・死ネタです
「長曽我部さん」
「お、また来たのか?」
「長曽我部さんこそ」
肩を少し越す程の髪を海風に靡かせ、ひよりは無邪気に笑った。俺が釣りに行く時、決まってこの浜辺に居る彼女は、基本笑顔で始まり、笑顔で終わる。
「長曽我部さん行ってらっしゃい!お気をつけて」
「おぅ、任せな」
ひよりは必ず俺を見送った。小さな手を大きく振って、少し高めの声で叫んで。
「ひより、帰ったぜ」
「おかえりなさーい!」
そして帰って来る俺を必ず迎えた。
俺が海に出ている間ずっと浜辺に居るのか、はたまた家に戻っているのか。それは定かではない。
ただその笑顔に勇気付けられている事は確かな事実となって俺の鼓動を早める。
ひよりと知り合ったのもこの浜辺だった。
釣り具の整備をしていれば、たまたま釣り具を持って隣に並んだのが、ひより。あどけない表情の彼女が、必死に釣り具を構えているのを見て、声を掛けずにいられなかった。
「釣り、しに来たのか?」
きょとん、と彼女が俺の方を見て首を傾げる。それから、俺の釣り具を見、顔を輝かせて大きく頷いた。
「貴方も釣りをしに?」
「おうよ!」
それから打ち解けるまでは、そう時間は掛からなかった。
「私、ひよりって言います。貴方は?」
「長曽我部元親だ!鬼ヶ島の鬼たァ俺の事よ!」
すると不意に俺をじっと見てくるひより。何事かと心臓の鼓動が早まる。
「……長曽我部さん、笑顔素敵ですね」
「なっ……!?」
「あはは」
惚れた、と言っても過言では無いのかもしれない。
「長曽我部さんはいいですね。大きな船があって」
「ん?乗りたいのか?」
ひよりは目を輝かせてすぐさま頷いた。余程興味があるらしい。
「じゃあ今度乗せてやるよ」
「ホントですか!?」
「おうよ!」
約束を交わした。
なのに……何故俺はあの時。
「行ってくるぜ!」
「行ってらっしゃい」
ひよりはいつもより元気が無かったのに。俺は何も気付かないふりをして航海に出た。
「行くぜ野郎共!」
「アニキィ、ここ凄く釣れますね!」
「また大物だ!」
そんな大漁を終え、帰る頃には日が沈みかけていた。
いつもの浜辺に着いた。
いつも笑顔で迎えてくれたひよりは居ない。
帰ったんだな、いつもより遅かったし。また明日会える。
そう思った。思いたかった。
「アニキ!人が倒れてます!」
「何だって?今行く!」
想像もしてなかった。今日、そんな形で会うなんて。
「どれ……!?」
俺は絶句した。
「ひより…?」
そこには震えながら、釣り具を握りしめて倒れているひよりが居た。
「長曽我部、さん……おかえり、なさい」
「やめろ、喋るな!野郎共!何か羽織るもの持って来い!」
「良いんです……もう……」
「何が良いんだよ!」
俺はひよりを抱き締めた。冷え切った体、ずっとここに居たんだと、すぐに分かる程に白くなった肌。
自然と涙が零れた。
「こんなに冷えやがって……」
「そんな顔、しないで下さい」
「馬鹿野郎っ」
「長曽我部さん……笑って」
ひよりは俺の涙を冷たい手でそっと拭った。口元を微かに上げ、微笑みを浮かべる。
「私は、貴方の幸せそうな笑顔が……好きなんです」
ひよりはふっと笑うと、手をだらんと下げ、動かなくなった。
そして悟った。
――大切な人を……護れなかった
数日後、あの浜辺に来た。
「ひより、ほら土産だ」
俺は釣ったばかりの魚を、いつもひよりが釣りをしていた場所に置いた。
「約束、守れなくて御免な。生まれ変わったら絶対乗せてやるからよ。楽しみにしとけ」
俺は最高の笑顔で言った。
幸せそうに笑って
(次は絶対)(約束守るからよ)
2010/05
2012/02/14編集
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自分で書いといてなんですが……切ないですねこれ