私の愛しい左端
※原作よりだいぶ前の時間軸です
左腕を大きく覆う火傷跡を、私は心底愛していた。
表面が凸凹していて、真っ赤で所々が茶色くて。だからこそ、腕を出すファッションをすればオンリーワンのオシャレが楽しめる。
どんなに寒い日でも真夏を想起させる自分の左半身を、幼い頃からのパートナーであるほのおポケモンとの繋がりも感じられるこの腕を、私はこれ以上ないほど慈しんでいた。
たとえ、この腕が原因で誰かに悪く思われたとしても。
この世で私を最も愛せるのは、私自身しかいないのだから。
「……と、自分に対する考えはこんなところでしょうか」
慣れないカメラを前に話し終えると、盛大な拍手が返ってきた。
目の前に座るインタビュアーは目を輝かせており、的外れな返答でなかったと知って安堵する。
「素晴らしいです! わたくし感銘を受けましたわ!」
「そんな、恐縮です。ありがとうございます」
「カブさんは、ナマエさんのお話を聞いて何をお感じになられまして?」
恐る恐る首を横に向ける。そこには、先程まで初対面で、これから対談相手として言葉を交わす予定のトレーナーが座っていた。
好戦的なバトルスタイルを主流にしていた印象があったため、自分の言葉に対する反応を想像するとつい気になってしまう。嫌な顔をされないかな、と。
けれど予想に反して、彼は何も口にしないままだ。
今の今まで、話しかけられたら即座に返事をする礼儀正しい青年だったのに。
黒くて真っ直ぐな瞳が私を一直線に見据えたまま、何故かひどく驚いたように息を呑んでいた。
「……カブさん?」
見かねて声をかければ、彼は弾かれたように席を立った。
「は、はいッ!」
やけに大きな返事と真剣な顔が返ってきて、つい笑い声を上げてしまう。
すぐに顔を赤くさせながら座ったものの、彼はどことなくクスネにつままれたような様子だった。
思っていた以上に可愛らしそうな人で安心する。
今日の私は、ポケモンコンテストに出場するコーディネーターとして取材を受けていた。
大企業デボンコーポレーションの御曹司であるツワブキ・ムクゲくんと、共同で始めた巨大プロジェクトであるポケモンコンテスト。
バトルの勝敗だけでは測れない、ポケモンの唯一無二の美しさを魅せる空間作りを目的としている。
しかしまだ知名度が低く、最近は広報の目的で様々なメディアに売り込みに行っていた。
本日もその一環で、新進気鋭のトレーナーとの対談を取り付けて張り切っていたのだ。
コンテストをアピールするためにどのように喋れば良いか模索していたが、彼相手ならば必要以上に気張る必要もないかもしれない。
こほん、と気を取り直すように咳払いをしてから、カブさんは再びしゃんと背筋を伸ばしていく。
「ぼくは、ナマエさんの前向きさが素晴らしくて、何よりとても強い方だと思いました。一人のトレーナーとして尊敬しますし見習いたいです」
何の躊躇いもなくハキハキと喋る横顔につい口元が緩んでしまい、咄嗟に掌で覆った。
「……面と向かって褒められると、やっぱり照れますね」
「お二人とも初々しくてフレッシュで素敵ですわ」
しみじみとした感想を呟かれて、つい体温が上がってしまう。隣に座るカブさんも同様のようだった。
インタビュアーは微笑みを絶やさないまま、限られた時間を有効活用するように次の質問へと移っていく。
「カブさんは、何故ほのおポケモンを選ばれたんですの?」
「ぼくは一番に憧れたから、ですね。強くてカッコよくて痺れたので」
「なるほど。バトルスタイルのイメージにぴったりですわ」
確かに、とインタビュアーの言葉に内心で同意する。
事前にビデオで見た限り、ほのおわざの火力で押し切る戦法が印象的だった。
炎に対する純粋な信頼の証だとすれば納得できる。
「ナマエさんの理由をお伺いしても?」
「はい。私は、ほのおタイプ の炎がやさしいと感じたからです」
真逆な答えを得たインタビュアーは、意外そうに何度か瞬きしていた。
予想通りの反応に微笑みつつ、過去の思い出をなぞるように口を開く。
