「姫よ」
「はい、王子様」
彼女の手を取る王子。
「僕は、一生貴女の事を愛する事を誓います」
彼女の手の甲にキスを落とし、微笑みながら顔を上げる。姫と王子の視線が絡み合った。
「貴女は如何ですか?」
彼女はにこりと笑うと、その問いに答えた。
「嫌です」
パンッ
「Cut!!」
メガホンを持った政宗は、苛立だしげに叫んだ。それと共に、周りから溜め息が零れ落ちる。
「あーあ、佐助の所為で」
「はぁ!?ひよりちゃんが台詞変えちゃうからでしょ!?」
佐助の抗議をものともしないひより。政宗は問答無用で佐助の頭をメガホンでひっぱたいた。
「独眼竜の旦那まで!?」
「Shut up!!何度このsceneをやり直してると思ってんだ!!」
政宗は頭を押さえてうずくまる佐助に、厳しく言葉を浴びせた。
「また失敗か…、大丈夫かひより」
「疲れたよ、かすが…」
疲れた様子のひよりに、かすがは声を掛けた。
一番疲れているであろう佐助には目もくれない。
今現在彼等は、学園祭の演劇の練習をしている。題名は『Time of Love』。王子と姫の恋物語だ。
王子役に佐助、姫役にひよりが配役され、今まで練習は順調に進んでいた。
唯、ラストシーンの練習に入ると、ひよりが気乗りしないようで、中々成功しない。
「Hey,ひより、如何しても嫌か?」
「政宗君…いや、監督、ごめん。佐助には言いたくない」
ひよりは申し訳なさそうに言った。
「え、今の言葉彼氏に対して酷くない!?」
佐助が喚いているが無視。
「貴様が、ひよりが台詞を言いたくなるような男になればいいのだ」
「うんうん。流石かすが、分かってるね」
「はぁ!?」
佐助と言う彼氏に対して、あっさりと酷い事を言えるひより。それはまるで、天使の顔をした悪魔のようだった。
政宗は溜め息を吐いた。監督という仕事に進んで就いたが、どうやらとても面倒臭そうだ。
「…このsceneは後回しだ。真田、準備して来い!!」
「承知致した!!」
幸村がバタバタと隣の教室に駆け込んだ。隣の教室は確か衣装置き場じゃ…?
「監督、次はどのシーンをやるんだ?俺はこのラストに力を入れてぇんだが」
脚本を手掛けた慶次が、政宗の隣に来て言った。
「ひよりがやる気ねぇんだ。後回しでもdon't worryだ」
「心配だなぁ。あのシーンが一番重要なんだ。恋の素晴らしさが一番滲み出てんだぜ?」
「慶次君、君はいい加減"恋"という概念から離れたまえ」
「半兵衛まで!」
「政宗君も次々と指示を出してくれないかい?仮にも監督だろう」
「さっき真田に指示出しただろーが!」
助監督である半兵衛まで話し合いに加わり、唯の反発のし合いと化した。
「僕はそういう事を言っているんじゃなくてね」
「いいからラストシーンやろうぜ」
「猿には頭を冷やさせる必要があんだよ」
「冷やしても一緒だって。やろうぜ」
「僕の意見は無視かい?」
「…私等は如何したらいいんだろうね」
「…市…分からない…ごめんなさい…お姉様…」
「いや、今役に入らなくていいよ」
市は姫であるひよりの妹役。
ひよりは市の為に作られたような役だな、と思っている。
「なぁひより、ちょっと俺様話が、」
「政宗殿!!準備が出来たでござる!!」
「旦那…タイミング悪い…っ」
佐助が頭を抱えている傍を、幸村はあっさり通り抜けた。
「幸村…その衣装…」
「ひより殿、どうでござるか!?」
いや、それはちょっと…ねぇ?
「幸村…それは…何?」
「何って…衣装でござる!!」
「いや、それは見たら分かるけどさ」
ひよりはまじまじとその姿を見つめた。
レースの袖口、ふわふわのスカート、首元には高い(ように見える)ネックレスをぶら下げている。淡いピンクがかったドレスを身に纏っているのだ。
(いや、女装…!?)
