会うは別れの始めなり
「苗字さん、今日は楽しそうでしたね」
「すみません……。ずっと楽しみにしていたので、つい童心に帰ってしまいまして……」
ドリンクボトルを洗うために合流すると、清水さんは悪戯っぽく微笑みながら出迎えてくれた。田中くんが褒めちぎって神格化している様子は何となく分かっていたけど、成程たしかに大人びていて目を惹かれる綺麗な女の子だなと感動する。
等身大の男子高校生はこういう子に憧れるんだろうなと少し切なく感じるけど、ないものねだりしたって始まらないし、私は音駒の一員でいられるだけで幸せだから。
でも夜久、華奢で清潔感のある可愛い子がタイプらしいからな。……今日の私、子どもっぽすぎて真逆の存在じゃなかったっけ。汗もかきまくってるし。いや、今の私はマネージャーでしかないんだし、気にしても仕方がないんだけど。
「良かったら、私にも日向みたいに接してください。同い年のマネージャーさんとお話しする機会、今まで全然なかったので。嬉しくて」
「え! 本当ですか。嬉しいな、それじゃお言葉に甘えて」
「ん。なら名前ちゃんで」
「了解、潔子ちゃん」
そっと笑い合う。普段から男子部員に囲まれていると、こんな風に穏やかな雰囲気になることは滅多にないから少し照れくさい。
まだ洗い終わるまでに時間がかかりそうだし、せっかくなので仲良くなるためにお喋りしちゃおうと口を開く。
「潔子ちゃんは、中学時代からバレーに関わってたの?」
「ううん、私は高校で澤村に誘われて初めて触れたよ。名前ちゃんは?」
「私も同じ。夜久……リベロの三番に誘われて。お揃いだ」
「……名前ちゃんは、部員と仲が良いよね」
「まあ、私がつい甘えちゃうことも多いからねー。潔子ちゃんは、頼り甲斐があって理想のマネージャーって感じで素敵だなと思ったよ! 仕事も誠実にテキパキこなすし。カッコよかった」
「カッコイイ?」
「うん! あ、女の子相手だと失礼だったかな……。申し訳ない……」
きょとんと目を丸くした後、潔子ちゃんはふっと柔らかく笑ってから頷いた。
「いいね、それ。そう言える名前ちゃんもカッコイイと思う。……あと、実はね」
「うん?」
「部員と仲が良くて、応援の仕方も素敵な名前ちゃんのこと、羨ましいなって感じてた」
「あ、それも同じく。潔子ちゃん、冷静で知的に周りを鼓舞できる上に華があって仕事も丁寧だし、敵わないなって思ってた」
「……隣の芝生は青いね。やっぱり」
「だね。……勿論、私にも音駒マネとしてのプライドはあるけど、烏野のマネは潔子ちゃんにしか出来ないと思う。でしょ?」
「……うん。そこはお互い様だね。ありがと」
「こちらこそ。さて、こっちはキリよく終わったし烏野さん分も手伝っていい?」
「うん、助かる」
そのまま効率を重視して二人で行動していると、体育館のあちこちから視線を感じた。高校生でマドンナ的な扱いをされるマネージャーって、本当にいるんだな。凄いなと感動する。
片付けが終わっているか確認すべく周囲を見回すと、今まさに倉庫から出てきた様子の西谷くんと目が合った。お互いギョッとしたのが分かる。……推している有名人に出会ったファンのような気持ちになって、つい心が浮き立ってしまった。
やはり護りの音駒でマネージャーをしているだけあって、どのチームでもリベロに注目してしまうし、贔屓目抜きでうちがナンバーワンだと自負していたけど。
今まで見てきた中でも、西谷くんは技術面でも精神面でも群を抜いた選手だと感じた。マネージャーとしても一個人としても純粋にお話がしてみたかったし、あと叶うならばサインも頂きたかった。
───苗字、もしマジで行くなら一人で行くなよ。誰でもいいから呼べ。
改めて周囲を見回せば、烏野と音駒がチームの垣根を越えて交流していて微笑ましい。夜久も菅原くんや海と話を続けているし、わざわざ呼ぶ程じゃないよねと判断する。
