「ロマニはいつ泣くの?」

唇をくっつけるだけの、子どもみたいなキスをした直後に名前は問いかけた。瞳を僅かばかり潤ませていたロマニは、ぽかんと口を開いた後に苦笑する。

「……男が泣くだなんてカッコ悪いだろう?」
「ロマニは元々カッコ悪いけど」
「名前ってボクに対しては本当に辛辣だよね!?」
「卑屈になってばかりいないで、ちゃんと自分を認めてあげなさいってこと」

ふふ、と唇に笑みを乗せてから名前はロマニの胸に掌を添える。また、はぐらかされてしまった。作戦失敗だ。 悔しいのでとことん甘えてやろうと、目の前の暖かな身体に耳を寄せる。
抱き着いて、腰に腕を回して、浮き出た背骨の一つ一つをなぞるように指を滑らせていった。 ロマニは緊張したように息を詰めたかと思えば、やんわり諭すように名前を抱き締め返す。

「こら、あんまり女の子がそういうことしないの」
「なら、ロマニが私に触ってくれる?」
「そ、……そういうことじゃなくてね」
「ならやめてあげない」

たった一言、嫌だと言ってしまえばいいのに。そんなずるい男には、自分からグイグイいくしかないだろう。

「だから、あんまり男の前でそういうこと言っちゃダメでしょ」

ロマニは身体をむりやり引き離し、いつになく真剣な顔で名前を見つめてくる。ふわふわの栗色の髪が、部屋の明かりに照らされて綺麗に色付いていた。
寝不足気味なのか僅かに滲んだ隈も、柔らかい色を宿した翡翠の瞳も、白衣と手袋の隙間から見える腕の筋も、何もかもが愛おしくて堪らない。 ロマニの肩に手を置いて、むっと歪んでいた唇にキスをした。
惚けたように幾度も瞳を瞬かせる様に笑って、その首に腕を回す。そうして啄むように唇を重ねていると、ロマニの舌が恐る恐る忍び込んできた。名前の心に優しく触れるように、けれどどこか臆病な様子で互いの体温を分け合っていく。

そして、名前の首筋を滑るように撫でていった指先の温度が、胸の奥にチリチリと小さな火を灯した。

「あのね、ロマニ」
「ん?」
「私は別に、あなたの全てを知りたいわけじゃないの」
「……うん」
「でも、もしも泣きたくなったら、独りで我慢しないでね。辛い時は辛いって言ってね。あと、私の前ではうんとワガママになって」
「……そんなことしたら、ボク凄く情けないカレシじゃない?」
「大丈夫。私は、どんなロマニも大好きで堪らないから」

ロマニは泣きそうな顔で笑い、すぐに自身の顔を隠すように名前の胸へ頬を寄せる。柔らかいポニーテールを梳くように弄びながら、名前はロマニの頭を抱いた。

ぽつりぽつりと、震えた声が胸元に零れ落ちていく。

「名前。ボクはこの先、きっとキミを悲しませてしまう。泣かせてしまう。それでもボクは……どうしても、キミを手放したくないんだ」

ロマニが一体何を抱えているのか、どんなに重いものを背負っているのか、名前は知らない。きっと、それを一緒に共有できる相手は自分ではないのだ。
それはカルデアの所長かもしれないし、数々の発明を生み出した技術者なのかもしれないし、強大な叡智を有した性別詐欺のサーヴァントかもしれない。それでも構わなかった。
ロマニ・アーキマンの心が少しでも救われるのならば、名前は彼の唯一になれなくてもいいと思っていた。

けれど自分の心はなんとも現金なものだ。ロマニの言葉一つで、こんなにも簡単に幸せな気持ちで満たされていく。愛おしいと、全身が叫び出してしまう。

「なら手放さないで。最後まで、何があっても傍にいて」
「うん、約束するよ。ボクは未来永劫、キミへの想いを胸に生きていく」
「……それは大袈裟すぎじゃない?」
「はは、そんなことはないよ。本当は、こんな誓い一つじゃ足りないくらいなんだから」
「ロマニって、そういうところがずるい」
「え!? ご、ごめん」

慌てたように目線を泳がせたロマニの肩を押すと、容易にベッドへ倒れ込んでしまった。そのまま伸し掛り、名前は彼に思い切り抱き着く。細身ではあるけれど、きちんと男の人の身体だった。 するとロマニは、ふにゃふにゃと嬉しそうに笑いながら名前を抱き締め返してくれる。

「酷い男でごめんね」
「私もずるい女だから。似たもの同士でいいんじゃない?」
「あはは、そうだね。うん。……ボクは、キミを好きになることが出来て良かった」