しいんですが。……俺たちの名前、知ってるんですか?」
「はい、試合前に清水さんから聞いたので。控えの皆さんのお名前も覚えてますよ。……って、本当に気持ち悪くてすみません! 始めましょう!」
選手たちの時間をこれ以上無駄にする訳にもいかない。空気を切り替えるために準備を整えてから、試合開始の笛を鳴らした。
結果、三試合目までずっと音駒が勝利し続けた。荒削りな部分も多い烏野は、かつて逆境にぶつかりながらもガムシャラに頑張っていた黒尾たちをも想起させる。だからこんなにも高揚感を掻き立てられるのだろうか。
「もう一回!!」
三試合目の終了直後、日向くんがまたもや全力で叫ぶ。元気が良くて好きなことに真っ直ぐで、次に何をしてくるか分からない面白い子だなあと思う。だからこそ孤爪とも相性が良いんだろう。
「日向くん、その気持ち物凄く分かる! 私も次が見たい……!」
「苗字さん……!」
ガシッと握手を交わした。試合の合間に同じテンションで話しかけていたらすっかり慣れてくれたようで───他の皆は殆どバテていたから必然的に会話が増えた───、この短時間でだいぶ距離が縮まった気がする。
「何でそこが意気投合してんの……?」
すっかり息絶え絶えの黒尾が、ネットに指をかけながら言う。その場にいた全員の視線がこちらに集中していたから、私も自信満々に答えた。
「だって日向くん、いい子だし! すごく話しやすいから!」
「い、いい子……!」
「オイ日向、調子に乗んなよボゲェ」
「影山くんもいい子だよね。二人ともベクトルの違う素直さがあるというか」
「……!?」
「……、……!?!?」
「え。そんな二人同時に戸惑うことある?」
もはや何も言葉になっていないし、あまりにもギョッとした顔をしてて面白かった。褒められ慣れてないのかな、と思うと可愛い。
「ただ、そろそろ帰りの時間だし片付けも始めないとね。残念だけど! 非常に残念で仕方がないんだけど……!」
「マネージャーさーん、先ほど自慢してたお宅のセッター が今にも死にそうなんですが?」
「え! なら孤爪の分まで働こう、キャプテン!」
「苗字ほんっと今日はテンション高いね!? いや働くけどさ!」
またねと烏野さんたちに手を振った後、床に仰向けで伸びている孤爪に駆け寄る。熱中症になっている様子もないし単純な疲労だろう。
アイシング用の氷を持ってきて傍に置くと、ゆっくりした動きで腕に当て始めた。オーバーワークの時は直後のアイシングによって疲労回復の度合いが変わるから、他の皆にも配らないと。
「孤爪、立てそう?」
「……うん」
我らが脳 に手を貸して、一緒にチームメンバーのもとへ歩いていく。
途中でパッと目が合った夜久が険しい顔をしながら駆け寄って来るのを見て、ついピンと痛いくらい背筋が伸びた。あ、やばい。久しぶりに怒られるかも。
「苗字、はしゃぎすぎ。タイムキープも審判の仕事だろ」
「はい……面目次第もございません……」
本来ならば日向くんを宥めて片付けを率先して促すべき立場なのに、楽しすぎて一緒にはしゃいでしまった。確かな事実で大きな反省点だ。孤爪が隣で「あーあ」とでも言いたげな呆れた顔をしている。
「反省してるならよし」
「うん。ありがと、夜久。……不謹慎なんだけどちょっと嬉しい」
「ん?」
「叱ってくれる人がいるの、良いなって思って」
「……そーかよ」
そもそも夜久を好きになったのも、優しく甘やかすだけじゃなくて、きちんと真正面から叱ってくれる人だからだし。もちろんそれだけじゃないし、今回は真摯に反省しているけども。
「あのさ、俺を挟んで青春しないでくれる?」
「あ、孤爪が疲れてキレ倒すモードに入ってる。休ませないと」
こうして、二年以上楽しみにしていた練習試合は幕を閉じた。今までの人生の中でも特に鮮烈で赫赫たる、思い出深く輝かしい一日だった。
それぞれの個性がぶつかり合い、その時に出せる最高火力を惜しみなく曝け出す。壁にぶつかれば真正面から攻略法を試行錯誤し、強引に穴を食い破っては突破する。まさしく烏らしい雑食性だった。
攻守共に穴を無くし、チームとして丁寧にボールを繋いでいく
たとえば、勝利に対する貪欲さが。常により高みを目指そうと粘り続ける向上心の強さが。勝負を楽しもうとする目映い程の好奇心が。
嗚呼、これが因縁であり運命なのだろうかと実感して、背筋がビリビリと痺れていく。
「……猫又監督」
「ん? どうした、苗字」
試合終了の笛が鳴り、一試合目は音駒の勝利で幕を閉じた。そこでようやく、自分の息が止まっていたことに気付く。
