意地っ張り猫の祝祭
とある昼休み、三年五組の教室にて。授業から解放されたばかりの同級生たちの喧騒を背に、私は晴れやかな気持ちで扉の前に立っていた。
「苗字さん! 少しお時間よろしいでしょうか!」
「苗字さん、お疲れ様です」
大声で呼びかけてきた山本と、後ろでひょっこり顔を出す福永が訪ねてきたのは、秋めいた空気を感じ始めてきた頃だった。事前に話は聞いていたから笑って迎え入れた後、自分の席に先導していく。
「山本も福永もお疲れ! 黒尾も夜久も委員会に行った後だから、好きに座っていいよー」
既に準備していた椅子を二つ指さす。分かりやすく狼狽えた山本に対して、福永はいつも通りニコニコと笑っている。うん、二人とも今日もかわいい。
「いやしかし、苗字さんの前でそんな無礼を働く訳には!?」
「失礼しまーす」
「おい福永!?」
「はいはい、山本も座ってね」
後ろから肩をポンポンと叩いて促せば、あからさまに顔を赤くさせた後輩がすごすごと座る。すっかり借りてきた子猫みたいな様子だが、一年前に比べたらこれでもかなり打ち解けた方だった。
「さて、今日は例の件についての話だよね」
「そうです! 研磨の誕生日、どう祝うかについてなんですけど……」
やけに深刻そうな山本を、福永がニコニコと見守っている。去年は孤爪と山本が仲違いしていたのが印象的だったけど、この二人もかなり距離が近付いたなと微笑ましく思う。山本も福永も違う意味で言葉が足りない部分はあるが、だからこそ同じアタッカーとして互いに背中を見て学び合う関係性なのだろう。
「去年は私、福永と一緒にアップルパイ作ったから、今年もそれでいこうかなって思ってたんだけどね」
「え!? おまっ、福永、何でそんな羨ましい幸福を味わってんだ!?」
「だってあの時の山本を誘うの、気まずかったし」
「…………、」
「あー、……確かにまだ二人がちょっと気まずい時期だったからね。孤爪もあまり言いふらしたくない感じだったし。ごめんね山本、別に仲間外れにしようと思った訳じゃなくて」
「いや、大丈夫です! 苗字さんに気を遣わせてしまってすみません……! そんな自分が不甲斐ないです!」
「いやいや、それこそ謝る必要ないからね。今年のこと一緒に考えよ」
ガックリと肩を落とす山本の背中をポンポンと慰めるように叩けば、ビクッと肩が飛び上がる。その光景を見て福永と一緒に笑った。皆が良い意味で互いに気を遣わない間柄になっているのは、チームとしても良いことだった。
「それで、どうしよっか。今年は山本も一緒にパイ作る? それとも他のプレゼントを考えよっか?」
「ウッ……本当はパイ作りをご一緒したいところなんですが、俺だと役に立てる気もしないですし! それに良いプレゼントも思い浮かばなくて……」
「それこそ孤爪に対しては、無理に良いプレゼントを贈ろうって頑張りすぎなくて良いと思うけどね」
「そ、そうですかね……?」
「うん。孤爪、山本から貰うものなら何でも嬉しいと思うし」
ギョッとした顔をする山本とは対照的に、福永がこれまでの一年を噛み締めるような顔で、何度もうんうんと頷いている。
「福永もそう思うよね?」
「はい。友達が少ない人間からすると、友達からの誕生日プレゼントっていうだけで、超ウルトラハッピーです」
「わかるー。自分のために選んでくれたんだって考えるだけで幸せだよね」
「です」
音駒の皆は本質的に明るいメンバーが多く、数多くの友人を持っている子たちばかりだが。福永も孤爪も私も、それぞれ違う意味で友達が少なかった過去を持つから、お互いに共感する場面が多いのだ。
特に福永とは、孤独の寂しさを創作によって埋めるという共通点があるからこそ、交わす言葉が少なくとも共鳴する点が多々あった。
「えっ……あの研磨が喜んでくれるところ、想像できないんですが」