「私たちの生活に、火って欠かせないものじゃないですか。夜に街の外で寝泊まりする時は焚き火が欠かせないですし、料理をする時も食材に火で熱を通すから美味しくなると思うんです」
「ええ、ええ。確かに」
「私が苦しくて悲しかった時に一番に寄り添ってくれたのが今のパートナーでした。その時に気付いたんです。炎の力強さの根底には、縁の下の力持ちのような優しさがあるんだって」
「素敵なお話ですわ」
「ありがとうございます。……あの瞬間からずっと、私はほのおに支えられて生きてきました」
幼くて何も知らない子どもだった頃、ふわふわで温かかったあの子を全身で抱き締めた感触がすうっと甦る。
腰元のモンスターボールがひとつ、微かに揺れた気がした。
熱心にメモを取るインタビュアーの奥で、カブさんが先程と同様に呆気に取られたような顔をしていた。
内心首を傾げるものの、矢継ぎ早に飛んできた次の質問に意識を集中させる。
コンテストの魅力、コンテストの演技で心がけていること、コンテストというプロジェクトの目的、コンテストの参加者は常に大募集であること。
インタビュアーが聞き上手だったこともあり、当初予定していた話は全て満足いくまで話すことが出来た。
カブさんのポケモンの育て方や、バトルへのこだわりに関する話も興味深くて、トレーナーとコーディネーターの視点の違いを改めて学べた対談だった。
「それでは、これで以上とさせて頂きます。今大注目のお二人にインタビューできて、とても光栄でしたわ!」
「とんでもないです」
「こちらこそ」
カブさんと声が重なって、自然と目が合った。
つい笑いが零れてしまい口元に手を当てていると、カブさんも困ったように笑っていた。
彼の自然体が、ようやくほんの少しだけ垣間見えた気がする。
挨拶をしてから部屋を退室し、出口までの道をカブさんと連れ立って歩く。
緊張しましたね、と当たり障りのない言葉で場を繋ごうかと考えていると、隣の影が急に立ち止まるのが分かった。
疑問に思うよりも前に、勢いよく頭を下げたカブさんのつむじが見えて焦ってしまう。
「カブさん、どうしました!?」
「謝罪させてください、ナマエさん」
「……それを私が受け取れるか分かりませんが、まずは顔を上げてください」
ゆっくりと顔を上げたカブさんが、緊張したように顔を強ばらせている。
まずは話を聞かないと始まらないため、私も背筋をぴんと伸ばした。
「ぼくは今日、ナマエさんのことを何も知らないまま来ました。ナマエさんはぼくのことをちゃんと調べてくれていたのに」
「それは……私は知名度が低い存在ですし、そもそも知る材料が少ないですし」
「違うんです。ぼくは、コンテストよりバトルの方が上だ格上と無意識に考えていたことに気付いてしまった」
「そんなの当たり前ですよ。コンテストはまだ出来たばかりの大会ですから」
「いいえ、ナマエさんのお話を聞いて気付いたんです。バトルとコンテストの間に優劣はない、ポケモンを想う気持ちはみんな同じなんだと。だからぼくの未熟さを教えてくれたことに感謝しましたし、過去の自分について謝罪しないと気が済みませんでした。───ごめんなさい、ナマエさん」
再び、カブさんが深々と頭を下げた。
なんて真っ直ぐなひとなのだろう、と素直に驚く。
全て誤魔化して隠してしまったって良いのに、何もかもさらけ出した上で全力で謝ってくれている。
「……なら、私もカブさんに謝らないといけません」
「え?」
小さく屈んで、膝に添えられた彼の手を取った。節くれだって硬くて大きくて、カブさんの努力と優しさが窺える掌だった。
指先を掬って一緒に真っ直ぐ立ち上がる。今日だけで何回目にしたか分からない驚いた顔を、今までの中で最も近くで見ることが出来た。
「私、今日ここに来るまでカブさんのことを怖いひとかと思っていました。ごめんなさい」
「……あはは。バトルだけ見たらそう思われるのも仕方がないです」
「私のこと、許してくれますか?」