にしても、わざわざ衣装着て練習をするのだろうか。くしゃくしゃになってしまったら如何するんだ。
衣装係りの風魔が呆れている。当たり前である。
「真田、何で衣装着てやがる」
「政宗殿が準備して来いと申されたからでござる」
政宗が溜め息を吐いた。本日何度の溜め息であろうか。
「まあいい」
「いや、良くないだろ!?」
慶次のナイスなツッコミを政宗は気に留めない。
「ただでさえ時間が押してんだ。今から着替えていたら、時間掛かって仕方ねぇ」
「それもそうだね。続けよう」
「てめーが仕切んな」
どうやら監督と助監督は反りが合わないらしい。
「旦那…役割とか台詞、分かってるよね?」
「…政宗殿、某の役割を教えて下され!!」
「あぁん?猿の妹だ。前に台本渡しただろーが」
政宗が苛立たしげに言葉を返した。
(いや、役覚えてなくて大丈夫なのか!?)
「おぉ!!佐助を兄と呼べば良いのだな!?」
「普通そうでしょ、旦那」
佐助の溜め息がまた一つ、増えました。
「監督、幸村にあんな役与えて大丈夫なの?」
ひよりは心配になって尋ねた。
役の分かっていない役者が舞台に上がった所で、劇が台無しになるのは目に見えている。
しかも幸村の事だ。いつもならこんな衣装を見ただけで破廉恥と叫ぶに違いない。
破廉恥と叫ばず、自分からそんな衣装を身に付けるとは。何があったんだろう。
「Don't worry.この練習で分かるぜ」
「?」
よく分からない返事をし、政宗は不敵に笑った。
意味が分からないが、とりあえず練習を見よう。
「ふん、我の息子は何をしておるのだ」
王子の父、所謂王様が苛立ちを浮かべて言った。あまりに床を力強く、それも何度も踏むものだから、底抜けが心配だ。
「早急に連れ戻す策を考えようぞ」
王様を演じるのは毛利元就。見下す仕草が元就をイメージしているのではないかと言う程似ており、王様を演じられるのは元就だけだと誰もが納得した。しかし中々首を縦に振らず、苦労したものだ。最終的にはひよりが日光浴に付き合うと言う事で了承を得た。
「夕姫」
元就は幸村の方を向いた。
夕姫と言うのは幸村演じる王子の妹の名前だ。"ゆき"は、幸村の"幸"からきていると思われる。
「貴様は何もせずそこに居ろ。婚約者が現るのを待つのだ」
「ここここ婚約者!?なっ破廉恥ぃぃいいい!!!!!!!」
幸村の悲痛の叫びが聞こえた。
(こりゃダメでしょ)
ひよりは溜め息を吐いた。
「Cut!!真田、そこもうちょっと女声にしろ」
「は?」
政宗の言ってる意味が分からず、ひよりはポカンとした。
「女声でござるか…ははは破廉恥ぃぃいいい!!!!!!」
「もっと高くしやがれ」
「なっ破廉恥ぃぃいいい!?」
「何で疑問系だよ。肯定だ肯定。あと3オクターブ位高めな」
「ははは破廉恥ぃぃいいい!!!!」
「いや、活字じゃ高さ分かんないから」
ひよりのツッコミも無視され、2人は"破廉恥"の練習を始めた。
「てか…あれが台詞なの…?」
「アイツにはぴったりの台詞だろ?」
別に尋ねた訳でもないのに、脚本を手掛けた慶次に答えられて、少し驚いた。
「台詞読まずに本心で破廉恥って言ってそうだよね」
「婚約者如きで破廉恥っていう真田の思考が分からない」
ひよりとかすがは呟きあった。
「ひより、ちょいと此方に来てくんねーか?」
佐助に呼ばれて、ひよりは教室を出た。
何室かの教室を過ぎ去り、廊下を歩く佐助の後に、ひよりは続いた。
階段の所に来ると、佐助はやっと止まった。振り返ってひよりの顔を見据える。
「何?如何かした?」
ひよりはキョトンと首を傾げた。佐助はその仕草に溜め息を吐いた。
「何その溜め息。さっきの芝居の事?」
「…そんな冷たい言い方しなくてもいいんじゃないの?」
佐助は顔を顰めた。ひよりはその表情を和らげようと、少しだけ笑みを浮かべ、頭に浮かぶ"言いたい事"を優しげな言葉に変えて吐き出した。
「…だってね、佐助の台詞の言い方さ、こう…何て言うか心に、」
「台詞の言い方に文句があんの?」
最後まで言い終わらない内に口を挟まれ、ひよりは少しムッとした。先程より更に眉間に皺を寄せた佐助を見て、更に苛立ちが募る。