「まあ確かに、あからさまに分かりやすく喜ぶことはしないかも。でもきっと、何を贈っても孤爪なりにこっそり大事にしてくれるとは思うよ。山本もそれは同意してくれるんじゃない?」
「それは……はい、そう思います……」
「よし。という訳で、一緒に選ぶの手伝おっか?」
「……いえ、やっぱり自分で選んでみます! どうなるかは分からないんですが!」
「そっか。うん、応援してる! 何かあったらいつでも相談してね。それじゃお昼食べよっかー」
「あっ、でも俺、購買に買いに行かないと!」
「大丈夫。二人のお弁当は私が作ってきてるから」
「ヒエッ!?」
「苗字さんのお弁当ー!」
またまた対象的な反応で喜んでくれた二人に笑いつつ、三つ分のお弁当を取り出した。その日のお昼休みは、私と福永で一緒に考えたネタを披露したり、真面目にバレー部での練習について話したりと、充実した時間を過ごしていった。
「おつー。楽しそうな話してんじゃん」
「あ、黒尾。おかえりー」
上から覗き込んできた黒尾を出迎えてから時計を見れば、休み時間もかなり終盤に差し掛かっていた。後輩たちもそれに気付いてか、いそいそと帰る準備を始める。
「二人とも、お弁当箱はそのまま置いていっていいからね」
「い、いやいや!? 相談に乗って頂いた上に、そんな無礼を働く訳には!! 自分で持ち帰ってから洗ってお返しします!!」
「同じくです」
「そう? ならお言葉に甘えて」
その時、山本と福永の腕をガッシリと掴む、ミルクティー色の笑顔が見えた。
「お前ら、いい心がけじゃねえか。苗字は何でも一人でやろうとするから、やれることはちゃんと代わって負担を減らしてやろうな」
「はいッス! 夜久さん!」
「はい!」
「夜久パイセンこわー」
「あ!? 別に怖くねえだろ!?」
「あ。ほらほら今の顔、めっちゃ怖いですヨ」
「おめーのせいだろうが!?」
いつも通りわちゃわちゃと騒がしくする先輩たちは無視して、後輩を廊下まで送っていく。いつの間にか黒尾も夜久も後ろについてきていたから、結局三人で手を振りながら、何度も振り返ってはペコペコと頭を下げる二人を見送った。
「苗字センパイ、どうだった?」
「うん、大丈夫だと思う。孤爪なら山本の選ぶ物は何でも喜ぶよーって伝えたら、ちゃんと自分で選ぶって言ってくれたから」
黒尾の言葉にそう返せば、二人はほっとしたように笑う。さっき委員会活動に向かう時も、後ろ髪を引かれるような顔をしていたし。「私に任せなさい」と口にして、大きな背中を両手で押していた時、実は私もちょっと不安な気持ちはあったのだ。黒尾と夜久の不在は急遽決まったから、私だけで役に立てるのかと。
だからこそ、今まさに労るように背中を撫でてくれる夜久の熱に癒された。
「アイツらも成長したなあ。去年はあんなに大喧嘩してたのに」
「ね。でも実際、孤爪とあんなに真正面に喧嘩できるのは未だに山本だけだから、喜ぶと思うんだよね。黒尾おにーちゃんはどう思う?」
「おっ。成程ね、苗字からおにーちゃんって呼ばれるとグッとくるってのは間違いないわ。アッ、やっくん顔こわーい。……や、実際そう思うわ。俺だと研磨相手には対等になれねーからさ」
そんな黒尾の寂しそうな嬉しそうな横顔を見つめていれば、次の瞬間には再び夜久とギャーギャー言い争いを始めてしまった。一度始まると面倒臭いからなーと肩をすくめつつ、私は一人で教室へと戻ることにする。
皆といつも通りの時間を楽しく過ごせている事実が、私の心を今日も明るく軽くしてくれた。
そんなこんなで迎えた、孤爪の誕生日当日。私は、福永と共に準備していたアップルパイを贈った。去年に引き続きちょっぴり嬉しそうな顔で喜んでくれたから、二人で一緒にひっそり笑った。
そして、あんなに張り切っていた山本はといえば……、黒ひげ危機一髪の猫バージョンらしき玩具を、それはもう勢いよくプレゼントしていた。「研磨! おめでとう!」の一言と共にそれを受け取った孤爪の顔が、それはもう微妙なものだったことに、黒尾は大爆笑していたが。