「もちろん、怒る理由がないです。でもぼくのことは、」
「許します。怒る理由がないですもん」
またビックリした顔をした後、カブさんは困ったように笑った。さすがに急に距離を詰めすぎてしまったかな、と反省して手を離すものの、今度は彼の方から手を取ってくれる。
火傷跡のせいで、初対面で躊躇いもなく触れてくれる人は珍しいのに。普通の肌より赤くて凸凹した肌に、彼は自らの額を添えて祈るように息を吸った。
「ありがとう、ナマエさん」
その時、カブさんが穏やかに微笑んだ顔と初めて出逢うことが出来た。
胸の奥からふわっと柔らかい感情が込み上げたような気がして、繋がった指先がほのおのように熱くなる。
「こちらこそありがとう。カブさん」
お互いに視線を重ねて笑い合って、それから何となく恥ずかしくなって自然と手を放していた。
そのまま帰るために再び並んで歩きながら、歳も近いから敬語も敬称も無しにしよう、と決まって心が浮き立つ。
同年代の友人はいても、ほのおタイプの子達に真摯に向き合うトレーナーは限られているため、とても貴重な縁だった。
「……ナマエちゃん、もし良ければなんだけど。今度一緒にご飯でもどうかな。もっときみと話がしたくて」
「うん。カブくんさえ良ければ私はいつでも」
「確かコンテストが近いんだよね。邪魔はしたくないからその後にしよう。ぼくもきみの演技を楽しみにしているから」
コーディネーターとしての私に心底期待をしてくれている言葉に、胸が燃えるように熱くなる。
自分の大切なポケモン達を、世界中の誰よりも美しく輝かせることが私の夢で、世界中の誰もがコンテストを楽しんでくれることもまた私の夢のひとつだった。
これも夢の第一歩なんだ、と意気込みながら駆け出しそうな足を必死に押し止めた。
そんな私の様子を察したようなカブくんが、どことなく微笑ましそうにこちらを見遣っている。
羞恥心もあったけれど、それよりも、自分を真っ直ぐに見つめてくれるひとと出逢えたことが何よりも幸せだと思った。
私の身体の左端が、未来を想うように熱く強く脈打っていた。
左腕を大きく覆う火傷跡を、私は心底愛していた。
表面が凸凹していて、真っ赤で所々が茶色くて。だからこそ、腕を出すファッションをすればオンリーワンのオシャレが楽しめる。
どんなに寒い日でも真夏を想起させる自分の左半身を、幼い頃からのパートナーであるほのおポケモンとの繋がりも感じられるこの腕を、私はこれ以上ないほど慈しんでいた。
たとえ、この腕が原因で誰かに悪く思われたとしても。
この世で私を最も愛せるのは、私自身しかいないのだから。
「……と、自分に対する考えはこんなところでしょうか」
慣れないカメラを前に話し終えると、盛大な拍手が返ってきた。
目の前に座るインタビュアーは目を輝かせており、的外れな返答でなかったと知って安堵する。
「素晴らしいです! わたくし感銘を受けましたわ!」
「そんな、恐縮です。ありがとうございます」
「カブさんは、ナマエさんのお話を聞いて何をお感じになられまして?」
恐る恐る首を横に向ける。そこには、先程まで初対面で、これから対談相手として言葉を交わす予定のトレーナーが座っていた。
好戦的なバトルスタイルを主流にしていた印象があったため、自分の言葉に対する反応を想像するとつい気になってしまう。嫌な顔をされないかな、と。
けれど予想に反して、彼は何も口にしないままだ。
今の今まで、話しかけられたら即座に返事をする礼儀正しい青年だったのに。
黒くて真っ直ぐな瞳が私を一直線に見据えたまま、何故かひどく驚いたように息を呑んでいた。
「……カブさん?」
見かねて声をかければ、彼は弾かれたように席を立った。
「は、はいッ!」
やけに大きな返事と真剣な顔が返ってきて、つい笑い声を上げてしまう。
すぐに顔を赤くさせながら座ったものの、彼はどことなくクスネにつままれたような様子だった。
思っていた以上に可愛らしそうな人で安心する。
今日の私は、ポケモンコンテストに出場するコーディネーターとして取材を受けていた。