練習試合をここまで齧り付くように観戦したのは、もしかしたら初めての経験かもしれない。烏野の日向くんが私の気持ちを代弁するように次の試合を求めてくれたから、ついガッツポーズをキメてしまった。
この対戦をもっと見ていたかった。こんなにも心を震わせてくれる皆と出会えたことに、改めて感謝するばかりだった。
「私、次の試合で審判やりたいです!」
「うん。ずっとウズウズしてたし、苗字ならそう言うと思ったよ。いってきなさい」
「ありがとうございます! 芝山、次から任せて良い?」
「はい! 勿論です!」
頼もしい後輩に仕事道具を託しつつ、ドリンクとタオルを抱えて選手に駆け寄った。試合中は出来る限り邪魔しないよう黒子に徹するけど、練習試合の合間ならば少しは許されるだろう。
ニヤリと笑った黒尾と目が合った。
「みんなお疲れ! 最高だった!」
「オス、お疲れ。苗字、やっぱなんか今日テンション高くね?」
「うん! あまりにも楽しくて気分が昂ったから、今から審判やる!」
「ブハッ、子どもかよ」
「だって、皆のカッコイイ姿を審判として見守れる機会もなかなか無いし!」
全員に素早くドリンクとタオルを渡していく。水分補給を終えた夜久が、私の言葉を聞いて笑っていた。
「相手チームが気になるんじゃなくて、俺たちを見たいってのが苗字らしいよな」
「なにせ私、全国制覇するチームのマネージャーだからね。頂点に行くまでの軌跡はバッチリ近くで見守らなきゃ」
その場の空気がピリッと引き締まるのが分かった。皆が浮かべる笑顔の中に、より真剣な色が入り交じっていく。
サポートに徹するマネージャーがかけるのは、過度で無理な期待ではなく、着実で丁寧な信頼であるべきだ。
すなわち、無責任に頂点を目指せと野次を飛ばすのではなく、彼らの努力を余すところなく知った上で、実現の可能性があると提示する必要があるだろう。
強引に声を張り上げ、喉を枯らすだけの応援だけでは無力だと理解していたから。大切な選手に直接届ける言葉には、なるべく誠実な説得力を持たせたかった。
「今日もちゃんと近くで見てるから。みんな、頑張って」
拳を差し出せば、選手のほぼ全員から───孤爪はそのままマイペースに水分補給しててね───力強い拳が返ってくる。いつの間にか円陣のようになっていた。
「オウ!」
その場にいた音駒全員の声が重なった。随分と気合いが入った大声だったから、烏野さんがビクッと肩を揺らしたのが見えて小さく笑う。
「苗字も一緒にやるか? いつものやつ」
「いや。今から審判やるし、
本気のトーンで断る私を見て、夜久と海が吹き出した。
「何だよそれ」
「苗字らしくていいんじゃない?」
チームの一員として線引きはしたいからねと同級生たちに返しつつ、次の試合前に伝えておきたかったことを急に思い出す。モヒカン姿のエースとサッと目を合わせれば、ギョッとしたように何故か敬礼を返された。そのポーズは謎だが気にせずそのまま喋る。
「山本! 二セット目終盤の綺麗に決まったスパイク、めちゃくちゃカッコよかった! 低いドの音って感じで!」
「……ッ! あ、アザーッス!!」
「出たなー。苗字の対山本限定の褒め方」
「褒めたっていうか事実だからね。他の皆にもコメントしたいけど、そろそろ次の試合も始まるもんね! いってくる!」
ネット際に近付くと、待ちきれない様子でソワソワしていた烏野の鬼と金棒コンビに出会う。自然と目が合った。
日向くんは緊張したように全身を強ばらせた一方、影山くんは全く動じない様子で軽く頭を下げてくれる。プレイスタイルから想像していた態度と違ったのが面白くて、つい笑ってしまった。丁寧にお辞儀を返す。
「日向くんも影山くんも、速攻すごかったね! カッコよかった!」
「ホァッ!? 他校の美女マネージャーサンに話しかけられた……!? あ、アザッス……!?」
「どうも。音駒のセッターさんも凄かったですね」
「でしょ。うちのセッターはチームの要たる脳で、全ての戦略に必要不可欠な背骨で、常に戦局を引っくり返す可能性を秘めた心臓だからね」
「おぉ……! いいなあ! 研磨かっけえ……!」
そうこうしている内に、両陣が続々とコートに集まってきた。勝負が始まる前の空気感って良いなと、ワクワクしながら見守れるのがひどく幸せだった。
しかし、何故だか真っ先に孤爪がジト目で近寄ってくるので首を傾げる。
「……苗字さん、翔陽に色々めんどくさいこと言ったでしょ」
「え? 単にうちの子自慢してただけだけど」
「いやオカンか」