(…私の方が苛ついてるんだけど)
「…俺様さ、ひよりと何かをやり遂げたいんだよ。今回はその第一回目じゃん?」
佐助の言葉に、更に更に苛立ちが募った。
何その綺麗事。
「だから投げ遣りな気持ちでやらないで欲しいんだ」
その言葉に、ひよりは何かがプチンと切れた気がした。
「えっと…ほら、巫山戯て台詞変えたりとかさ、」
「勝手な事言わないで!」
ひよりは佐助を睨みながら叫んだ。その目には涙が溜まっている様に見える。
「投げ遣りな気持ち!?何時!?誰がそんな気持ちで芝居に望んだって!?」
「あ…っひより、違う違う!俺様はそう言う事を言ってるんじゃなくて、」
「投げ遣りなのはどっちよ!!いっつもヘラヘラして!!芝居も!!あんなの、何処に気持ちが入ってるの!!」
ひよりは力任せに叫んでいた。思考が纏まらず、正直自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。
「もうっもう佐助なんか知らないっ!!」
「ひよりっ!」
佐助は逃げ出そうとするひよりを止めようと腕を伸ばしたが、一瞬間に合わず、ひよりは走り去ってしまった。
「…ひより…」
俺様は…ひよりを責めるつもりじゃなかったんだぜ?
何で…こんなに擦れ違うんだよ…。
佐助とひよりが喧嘩してから、一週間経った。そして今日は文化祭当日。
つまり演劇の発表だ。
最後の仕上げの一週間に、ひよりは一度も練習に来なかった。
「ひよりとの合わせ…ぶっつけ本番だが大丈夫か?」
政宗は、机の上に座り、窓に寄りかかって空を眺めている佐助に声を掛けた。
一週間前、2人が喧嘩をした、と言う事は何故かクラスに広まっていた。噂と言う物は怖い物で、すぐ周囲に広まってしまう。
「…それよりひよりが本番に来るかどうかの方が心配だよ」
暗い表情の佐助の言葉は尤もで、周囲は息を呑んだ。
主人公が来ないとなれば、演劇は成り立たない。
代役を準備すると言うのも、本番直前では無理な話だ。
「かすがも…ひよりの居場所…分からないの…?」
市がおずおずとかすがに尋ねた。
「知っていたら疾っくに言ってる」
「そう…だよね…ご免なさい…」
自分を責める様に俯いた市に、かすがは慌ててフォローの言葉を返した。
「市は悪くないからな?そもそもひよりの機嫌を損なわせた佐助が悪いのだから」
「…うん…」
市がこくんと頷いたのに対し、聞き耳を立てていた佐助はすぐ言い返した。
「いや、否定してよ」
「では佐助はひよりの居場所に心当たりはあるのか?」
「え…」
「仮にも彼氏だろう?彼女の居場所位認識しているのが普通だ」
「…そう言われてもねぇ…」
ひよりの居場所に心当たりがないと言ったら嘘になる。
でも今佐助が其処に行った所で、余計機嫌を損ねるのは目に見えていた。
他の人に行かせたら如何か、とも考えたが、ひよりが"貼り付けた"笑みを浮かべるのを見たくなかった。
演劇としては来て欲しいが、彼氏としては来ないで欲しいと思っている。
この矛盾した思いに為す術もなく、佐助は誤魔化すように溜め息を吐いた。
「…俺様も、知ってたら疾っくに言ってるよ」
佐助は他の人に分からない程度に自嘲した。
「…lastの通しだけはしておきたかったんだがな」
政宗が溜め息混じりに呟いた。
「ひより抜きで一度通さねぇか?時間はあるんだし」
今まで考え込むように黙っていた慶次が口を開いた。
「いや、他の奴の演技はperfectだ。練習する必要はねぇ。強いて言えば、真田の演技だな」
「某もぱーふぇくとでござる!!」
「本当にperfectな奴は、"ぱーふぇくと"なんて言わねーんだよ」
「なっ」
「…?」
其処で佐助は、何らかの違和感に気が付いた。
ひよりは佐助の演じ方が気に食わない、心がこもっていないという事で怒っていた。
しかし、そんな演技の仕方だと、監督も怒るんじゃないだろうか。
気に入らないシーンだと有無を言わさずカットするあの独眼竜も、佐助の心のこもっていない演技にケチを付ける筈だ。
なのにパーフェクトと来た。
となると、ひよりは何が気に食わなかったんだ?