ひとしきり部員たちから祝福を受けた孤爪が、受け取ったプレゼントを私へ預けにきた時、ジッと何か言いたげな視線を向けてきた。「どうした?」と聞けば、柔らかくふっと唇を緩めていく。
「苗字さん、虎に何か言ったでしょ」
「あー、……少しだけアドバイスはしたよ」
「だよね。予想ではもう少し無難なやつか、ゲームとは全く関係ない備品になるかと思ってたし」
「うん。孤爪なら、山本が選んだものは何でも嬉しいと思うよーって言ったから」
「……ふうん」
「ふふ。今年は山本からプレゼント貰えるって、孤爪も分かってたんだね」
「まあ、虎ってそういう奴だし」
「うん」
「……アップルパイもありがと。後で食べる」
「こちらこそ貰ってくれてありがと。数日はもつから、いつでも好きなタイミングで食べてね」
少し照れたような顔を見せる後輩が可愛くて、ポンポンと背中を撫でる。孤爪は人の思考を分析する力が高いから、それを良い意味で裏切られた時の喜びが、きっと人よりも大きいのだろう。
「孤爪、本当におめでと。私に出来ることがあれば、これからも何でも言ってね」
「うん、ありがとう。……なら、これからもお弁当、期待してる」
「任せて!」
「でも春高の時は毎日大量に作ることになるだろうし、無理はしないで」
何でもない日常話を口にするように言ってから、孤爪は「じゃあね」と言ってコートの中に戻っていく。一瞬停止していた思考を取り戻すように、私は湧き上がる熱い感情を噛み締めるように拳を強く握った。
あの、常に冷静で実現可能なことしか口にしない孤爪が、春高に行くことを当たり前のように言ってくれた意味を。私は先輩としてマネージャーとして、大切に受け止めなければいけないと思った。
───さあ。今日も世界で一番最高にカッコイイ皆を、余すところなく支えるために。私に出来る限りの全力を出して、頑張ろう。
「苗字さん! 少しお時間よろしいでしょうか!」
「苗字さん、お疲れ様です」
大声で呼びかけてきた山本と、後ろでひょっこり顔を出す福永が訪ねてきたのは、秋めいた空気を感じ始めてきた頃だった。事前に話は聞いていたから笑って迎え入れた後、自分の席に先導していく。
「山本も福永もお疲れ! 黒尾も夜久も委員会に行った後だから、好きに座っていいよー」
既に準備していた椅子を二つ指さす。分かりやすく狼狽えた山本に対して、福永はいつも通りニコニコと笑っている。うん、二人とも今日もかわいい。
「いやしかし、苗字さんの前でそんな無礼を働く訳には!?」
「失礼しまーす」
「おい福永!?」
「はいはい、山本も座ってね」
後ろから肩をポンポンと叩いて促せば、あからさまに顔を赤くさせた後輩がすごすごと座る。すっかり借りてきた子猫みたいな様子だが、一年前に比べたらこれでもかなり打ち解けた方だった。
「さて、今日は例の件についての話だよね」
「そうです! 研磨の誕生日、どう祝うかについてなんですけど……」
やけに深刻そうな山本を、福永がニコニコと見守っている。去年は孤爪と山本が仲違いしていたのが印象的だったけど、この二人もかなり距離が近付いたなと微笑ましく思う。山本も福永も違う意味で言葉が足りない部分はあるが、だからこそ同じアタッカーとして互いに背中を見て学び合う関係性なのだろう。
「去年は私、福永と一緒にアップルパイ作ったから、今年もそれでいこうかなって思ってたんだけどね」
「え!? おまっ、福永、何でそんな羨ましい幸福を味わってんだ!?」
「だってあの時の山本を誘うの、気まずかったし」
「…………、」
「あー、……確かにまだ二人がちょっと気まずい時期だったからね。孤爪もあまり言いふらしたくない感じだったし。ごめんね山本、別に仲間外れにしようと思った訳じゃなくて」