黒尾のツッコミはすっかりお決まりで、いつもの調子でつい喋り出してしまった。
「いやー違うけど、烏野さんもカッコよくて素敵だったから興奮しちゃうよね! 日向くんと影山くんの速攻は勿論、西谷くんと澤村くんの守備は丁寧で綺麗だったし、東峰くんと田中くんのスパイクは強力で痺れたし、攻守でクレバーな月島くんも知的でチームにとって良いスパイスだなって思ったし!」
「おーい苗字、烏野さんが引いてるからストップストップ」
黒尾に肩を叩かれる。ヤバい、久しぶりにやらかしてしまった。心臓からサッと血の気が引いていく。
「ご、ごめんなさい。余りにも素敵だったのでつい……! 時間も勿体ないのに申し訳ないです……!」
烏野さんのほぼ全員ポカンとした顔をしていたが、いの一番に澤村くんが動き出す。
「いえ、その全く気にしてないというか、むしろ嬉しいんですが。……俺たちの名前、知ってるんですか?」
「はい、試合前に清水さんから聞いたので。控えの皆さんのお名前も覚えてますよ。……って、本当に気持ち悪くてすみません! 始めましょう!」
選手たちの時間をこれ以上無駄にする訳にもいかない。空気を切り替えるために準備を整えてから、試合開始の笛を鳴らした。
結果、三試合目までずっと音駒が勝利し続けた。荒削りな部分も多い烏野は、かつて逆境にぶつかりながらもガムシャラに頑張っていた黒尾たちをも想起させる。だからこんなにも高揚感を掻き立てられるのだろうか。
「もう一回!!」
三試合目の終了直後、日向くんがまたもや全力で叫ぶ。元気が良くて好きなことに真っ直ぐで、次に何をしてくるか分からない面白い子だなあと思う。だからこそ孤爪とも相性が良いんだろう。
「日向くん、その気持ち物凄く分かる! 私も次が見たい……!」
「苗字さん……!」
ガシッと握手を交わした。試合の合間に同じテンションで話しかけていたらすっかり慣れてくれたようで───他の皆は殆どバテていたから必然的に会話が増えた───、この短時間でだいぶ距離が縮まった気がする。
「何でそこが意気投合してんの……?」
すっかり息絶え絶えの黒尾が、ネットに指をかけながら言う。その場にいた全員の視線がこちらに集中していたから、私も自信満々に答えた。
「だって日向くん、いい子だし! すごく話しやすいから!」
「い、いい子……!」
「オイ日向、調子に乗んなよボゲェ」
「影山くんもいい子だよね。二人ともベクトルの違う素直さがあるというか」
「……!?」
「……、……!?!?」
「え。そんな二人同時に戸惑うことある?」
もはや何も言葉になっていないし、あまりにもギョッとした顔をしてて面白かった。褒められ慣れてないのかな、と思うと可愛い。
「ただ、そろそろ帰りの時間だし片付けも始めないとね。残念だけど! 非常に残念で仕方がないんだけど……!」
「マネージャーさーん、先ほど自慢してたお宅の
「え! なら孤爪の分まで働こう、キャプテン!」
「苗字ほんっと今日はテンション高いね!? いや働くけどさ!」
またねと烏野さんたちに手を振った後、床に仰向けで伸びている孤爪に駆け寄る。熱中症になっている様子もないし単純な疲労だろう。
アイシング用の氷を持ってきて傍に置くと、ゆっくりした動きで腕に当て始めた。オーバーワークの時は直後のアイシングによって疲労回復の度合いが変わるから、他の皆にも配らないと。
「孤爪、立てそう?」
「……うん」
我らが
途中でパッと目が合った夜久が険しい顔をしながら駆け寄って来るのを見て、ついピンと痛いくらい背筋が伸びた。あ、やばい。久しぶりに怒られるかも。
「苗字、はしゃぎすぎ。タイムキープも審判の仕事だろ」
「はい……面目次第もございません……」
本来ならば日向くんを宥めて片付けを率先して促すべき立場なのに、楽しすぎて一緒にはしゃいでしまった。確かな事実で大きな反省点だ。孤爪が隣で「あーあ」とでも言いたげな呆れた顔をしている。
「反省してるならよし」
「うん。ありがと、夜久。……不謹慎なんだけどちょっと嬉しい」
「ん?」
「叱ってくれる人がいるの、良いなって思って」
「……そーかよ」
そもそも夜久を好きになったのも、優しく甘やかすだけじゃなくて、きちんと真正面から叱ってくれる人だからだし。もちろんそれだけじゃないし、今回は真摯に反省しているけども。
「あのさ、俺を挟んで青春しないでくれる?」
「あ、孤爪が疲れてキレ倒すモードに入ってる。休ませないと」
こうして、二年以上楽しみにしていた練習試合は幕を閉じた。今までの人生の中でも特に鮮烈で赫赫たる、思い出深く輝かしい一日だった。