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Black Rose
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七月八日、紛れもなくそれは“あの”日だ。
絶対に忘れる事はない。忘れてはいけない。忘れた時にゃ、何をされるか分かったもんじゃない。
とりあえず“そんな”日だ。そんな“悪夢”のような日だ。



 

私は朝起きてカレンダーで日付を確認した途端、大きく溜め息をついた。


「めんどくさい」


正直めんどくさ過ぎて、何もする気が起きない。だからといって何もしなかったら、その時はとんでもない仕置きが待っているだろう。
そう、沖田総悟からのお仕置きが。
今日は私の彼氏、沖田総悟の誕生日なのだ。


「っあー……どうしよう」


分かっていた事だった。今日が彼の誕生日だと言う事は、一ヶ月前から気付いていた。しかし、まだ先だろうという甘い考えでプレゼントを用意していなかった。
そして今日。何も準備出来ていないのに、今日が訪れてしまった。
時が経つのは早いなと年寄りめいた事を呟いて、勢いを付けて布団から立ち上がった。


「……誰かに相談するか」


私は手早く普段着に着替えると、気怠い足取りで街に出た。

 



「銀ちゃん辺りに聞くとか?」


頼りないだろうな。
自分の考えを軽く一蹴して、どうしようとさまよっていると、馴染みの呉服屋が視界に入った。古びた昔ながらのそこは、天人が着てからも全く変わっていないと聞く。


「着物をプレゼント」


それはないな。
思わず手を顔の前で呆れた風に数回振ってしまった。しかし、着物とは男が女にあげる物だという認識が強い。


「ここも空振りか」


私は女らしくもなく、頭をボリボリと掻きながら去ろうと踵を返した。そこで不意に後ろから名を呼ばれた。


「あら、ひよりちゃんじゃない」


何事かと振り返れば、呉服屋のおばさんが着物を片手に出てきた所だった。


「いつもお世話になってます」


軽く一礼し、にこやかなおばさんの顔を見る。折角だからおばさんに相談しよう、と私は口を開いた。


「少し、時間あります?」


私は呉服屋の奥の、おばさんが住む部屋に座っていた。日頃から贔屓にしているからか、おばさんはたまにこうやって家に上げてくれる。私もおばさんと居るのは楽しいから、つい会話が弾むのだ。
そんなおばさんに、私は総悟の誕生日プレゼントについて相談した。


「……ひよりちゃん」
「はい」
「この間ウチに彼氏さんと一緒に来たでしょ?」
「ええ、まあ」


どうして今その話が出るのだろう。
私が首を傾げていると、もう、と女子高生のノリで肩を小突かれた。


「その時に彼氏さんが選んだ着物、取っておいてあるわ」


おばさんの言っている意図が掴めず、私は目を瞬せた。


「それ着て会いに行きなさい」
「どういう事ですか?」
「いいから。それだけでプレゼントになるわよ」


テンションの高いおばさんに押され、私はその着物を着る事になった。テンションのお陰か半額で売ってくれたが、黒地に紅い薔薇の咲いた着物。総悟が私に、似合うから着てくれと冗談か本気か分からない言い方で言っていた物だ。





おばさんの着付けに従って無事着終え、その姿で家に帰ってきた。
恥ずかしい。出来れば見せたくない。


「ま、プレゼント無しのお仕置きよりはましか」


言いながら、本日何度目かの溜め息をつく。
その時突然チャイムが鳴り響いた。
誰だろうと考えつつ、新聞の勧誘だったら即締め出してやる、と拳を固める。
そして、少し重い心持ちで扉を開けた。


「ひより、迎えに──!?」
「なっ、そ……総悟っ!?」


追い返そうと構えた拳は一歩も動かず、私は脳天に電撃でも喰らったかのように固まった。総悟はすぐさま家に入ってきて、荒々しく扉を閉める。何が起こったのか分からず、混乱していれば突如壁に押し付けられた。総悟の両手が私の顔のすぐ横を通って、壁についている。


「そ、うご……?」
「その恰好、誰にも見せてないですよねィ?」
「み、見せてないよっ」


総悟の探るような、狩人の目付きに圧倒されたが、嘘は言ってない。いや、おばさんには見られたが、男じゃないから大丈夫だろう。
それを聞いて安心したのか、総悟は私を抱き締めてきた。顔が一気に熱くなる。きっと今の私の顔は林檎より赤いだろう。


「そんな恰好しやがって、誘ってるんですかィ?」


いきなり何を言い出すかと思えば、黒い笑みを浮かべながらこちらを見る総悟。嗚呼、真っ赤な顔を見られてる。その事が私を更に熱くさせた。


「誘ってない、このドSめ」


余計恥ずかしくなるから、言わないで欲しい。


「……今日はひよりからして下せェ」
「え……?」


耳元で囁かれた言葉に、身体が僅かに反応しながらも言葉の真意が掴めず、総悟の顔をそっと見つめて聞き返した。


「キス……ひよりからして下せェ。そうしたらプレゼント用意してなくて、今日走り回ってた事、許してやりまさァ」


気付いていたのかっ!
羞恥に身体中を火照らせながら、私は一度目を伏せ、呼吸を整える。それからそっと、軽く唇を触れ合わせた。


「総悟、大好きだよ」
「俺もでさァ」



Black Rose
(この幸せが永遠に続けば良い)


2010/07/08
2012/02/15編集
__________
総悟、HappyBirthday!
甘っ、何これ、自分こんなに甘い話書けたんですね!(笑)


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