「潔子ちゃん、西谷くんにサインもらいに行っていいと思う?」
「え……? いいと思う、けど」
「それじゃ私ちょっと行ってくるね! またあとで!」
「ふふ。うん、またね」
笑って見送ってくれた姿に手を振って、真っ直ぐに目的地へと向かう。その間にジャージのポケットに手を入れて、目的の物がちゃんとあるかどうか確認した。
「西谷くん、突然すみません! 音駒マネの苗字と申しますが!」
「あ……ッ!」
一瞬ギョッとしたように肩が震えてから顔を背けられたので、山本と似た性質の子かと推測したけど。気合いを入れるように両手でバチンと両頬を叩いた後、しっかりと目線を合わせてくれる。
「はい! 翔陽と仲良くしてくれてたマネージャーさんですよね! 笑顔がめっちゃ可愛いなと思ってました!」
ほんの少し赤い顔に浮かぶ眩しい笑顔と、ダイレクトな褒め言葉に飛び上がる。……実は知られてないだけで、リベロって男前しかなれないポジションなんだろうか。顔が熱くなるのが分かって心底恥ずかしい。
潔子ちゃんの時も含め、日向くんと距離が縮まったお陰でコミュニケーションがスムーズに進むことが多いので、感謝しきりだ。あとで御礼をせねばと決意する。
「あの、西谷くん! 良かったらサインください!」
「え、……俺の? 勿論いいッスけど! 何に書けばいいですかね?」
「こちらのノートにお願いしたく……!」
「オイ苗字、誰でもいいから呼べっつったの忘れたか?」
背後から、低く怒りを帯びた声で呼ばれたので飛び上がる。ぎこちなく振り返った先にいた夜久は完全にキレていた。あれ、そんなに重たい約束だったのか。というかさっきまで遠くにいたじゃん。
「ご、ごめん夜久……。邪魔しちゃ悪いかなと思って」
「苗字はむしろ色々一人でやりすぎなんだよ。もっと頼れ。何のために俺たちがいると思ってんだ」
「……うん、ありがと。で、結局西谷くんにサインもらっていい?」
「お前なあ……。勿論いいよ。西谷さん、苗字が突然すみません」
「いや、俺も嬉しいッスから! こうして夜久さんと話す機会も出来ましたし」
「世界に誇るべき男前凄腕リベロ同士の会話……!」
「……苗字うるせえ」
勝手に一人で興奮していると、夜久に頭を軽く小突かれる。驚く程に全く痛くなかったけど。
その直後、無事にサインをもらったので大事に抱えた。名前さんへって名前まで書いてもらったので、つい情けなく笑ってしまう。
でも一番嬉しかったのは、西谷くんと夜久がお互いの名前を親しげに呼び始めてくれたことだ。
「西谷くん、本当にありがとう……! 宝物にします! これからも応援してます!」
「アザーッス!」
「いやファンか」
「ファンだよ! あのー、西谷くんと夜久が一緒に映ったお写真を撮らせて頂いても……?」
記録用に持ち歩いていたカメラを取り出せば、西谷くんからは笑顔が、夜久からは渋い顔が返ってくる。
「……別にいいけど。条件が一つ」
「はい! 夜久さん、何でしょう!」
「苗字と俺の写真も撮れ」
「え。……ぐッ、分かった、二人の写真のためならば……!」
「……俺との写真、そんなに嫌かよ」
「だって夜久はいつでも超カッコイイけど、私は常に写真写りが良くないからさー」
「つべこべ言わずにさっさと撮れ」
「はい」
二人の写真を私が撮り、私たちの写真を西谷くんに撮影してもらう。感動に打ち震える私に今度は日向くんが元気よく話しかけてくれて、そのまま両校の撮影大会を開催する運びとなった。あまり時間も無かったから、両校の選手で即席ペアを作って一枚ずつ撮らせてもらう形だったけど。
「日向くん、今日は本当にありがと! 試合も超カッコよかったし楽しかったし、お陰様でたくさん素敵な経験が出来たし!」