「…あ、俺様ちょっと出てくるー」
確かめなければ。
地面を照りつける太陽を見上げた。眩しさに目を瞑る。
丸で太陽が何処か別の所へ連れて行ってくれる感覚がする。
ひよりは屋上が好きなのは、その為だった。
今日は晴天。心とは裏腹のその天気が、恨めしく、また羨ましくもあった。
佐助と喧嘩して早一週間。その間、あんな事を言ってしまった気まずさの所為で練習に行けず、皆に迷惑を掛けてしまった。
だから今日は行かなくてはならない。仮にもヒロインだ。
此処で行かずに何時行くと言うのだ。
でもひよりは行けなかった。
クラスメートの視線が怖かった。
「…本当は…佐助に拒絶されるのが怖いんだけどね…」
ひよりは溜め息を吐いた。
幸い屋上には誰も居ない。
皆に迷惑を掛けない様に台詞の練習はしておこう。
ひよりはそう決心すると、台本を広げた。台詞は頭に入っているが、もし間違えていたら迷惑極まりない。
取り敢えず登場シーンから通す事にした。
軽く発生練習を済ませ、目の前に人が居るような気持ちで、落下防止の柵の前に立つ。
「父上様、私、外へ出てみたいです」
(君にはまだ早いだろう。考えて物を言いなさい)
頭の中に父上の言葉を浮かべて台詞を発する。所謂イメトレという奴だ。
父上役は半兵衛。彼の演技はしっかり頭に入っている。
一通りこなしていくと、遂に最後のシーンになった。
(姫は如何ですか?)
佐助の声が頭を過ぎる。ひよりは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに息を整えた。
「…私は……私も…っ」
ひよりはまっすぐ虚空を見つめて言った。
「貴方の事を…愛しています!」
その台詞は、空へ吸い込まれた。
それと同時に屋上の扉が開かれた。
秋の涼しい風が、ひよりと佐助の間を通り抜けた。
「佐助…っ」
ひよりは恐れる様に佐助を見た。
(今のを見られた…!?)