大企業デボンコーポレーションの御曹司であるツワブキ・ムクゲくんと、共同で始めた巨大プロジェクトであるポケモンコンテスト。
バトルの勝敗だけでは測れない、ポケモンの唯一無二の美しさを魅せる空間作りを目的としている。
しかしまだ知名度が低く、最近は広報の目的で様々なメディアに売り込みに行っていた。
本日もその一環で、新進気鋭のトレーナーとの対談を取り付けて張り切っていたのだ。
コンテストをアピールするためにどのように喋れば良いか模索していたが、彼相手ならば必要以上に気張る必要もないかもしれない。
こほん、と気を取り直すように咳払いをしてから、カブさんは再びしゃんと背筋を伸ばしていく。
「ぼくは、ナマエさんの前向きさが素晴らしくて、何よりとても強い方だと思いました。一人のトレーナーとして尊敬しますし見習いたいです」
何の躊躇いもなくハキハキと喋る横顔につい口元が緩んでしまい、咄嗟に掌で覆った。
「……面と向かって褒められると、やっぱり照れますね」
「お二人とも初々しくてフレッシュで素敵ですわ」
しみじみとした感想を呟かれて、つい体温が上がってしまう。隣に座るカブさんも同様のようだった。
インタビュアーは微笑みを絶やさないまま、限られた時間を有効活用するように次の質問へと移っていく。
「カブさんは、何故ほのおポケモンを選ばれたんですの?」
「ぼくは一番に憧れたから、ですね。強くてカッコよくて痺れたので」
「なるほど。バトルスタイルのイメージにぴったりですわ」
確かに、とインタビュアーの言葉に内心で同意する。
事前にビデオで見た限り、ほのおわざの火力で押し切る戦法が印象的だった。
炎に対する純粋な信頼の証だとすれば納得できる。
「ナマエさんの理由をお伺いしても?」
「はい。私は、
真逆な答えを得たインタビュアーは、意外そうに何度か瞬きしていた。
予想通りの反応に微笑みつつ、過去の思い出をなぞるように口を開く。
「私たちの生活に、火って欠かせないものじゃないですか。夜に街の外で寝泊まりする時は焚き火が欠かせないですし、料理をする時も食材に火で熱を通すから美味しくなると思うんです」
「ええ、ええ。確かに」
「私が苦しくて悲しかった時に一番に寄り添ってくれたのが今のパートナーでした。その時に気付いたんです。炎の力強さの根底には、縁の下の力持ちのような優しさがあるんだって」
「素敵なお話ですわ」
「ありがとうございます。……あの瞬間からずっと、私はほのおに支えられて生きてきました」
幼くて何も知らない子どもだった頃、ふわふわで温かかったあの子を全身で抱き締めた感触がすうっと甦る。
腰元のモンスターボールがひとつ、微かに揺れた気がした。
熱心にメモを取るインタビュアーの奥で、カブさんが先程と同様に呆気に取られたような顔をしていた。
内心首を傾げるものの、矢継ぎ早に飛んできた次の質問に意識を集中させる。
コンテストの魅力、コンテストの演技で心がけていること、コンテストというプロジェクトの目的、コンテストの参加者は常に大募集であること。
インタビュアーが聞き上手だったこともあり、当初予定していた話は全て満足いくまで話すことが出来た。
カブさんのポケモンの育て方や、バトルへのこだわりに関する話も興味深くて、トレーナーとコーディネーターの視点の違いを改めて学べた対談だった。
「それでは、これで以上とさせて頂きます。今大注目のお二人にインタビューできて、とても光栄でしたわ!」
「とんでもないです」
「こちらこそ」
カブさんと声が重なって、自然と目が合った。
つい笑いが零れてしまい口元に手を当てていると、カブさんも困ったように笑っていた。
彼の自然体が、ようやくほんの少しだけ垣間見えた気がする。
挨拶をしてから部屋を退室し、出口までの道をカブさんと連れ立って歩く。
緊張しましたね、と当たり障りのない言葉で場を繋ごうかと考えていると、隣の影が急に立ち止まるのが分かった。
