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オリオン座の綺麗な夜
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ひゅう、と容赦なく吹きつけてくる風に、知らず知らずのうちに体が冷え切っていた。
嫌な季節だ。何をするにもめんどくさい。

「さっびーんだよ、ばーーーか」

口先だけで悪態をついてみても、体を支配する冷えは一向に変わらず、白い息がふわっと口からこぼれるのみだ。
何もこの寒い時に山から山へと移動しなくたってよかった。
とはいえ、これから向かう先――倒したい相手のいる場所へと向かうには必要な道だ。いずれは通らなくてはならないし、おれさまさいきょうだから寒さなんてへっちゃらだっつーの! なんて言ってた自分が恨めしい。
いくらさいきょうったって、自然には勝てないものなのだ。だったらもうここいらで寝床を探した方がいいだろう。

「……――」

そう考え始めたところに、ふと耳に届く声があった。

「なんだなんだ?」

じっと耳をすましていると、どこからか川の音みたいな、やさしい歌声が聞こえる。
誰だろう、すごくきれいだ。
つい聞きほれてしまうような、柔らかくて優しい声。いったいどんなヤツが歌っているのだろう。
確か麓に村があったはずだ。そこまで行けば会えるだろうか。
一度動き出した好奇心はそう簡単に止まってはくれなくて、気が付いたら夢中で声の主を探していた。
草の根を掻き分けて、ひたすら山道を降る。

どこだ、どこにいる。ただ一目でいい。いや、話をしてみたい。
どんな声で笑うのか、どんな顔をして泣くのか、知りたい。

さっきまで気になっていた寒さなんて全く気にもならなくて、ただひたすらに求めた――と、徐々に大きくなっていく歌声に、胸が高鳴る。

「ここだ!」
「きゃっ!?」

勢いよく飛び出した先は、ほとんど麓に近い原っぱ。甲高い悲鳴を短く上げた少女が一人、岩から腰を浮かせて怯えていた。おそらく麓の村人だ。

「ど、どなたですか……?」

震える体を守るように両手で自分を抱きかかえながら、警戒したようにこちらを見る少女。そのか細い声の美しさと、そのきれいな容姿に、この少女があの歌声の主だということはすぐにわかった。
ずかずかと少女に歩みを進めて、思わずほころぶ顔をそのままに、ほえた。

「おまえ、歌うまいな!」

今にも逃げ出そうとしていた少女は、おれさまの言葉に目をぱちぱちと何度もまたたいて、信じられないものでも見るかのようにじっと見てきた。
褒めてやったのに、悪いことしたみたいでむかつく。

「なんだよ、おれさまの顔になんかついてんのか?」
「あっ、いいえ、失礼しました!」

さらにずいっと顔を近づけるおれさまから一歩後ろに下がって、少女はばつが悪そうに頬を染めた。

「そんな、面と向かって上手だって言われたの、初めてで……その、びっくりしちゃいました」

肩まである黒い髪を耳にかけて、照れたように首をかく少女に、むかついてたこともすっかり吹き飛んで、首をかしげる。

「おめーすっごくうまいのに、褒められたことねーの?」

よいしょ、と少女がさっきまで座っていたらしい岩に腰かけて、不思議に思ったことを聞いた。こんなにうまいんだから、村中から褒められてても不思議ではない。
少女はそんな質問に少し困ったように笑ってから、おれさまの隣に座った。

「母の方が、ずっとずっと上手だから……私なんて、全然……」

はかない声で悲しくゆがんだ少女の横顔を見る。あの歌声そのものが形になったようなうつくしさをもつ少女は、悲しそうにしていてもきれいなままだ。それに、ずっとおれさまの頭に残っている先ほどの歌も、変わらずきれいなまま。

「誰と比べたって、おめーはおめーでしかねーぞ」

少女は目を丸くして、おれさまをじっと見つめた。

「おれさまがきれいだ、うまいって思って、どんなヤツなのか探したのは、おめーの母ちゃんじゃなくておめーなんだぞ」

その顔から生まれるきれいな歌声は、まちがいなくおれさまの胸に届いたわけだし。
少女は泣きだしそうに顔をゆがませて、けれどもそれをぐっとこらえて、笑った。そして、ゆっくりと息を吸い込んで――

「――――」

夜空に向かってうつくしい声でつむがれた歌は、さっきの歌よりも心地よく、耳に響いた。


(ありがとうを告げるのは恥ずかしいから)(あなただけにこの歌を贈る)


20170218
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名前変換が全然ないうえに武蔵が難しい言葉をつかっていたりする異常事態ですが、目を瞑っていただければ幸いです。
(難しい言葉もひらがなにすれば武蔵っぽいかなとか思ってないですよそんなこと…)

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