「いや、大丈夫です! 苗字さんに気を遣わせてしまってすみません……! そんな自分が不甲斐ないです!」
「いやいや、それこそ謝る必要ないからね。今年のこと一緒に考えよ」
ガックリと肩を落とす山本の背中をポンポンと慰めるように叩けば、ビクッと肩が飛び上がる。その光景を見て福永と一緒に笑った。皆が良い意味で互いに気を遣わない間柄になっているのは、チームとしても良いことだった。
「それで、どうしよっか。今年は山本も一緒にパイ作る? それとも他のプレゼントを考えよっか?」
「ウッ……本当はパイ作りをご一緒したいところなんですが、俺だと役に立てる気もしないですし! それに良いプレゼントも思い浮かばなくて……」
「それこそ孤爪に対しては、無理に良いプレゼントを贈ろうって頑張りすぎなくて良いと思うけどね」
「そ、そうですかね……?」
「うん。孤爪、山本から貰うものなら何でも嬉しいと思うし」
ギョッとした顔をする山本とは対照的に、福永がこれまでの一年を噛み締めるような顔で、何度もうんうんと頷いている。
「福永もそう思うよね?」
「はい。友達が少ない人間からすると、友達からの誕生日プレゼントっていうだけで、超ウルトラハッピーです」
「わかるー。自分のために選んでくれたんだって考えるだけで幸せだよね」
「です」
音駒の皆は本質的に明るいメンバーが多く、数多くの友人を持っている子たちばかりだが。福永も孤爪も私も、それぞれ違う意味で友達が少なかった過去を持つから、お互いに共感する場面が多いのだ。
特に福永とは、孤独の寂しさを創作によって埋めるという共通点があるからこそ、交わす言葉が少なくとも共鳴する点が多々あった。
「えっ……あの研磨が喜んでくれるところ、想像できないんですが」
「まあ確かに、あからさまに分かりやすく喜ぶことはしないかも。でもきっと、何を贈っても孤爪なりにこっそり大事にしてくれるとは思うよ。山本もそれは同意してくれるんじゃない?」
「それは……はい、そう思います……」
「よし。という訳で、一緒に選ぶの手伝おっか?」
「……いえ、やっぱり自分で選んでみます! どうなるかは分からないんですが!」
「そっか。うん、応援してる! 何かあったらいつでも相談してね。それじゃお昼食べよっかー」
「あっ、でも俺、購買に買いに行かないと!」
「大丈夫。二人のお弁当は私が作ってきてるから」
「ヒエッ!?」
「苗字さんのお弁当ー!」
またまた対象的な反応で喜んでくれた二人に笑いつつ、三つ分のお弁当を取り出した。その日のお昼休みは、私と福永で一緒に考えたネタを披露したり、真面目にバレー部での練習について話したりと、充実した時間を過ごしていった。
「おつー。楽しそうな話してんじゃん」
「あ、黒尾。おかえりー」
上から覗き込んできた黒尾を出迎えてから時計を見れば、休み時間もかなり終盤に差し掛かっていた。後輩たちもそれに気付いてか、いそいそと帰る準備を始める。
「二人とも、お弁当箱はそのまま置いていっていいからね」
「い、いやいや!? 相談に乗って頂いた上に、そんな無礼を働く訳には!! 自分で持ち帰ってから洗ってお返しします!!」
「同じくです」
「そう? ならお言葉に甘えて」
その時、山本と福永の腕をガッシリと掴む、ミルクティー色の笑顔が見えた。
「お前ら、いい心がけじゃねえか。苗字は何でも一人でやろうとするから、やれることはちゃんと代わって負担を減らしてやろうな」
「はいッス! 夜久さん!」
「はい!」
「夜久パイセンこわー」
「あ!? 別に怖くねえだろ!?」
「あ。ほらほら今の顔、めっちゃ怖いですヨ」
「おめーのせいだろうが!?」
いつも通りわちゃわちゃと騒がしくする先輩たちは無視して、後輩を廊下まで送っていく。いつの間にか黒尾も夜久も後ろについてきていたから、結局三人で手を振りながら、何度も振り返ってはペコペコと頭を下げる二人を見送った。
