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咲き誇る花を思わせる、艶
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時計の針が11時を指差し、昼休憩はあと長針が半周したら訪れる。早く昼になれと皆が思う中、元親は用を済ませる為、事務の居る二階へと向かった。元親自身は営業部であるのだが、生憎今日は事務との梯子しか仕事がない。ふっと苦笑いを浮かべ、事務室への扉を開ける。
変わり映えのない、さっぱりした机が三つ並んでいる部屋。事務は一部屋に三、四人配置されていて、この部屋は全員女性で構成されている。目当ての事務員の席に近付けば、開きっぱなしのノートパソコンと書類が数束、芯の出たままのボールペンが寂寞とした面持ちで佇んでいた。そしてその主は俯いて心地良さそうに目を瞑っている。他の事務員を見遣っても愛想笑いが返されて、どうやら元親が起こす以外の選択肢はないらしい。

「海月」

その事務員の名を呼びつつ、項垂れる彼女の肩を叩いた。振り向き様にチラリとノートパソコンを覗き、溜め息をひとつ。

「おい海月」

二度目の呼び掛けにやっと反応があった。そっと頭をもたげ、とろんした目付きで元親を見る。思わず安堵の溜め息を漏らせば、幾度か瞬きを始めた。

「あれ、元親さん」
「あれ、じゃねぇ。仕事はどうした、仕事は」

新年会の写真がデスクトップのノートパソコンを指差し、首になるぞと脅してみる。しかしきょとんと首を傾げる彼女は、もしや天然なのか、いや寝ぼけているのか。

「元親さんの家に上がらせて頂けるのならば、頑張ります」
「一体どこからそんな話が出てくるんだ」
「私の頭の中からです」

どうやら完全に起きているらしい。
元親は誰にともなく溜め息をついて、頭を盛大に悩ませた。

(何故かはコイツに妙に好かれている。別に俺が何かした訳でもなく……最初から、一目会った時からだ。分からねぇ。何故だ)

思案モードに入り掛けた頭を戻し、海月へと声を掛けた。

「んなモン出来る訳ねーだろ。俺だって色々あんだよ」
「……そう、ですか」

突如一気にしゅんとしてしまった目の前の部下に、どう対処すべきか困った。このまま“おら、さっさと仕事しやがれ!”というのも可能ではある。

(でもそれで俺が嫌われて、他の別の男の方に行っちまったらどうする。コイツが他の男に媚び諂っている所……うわ、見たくねぇ。……っておいおい、可笑しいだろ。他の男に嫉妬する意味が分からねぇ。海月を好きっていう訳じゃねぇんだし……)

元親ははた、と矛盾に気が付いた。

「……いや、これは好き、なんじゃ……?」
「はい?」

思わず呟いた事を聞き返され、元親は大きく仰け反り掛けた。不思議そうにこちらを見ている彼女の反応からして、聞こえてはいなかったようだ。

「い、いや、何でもねぇ」

慌てて何事もなかったように繕い、苦々しく笑う。首を傾げる海月の目は大きく、よく見れば可愛らしい顔立ちだ。

「……じゃあよ、今晩、ウチ来るか?」

少し視線を外して、問い掛ける。頬がかっと熱くなるのが分かった。羞恥が心を満たし、海月の方を見るのが怖い。

「良い、ですか?」
「おうよ。その代わり、ちゃんと仕事しろよ……ひより」

ふわりと花の香りがして、ひよりが頬を染めて微笑んでいる事に気付いた。

「有り難う御座います!頑張ります!」

真っ赤な顔のまま、途端にノートパソコンへと視線を向けるひより。その姿に気恥ずかしさを感じながら、彼女の薄紅色の頬に手を当てる。自分の手が冷たいからなのか、途轍もなく熱を感じて、暖房のせいか元親のせいかよく分からない。
ひよりが僅かに俯いたのが分かった。それから突如としてくつくつと肩を揺らし始める。何が起きているのか、元親にはさっぱり分からない。

「どうした?」

訝しく訊ねてみる。そうすれば、数秒もせぬ内に顔を上げたひよりの表情に、呆気にとられた。
笑っているのだ、そう、嬉しそうとも悪戯っぽくともとれるその笑顔で、頬に触れる元親の手を両手でそっと包み込んだ。

「元親さんったら、甘いですね」

そんな所も好きなんですけれど、と嬉しいような悲しいような言葉を吐き出したひよりは、感情の読み辛い彼女らしい笑みを深めて再びパソコンに向き直った。
温かい手の感覚は、元親の手に残ったままに。


咲き誇る花を思わせる、艶
(そんな笑顔が好きだと)(思った俺は愚かか否か)



2012/02/21
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遅くなりました赤緋さま!すみません、相互して下さってからどれほどの月日が経った事か…っ!
いつも有り難う御座います。今後とも宜しくしてやって下されば幸いです。
お持ち帰りは槇村赤緋さまのみどうぞ

デフォルト 名前:赤緋 苗字:槇村

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