「ひより…やっぱり此処に居たんだなー」
「え…?」
佐助は何事もなかったかの様に、笑顔でひよりに近付いた。
ひよりは余計に不安になった。
「何ぼーっとしてんの。演劇始まっちゃうでしょ?」
「えっ…あっ」
ぐいっと腕を掴まれて引っ張られた。
予想に反して、佐助は普通だった。一週間前の喧嘩の面影すら何処にもなく、いつも通りだ。
「……うん」
ごめん、と消え入りそうな声で呟いた。
佐助は何も言わなかった。
演劇本番直前、衣装に身を包んだひよりは小さく深呼吸をした。
殆どの演技には自信があった。成功する、という確信もあった。
最後以外は。
「ひより、円陣組むぞ」
「うん」
かすがに呼ばれ、ひよりはちょこちょこと歩いて、クラス全員の円陣に加わった。
「揃ったな」
政宗が全員を見渡して言った。どうやらひよりが最後だったようだ。
「全員で成功させようぜ」
政宗は力強く言った。全員が頷く。
「よしっ、let's party!!」
「Yeah!!」
お決まりの掛け声で、それぞれの持ち場に散る。
ひよりは舞台袖に控えていた。
もうすぐ幕が開く。
「頑張れよ」
慶次の言葉が聞こえ、ひよりは頷いてから舞台に上がった。
ブザーの音と共に放送が響いた。
そして─────
演劇の始まりを告げる、幕が開いた。
“Time of Love”は諒と言う王子と雅と言う姫の恋愛物語だ。
姫が城を抜け出し、街を歩いていた所、白馬に乗って街を観光していた王子様に出逢った。
「貴方が…王子様ですか?」
驚いた風に姫は王子を見上げた。
「はい、諒と申します。貴女は…?」
「私は雅と申します。」
「雅様…と仰られるのですね」
「はい、諒様」
それが2人の出逢いだった。それから互いの両親に邪魔されつつも、少しずつ親交を深めた。
「次がlast sceneだ」
その瞬間、ひよりは極度の緊張に襲われた。先程の芝居も十分緊張していたが、それを超える緊張だった。
「ひより、あまり気張るなよ?」
かすがが心配そうに言ってくれた。が、だからと言って緊張が簡単に解れる筈もなく、ひよりはガチガチに固まっていた。
その時ぽんっと頭に優しい感触があった。
見上げてみると、すぐに佐助の手だと分かった。
「佐助…」
「あんま緊張すんなって。いつも通りやればいいんだからさ」
「いつも通り…」
台詞が棒読みになるのを隠す為に、練習では散々台詞を変えたりして皆を困らせた。
そのいつも通りで行け、と言われても困ってしまう。
「だーから、いつも通りの、ひよりの本心で演じてほしいの」
佐助の言葉の意味は今いち分からなかったが、何だか心が落ち着いた気がした。
「佐助…」
「じゃあ行こっか、お姫様」
佐助が片膝をついて差し出した右手に、ひよりはそっと左手を乗せた。
「えぇ、王子様」
2人が暗闇の中舞台に上がり、周りに造った花を散らばせた頃、舞台の照明が煌々と輝きを始めた。
「…姫よ」
「はい、王子様」
佐助がひよりの手を取る。
「僕は、一生貴女の事を愛する事を誓います」
台本通り。
ひよりは心がざわめくのを感じた。
もうすぐ言わなければならない。
「貴女は如何ですか?」
今まで逃げ続けてきた代償、なのだろう。
佐助に拒絶されるのを恐れ、必死に逃げ回っていた代償。
全てひより自身が自分に科した罰なのだ。
「私…は……」
心臓の音が煩い。
ひよりはぎゅっと目を瞑って、続きを言おうと口を開いた。
「ひより、」
突如呼ばれた名に驚き、ひよりは目を見開いた。
まだ芝居は終わっていない。それなのに本名を呼ばれ、全く頭がついていかない。
「俺はひよりを大切に想っています」
台本にはない台詞が、佐助の口から零れた。
然しそれははっきりと、客席の方にも響き渡った。
少し照明が赤味を増して、桃色っぽい感じになった。
「ひよりが俺の事を如何思っていようと、俺はひよりの事が大好きだし、一生傍に居たい」
台詞ではないモノが、ひよりの心にすとんと落ちた気がした。
「佐…助…」
ひよりは溢れそうになる涙を堪えながら、佐助を見つめた。
言わなければならない、絶対に。
ここで言わなければ、確実に後悔する。
「私も…一生…傍に居たい…です」
その瞬間佐助に思いっきり抱き締められ、天井から大量の花弁が降ってきた。
こんな演出は台本にはない。
ひよりは、悲しくもないのに涙が零れた。
「有り難う…佐助…」
ゆっくりと幕が降りる。
客席からは拍手が聞こえる。
大成功だった。
セリフじゃない、俺の本心
(伝わったよな)(俺様の本心)
セリフじゃない、私の本心
(言えて良かった)(感謝の心)
2010/10/16
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「セリフじゃない、俺の本心」はお題サイト「君がいるから」様から頂いたお題です。
最後のヒロインへのサプライズは、クラス全体で前々から計画していた、という裏設定があります。
お持ち帰りは杉田甘楽さまのみどうぞ
デフォルト名前:魅夜