「苗字センパイ、どうだった?」
「うん、大丈夫だと思う。孤爪なら山本の選ぶ物は何でも喜ぶよーって伝えたら、ちゃんと自分で選ぶって言ってくれたから」
黒尾の言葉にそう返せば、二人はほっとしたように笑う。さっき委員会活動に向かう時も、後ろ髪を引かれるような顔をしていたし。「私に任せなさい」と口にして、大きな背中を両手で押していた時、実は私もちょっと不安な気持ちはあったのだ。黒尾と夜久の不在は急遽決まったから、私だけで役に立てるのかと。
だからこそ、今まさに労るように背中を撫でてくれる夜久の熱に癒された。
「アイツらも成長したなあ。去年はあんなに大喧嘩してたのに」
「ね。でも実際、孤爪とあんなに真正面に喧嘩できるのは未だに山本だけだから、喜ぶと思うんだよね。黒尾おにーちゃんはどう思う?」
「おっ。成程ね、苗字からおにーちゃんって呼ばれるとグッとくるってのは間違いないわ。アッ、やっくん顔こわーい。……や、実際そう思うわ。俺だと研磨相手には対等になれねーからさ」
そんな黒尾の寂しそうな嬉しそうな横顔を見つめていれば、次の瞬間には再び夜久とギャーギャー言い争いを始めてしまった。一度始まると面倒臭いからなーと肩をすくめつつ、私は一人で教室へと戻ることにする。
皆といつも通りの時間を楽しく過ごせている事実が、私の心を今日も明るく軽くしてくれた。
そんなこんなで迎えた、孤爪の誕生日当日。私は、福永と共に準備していたアップルパイを贈った。去年に引き続きちょっぴり嬉しそうな顔で喜んでくれたから、二人で一緒にひっそり笑った。
そして、あんなに張り切っていた山本はといえば……、黒ひげ危機一髪の猫バージョンらしき玩具を、それはもう勢いよくプレゼントしていた。「研磨! おめでとう!」の一言と共にそれを受け取った孤爪の顔が、それはもう微妙なものだったことに、黒尾は大爆笑していたが。
ひとしきり部員たちから祝福を受けた孤爪が、受け取ったプレゼントを私へ預けにきた時、ジッと何か言いたげな視線を向けてきた。「どうした?」と聞けば、柔らかくふっと唇を緩めていく。
「苗字さん、虎に何か言ったでしょ」
「あー、……少しだけアドバイスはしたよ」
「だよね。予想ではもう少し無難なやつか、ゲームとは全く関係ない備品になるかと思ってたし」
「うん。孤爪なら、山本が選んだものは何でも嬉しいと思うよーって言ったから」
「……ふうん」
「ふふ。今年は山本からプレゼント貰えるって、孤爪も分かってたんだね」
「まあ、虎ってそういう奴だし」
「うん」
「……アップルパイもありがと。後で食べる」
「こちらこそ貰ってくれてありがと。数日はもつから、いつでも好きなタイミングで食べてね」
少し照れたような顔を見せる後輩が可愛くて、ポンポンと背中を撫でる。孤爪は人の思考を分析する力が高いから、それを良い意味で裏切られた時の喜びが、きっと人よりも大きいのだろう。
「孤爪、本当におめでと。私に出来ることがあれば、これからも何でも言ってね」
「うん、ありがとう。……なら、これからもお弁当、期待してる」
「任せて!」
「でも春高の時は毎日大量に作ることになるだろうし、無理はしないで」
何でもない日常話を口にするように言ってから、孤爪は「じゃあね」と言ってコートの中に戻っていく。一瞬停止していた思考を取り戻すように、私は湧き上がる熱い感情を噛み締めるように拳を強く握った。
あの、常に冷静で実現可能なことしか口にしない孤爪が、春高に行くことを当たり前のように言ってくれた意味を。私は先輩としてマネージャーとして、大切に受け止めなければいけないと思った。
───さあ。今日も世界で一番最高にカッコイイ皆を、余すところなく支えるために。私に出来る限りの全力を出して、頑張ろう。