「へへッ、俺も苗字さんと話せて楽しかった! あと貰ったプロテインバー超美味かった! です!」
「あ、いいよ別に敬語じゃなくて。私流の美味しい卵かけご飯のレシピ、あとでメールで送るね」
「……! アザーッス! あ、研磨だ!」
「いっておいでー。うちの孤爪と仲良くしてくれてありがとね」
ピョンッと高く飛び上がってから、ブンブンと手を振ってくれる姿は可愛らしい。詰め寄られた孤爪も、表情には出ていないけど嬉しそうだ。
あの二人を見ているとこちらまで元気が出るなと思いつつ、見慣れた赤いジャージの集団へと駆け寄る。海が微笑みながら出迎えてくれた。
「おかえり、苗字」
「ただいま、海。楽しかったね!」
「うん。楽しそうな苗字を見るのも面白かった」
「……年甲斐もなくはしゃいでごめん」
「むしろいつも周りに気を遣ってばかりなんだし、ワガママも言っていいと思うよ」
「えー。そうかな……」
「そうそう。なんだかんだ、夜久も黒尾も嬉しそうだったし」
「……あの二人ってほんと、面倒見が良すぎるというか、なんというか」
背後を見れば夜久は東峰くんと、黒尾は澤村くんとそれぞれ楽しそうにしている。夜久 が満遍なく色々な人と話す一方で、黒尾 は面白そうなからかい甲斐のある人を嗅ぎ分けにいっている印象だ。やはり性格は違うけど、それでも本質的に二人は似ている。
「せっかくだし今日撮ってくれた写真、帰りの新幹線でじっくり見たいな」
「もちろん! あ、車内で三年だけの写真も撮りたいかも」
「当然苗字も入るよね?」
「……入らなきゃダメ?」
「当たり前でしょ」
「海のガチトーン! かしこまりました!」
猫又監督の号令もあり、音駒は全員集合した。号泣しながら田中くんと別れを惜しむ山本に笑いながら、私も潔子ちゃんや日向くんをはじめ交流のあった面々に手を振る。最後は烏野さん全員に敬意を込めて、深々とお辞儀をした。
いつか再び出会うための別れって、こんなに爽やかな後味なんだ。人生ってまだまだ知らないことだらけだなと感動しながら、いつもより空高く感じる夕焼けを見上げた。
「すみません……。ずっと楽しみにしていたので、つい童心に帰ってしまいまして……」
ドリンクボトルを洗うために合流すると、清水さんは悪戯っぽく微笑みながら出迎えてくれた。田中くんが褒めちぎって神格化している様子は何となく分かっていたけど、成程たしかに大人びていて目を惹かれる綺麗な女の子だなと感動する。
等身大の男子高校生はこういう子に憧れるんだろうなと少し切なく感じるけど、ないものねだりしたって始まらないし、私は音駒の一員でいられるだけで幸せだから。
でも夜久、華奢で清潔感のある可愛い子がタイプらしいからな。……今日の私、子どもっぽすぎて真逆の存在じゃなかったっけ。汗もかきまくってるし。いや、今の私はマネージャーでしかないんだし、気にしても仕方がないんだけど。
「良かったら、私にも日向みたいに接してください。同い年のマネージャーさんとお話しする機会、今まで全然なかったので。嬉しくて」
「え! 本当ですか。嬉しいな、それじゃお言葉に甘えて」
「ん。なら名前ちゃんで」
「了解、潔子ちゃん」
そっと笑い合う。普段から男子部員に囲まれていると、こんな風に穏やかな雰囲気になることは滅多にないから少し照れくさい。
まだ洗い終わるまでに時間がかかりそうだし、せっかくなので仲良くなるためにお喋りしちゃおうと口を開く。
「潔子ちゃんは、中学時代からバレーに関わってたの?」
「ううん、私は高校で澤村に誘われて初めて触れたよ。名前ちゃんは?」
「私も同じ。夜久……リベロの三番に誘われて。お揃いだ」
「……名前ちゃんは、部員と仲が良いよね」
「まあ、私がつい甘えちゃうことも多いからねー。潔子ちゃんは、頼り甲斐があって理想のマネージャーって感じで素敵だなと思ったよ! 仕事も誠実にテキパキこなすし。カッコよかった」