疑問に思うよりも前に、勢いよく頭を下げたカブさんのつむじが見えて焦ってしまう。
「カブさん、どうしました!?」
「謝罪させてください、ナマエさん」
「……それを私が受け取れるか分かりませんが、まずは顔を上げてください」
ゆっくりと顔を上げたカブさんが、緊張したように顔を強ばらせている。
まずは話を聞かないと始まらないため、私も背筋をぴんと伸ばした。
「ぼくは今日、ナマエさんのことを何も知らないまま来ました。ナマエさんはぼくのことをちゃんと調べてくれていたのに」
「それは……私は知名度が低い存在ですし、そもそも知る材料が少ないですし」
「違うんです。ぼくは、コンテストよりバトルの方が上だ格上と無意識に考えていたことに気付いてしまった」
「そんなの当たり前ですよ。コンテストはまだ出来たばかりの大会ですから」
「いいえ、ナマエさんのお話を聞いて気付いたんです。バトルとコンテストの間に優劣はない、ポケモンを想う気持ちはみんな同じなんだと。だからぼくの未熟さを教えてくれたことに感謝しましたし、過去の自分について謝罪しないと気が済みませんでした。───ごめんなさい、ナマエさん」
再び、カブさんが深々と頭を下げた。
なんて真っ直ぐなひとなのだろう、と素直に驚く。
全て誤魔化して隠してしまったって良いのに、何もかもさらけ出した上で全力で謝ってくれている。
「……なら、私もカブさんに謝らないといけません」
「え?」
小さく屈んで、膝に添えられた彼の手を取った。節くれだって硬くて大きくて、カブさんの努力と優しさが窺える掌だった。
指先を掬って一緒に真っ直ぐ立ち上がる。今日だけで何回目にしたか分からない驚いた顔を、今までの中で最も近くで見ることが出来た。
「私、今日ここに来るまでカブさんのことを怖いひとかと思っていました。ごめんなさい」
「……あはは。バトルだけ見たらそう思われるのも仕方がないです」
「私のこと、許してくれますか?」
「もちろん、怒る理由がないです。でもぼくのことは、」
「許します。怒る理由がないですもん」
またビックリした顔をした後、カブさんは困ったように笑った。さすがに急に距離を詰めすぎてしまったかな、と反省して手を離すものの、今度は彼の方から手を取ってくれる。
火傷跡のせいで、初対面で躊躇いもなく触れてくれる人は珍しいのに。普通の肌より赤くて凸凹した肌に、彼は自らの額を添えて祈るように息を吸った。
「ありがとう、ナマエさん」
その時、カブさんが穏やかに微笑んだ顔と初めて出逢うことが出来た。
胸の奥からふわっと柔らかい感情が込み上げたような気がして、繋がった指先がほのおのように熱くなる。
「こちらこそありがとう。カブさん」
お互いに視線を重ねて笑い合って、それから何となく恥ずかしくなって自然と手を放していた。
そのまま帰るために再び並んで歩きながら、歳も近いから敬語も敬称も無しにしよう、と決まって心が浮き立つ。
同年代の友人はいても、ほのおタイプの子達に真摯に向き合うトレーナーは限られているため、とても貴重な縁だった。
「……ナマエちゃん、もし良ければなんだけど。今度一緒にご飯でもどうかな。もっときみと話がしたくて」
「うん。カブくんさえ良ければ私はいつでも」
「確かコンテストが近いんだよね。邪魔はしたくないからその後にしよう。ぼくもきみの演技を楽しみにしているから」
コーディネーターとしての私に心底期待をしてくれている言葉に、胸が燃えるように熱くなる。
自分の大切なポケモン達を、世界中の誰よりも美しく輝かせることが私の夢で、世界中の誰もがコンテストを楽しんでくれることもまた私の夢のひとつだった。
これも夢の第一歩なんだ、と意気込みながら駆け出しそうな足を必死に押し止めた。
そんな私の様子を察したようなカブくんが、どことなく微笑ましそうにこちらを見遣っている。
羞恥心もあったけれど、それよりも、自分を真っ直ぐに見つめてくれるひとと出逢えたことが何よりも幸せだと思った。
私の身体の左端が、未来を想うように熱く強く脈打っていた。