「カッコイイ?」
「うん! あ、女の子相手だと失礼だったかな……。申し訳ない……」
きょとんと目を丸くした後、潔子ちゃんはふっと柔らかく笑ってから頷いた。
「いいね、それ。そう言える名前ちゃんもカッコイイと思う。……あと、実はね」
「うん?」
「部員と仲が良くて、応援の仕方も素敵な名前ちゃんのこと、羨ましいなって感じてた」
「あ、それも同じく。潔子ちゃん、冷静で知的に周りを鼓舞できる上に華があって仕事も丁寧だし、敵わないなって思ってた」
「……隣の芝生は青いね。やっぱり」
「だね。……勿論、私にも音駒マネとしてのプライドはあるけど、烏野のマネは潔子ちゃんにしか出来ないと思う。でしょ?」
「……うん。そこはお互い様だね。ありがと」
「こちらこそ。さて、こっちはキリよく終わったし烏野さん分も手伝っていい?」
「うん、助かる」
そのまま効率を重視して二人で行動していると、体育館のあちこちから視線を感じた。高校生でマドンナ的な扱いをされるマネージャーって、本当にいるんだな。凄いなと感動する。
片付けが終わっているか確認すべく周囲を見回すと、今まさに倉庫から出てきた様子の西谷くんと目が合った。お互いギョッとしたのが分かる。……推している有名人に出会ったファンのような気持ちになって、つい心が浮き立ってしまった。
やはり護りの音駒でマネージャーをしているだけあって、どのチームでもリベロに注目してしまうし、贔屓目抜きでうちがナンバーワンだと自負していたけど。
今まで見てきた中でも、西谷くんは技術面でも精神面でも群を抜いた選手だと感じた。マネージャーとしても一個人としても純粋にお話がしてみたかったし、あと叶うならばサインも頂きたかった。
───苗字、もしマジで行くなら一人で行くなよ。誰でもいいから呼べ。
改めて周囲を見回せば、烏野と音駒がチームの垣根を越えて交流していて微笑ましい。夜久も菅原くんや海と話を続けているし、わざわざ呼ぶ程じゃないよねと判断する。
「潔子ちゃん、西谷くんにサインもらいに行っていいと思う?」
「え……? いいと思う、けど」
「それじゃ私ちょっと行ってくるね! またあとで!」
「ふふ。うん、またね」
笑って見送ってくれた姿に手を振って、真っ直ぐに目的地へと向かう。その間にジャージのポケットに手を入れて、目的の物がちゃんとあるかどうか確認した。
「西谷くん、突然すみません! 音駒マネの苗字と申しますが!」
「あ……ッ!」
一瞬ギョッとしたように肩が震えてから顔を背けられたので、山本と似た性質の子かと推測したけど。気合いを入れるように両手でバチンと両頬を叩いた後、しっかりと目線を合わせてくれる。
「はい! 翔陽と仲良くしてくれてたマネージャーさんですよね! 笑顔がめっちゃ可愛いなと思ってました!」
ほんの少し赤い顔に浮かぶ眩しい笑顔と、ダイレクトな褒め言葉に飛び上がる。……実は知られてないだけで、リベロって男前しかなれないポジションなんだろうか。顔が熱くなるのが分かって心底恥ずかしい。
潔子ちゃんの時も含め、日向くんと距離が縮まったお陰でコミュニケーションがスムーズに進むことが多いので、感謝しきりだ。あとで御礼をせねばと決意する。
「あの、西谷くん! 良かったらサインください!」
「え、……俺の? 勿論いいッスけど! 何に書けばいいですかね?」
「こちらのノートにお願いしたく……!」
「オイ苗字、誰でもいいから呼べっつったの忘れたか?」
背後から、低く怒りを帯びた声で呼ばれたので飛び上がる。ぎこちなく振り返った先にいた夜久は完全にキレていた。あれ、そんなに重たい約束だったのか。というかさっきまで遠くにいたじゃん。
「ご、ごめん夜久……。邪魔しちゃ悪いかなと思って」
「苗字はむしろ色々一人でやりすぎなんだよ。もっと頼れ。何のために俺たちがいると思ってんだ」
「……うん、ありがと。で、結局西谷くんにサインもらっていい?」
「お前なあ……。勿論いいよ。西谷さん、苗字が突然すみません」
「いや、俺も嬉しいッスから! こうして夜久さんと話す機会も出来ましたし」
「世界に誇るべき男前凄腕リベロ同士の会話……!」
「……苗字うるせえ」
勝手に一人で興奮していると、夜久に頭を軽く小突かれる。驚く程に全く痛くなかったけど。
その直後、無事にサインをもらったので大事に抱えた。名前さんへって名前まで書いてもらったので、つい情けなく笑ってしまう。
でも一番嬉しかったのは、西谷くんと夜久がお互いの名前を親しげに呼び始めてくれたことだ。
「西谷くん、本当にありがとう……! 宝物にします! これからも応援してます!」
「アザーッス!」
「いやファンか」
「ファンだよ! あのー、西谷くんと夜久が一緒に映ったお写真を撮らせて頂いても……?」
記録用に持ち歩いていたカメラを取り出せば、西谷くんからは笑顔が、夜久からは渋い顔が返ってくる。
「……別にいいけど。条件が一つ」
「はい! 夜久さん、何でしょう!」
「苗字と俺の写真も撮れ」
「え。……ぐッ、分かった、二人の写真のためならば……!」
「……俺との写真、そんなに嫌かよ」
「だって夜久はいつでも超カッコイイけど、私は常に写真写りが良くないからさー」
「つべこべ言わずにさっさと撮れ」
「はい」
二人の写真を私が撮り、私たちの写真を西谷くんに撮影してもらう。感動に打ち震える私に今度は日向くんが元気よく話しかけてくれて、そのまま両校の撮影大会を開催する運びとなった。あまり時間も無かったから、両校の選手で即席ペアを作って一枚ずつ撮らせてもらう形だったけど。
「日向くん、今日は本当にありがと! 試合も超カッコよかったし楽しかったし、お陰様でたくさん素敵な経験が出来たし!」
「へへッ、俺も苗字さんと話せて楽しかった! あと貰ったプロテインバー超美味かった! です!」
「あ、いいよ別に敬語じゃなくて。私流の美味しい卵かけご飯のレシピ、あとでメールで送るね」
「……! アザーッス! あ、研磨だ!」
「いっておいでー。うちの孤爪と仲良くしてくれてありがとね」
ピョンッと高く飛び上がってから、ブンブンと手を振ってくれる姿は可愛らしい。詰め寄られた孤爪も、表情には出ていないけど嬉しそうだ。
あの二人を見ているとこちらまで元気が出るなと思いつつ、見慣れた赤いジャージの集団へと駆け寄る。海が微笑みながら出迎えてくれた。
「おかえり、苗字」
「ただいま、海。楽しかったね!」
「うん。楽しそうな苗字を見るのも面白かった」
「……年甲斐もなくはしゃいでごめん」
「むしろいつも周りに気を遣ってばかりなんだし、ワガママも言っていいと思うよ」
「えー。そうかな……」
「そうそう。なんだかんだ、夜久も黒尾も嬉しそうだったし」
「……あの二人ってほんと、面倒見が良すぎるというか、なんというか」
背後を見れば夜久は東峰くんと、黒尾は澤村くんとそれぞれ楽しそうにしている。
「せっかくだし今日撮ってくれた写真、帰りの新幹線でじっくり見たいな」
「もちろん! あ、車内で三年だけの写真も撮りたいかも」
「当然苗字も入るよね?」
「……入らなきゃダメ?」
「当たり前でしょ」
「海のガチトーン! かしこまりました!」
猫又監督の号令もあり、音駒は全員集合した。号泣しながら田中くんと別れを惜しむ山本に笑いながら、私も潔子ちゃんや日向くんをはじめ交流のあった面々に手を振る。最後は烏野さん全員に敬意を込めて、深々とお辞儀をした。
いつか再び出会うための別れって、こんなに爽やかな後味なんだ。人生ってまだまだ知らないことだらけだなと感動しながら、いつもより空高く感じる夕焼けを見上げた。