「暑ー」
クーラーが効かなくなる程暑い。
どこぞの天気予報士に寄ると、今日は今年一番の暑さらしい。
「一昨日もそんな事言ってたよな…」
ソファーに寝転びながら、汗を流すギル。
「天気予報なんて中々宛てにならないよ。きっと来週も同じ事言うよ」
ギルの世話係とも呼べる存在のひよりは、ギルにタオルを投げつけながら言った。
そのタオルは、ギルの顔に直撃する直前で彼の手によって止められる。
「ちっ」
「舌打ちすんな!」
「ヘタレの癖にー」
「ヘタレは理由にならないだろ!?」
只でさえ暑さで苛ついている。
自分の思い通りにならなければ余計に苛ついてしまうのが道理だ。
「ねぇギル」
「何だ?」
「暑い」
「それさっき聞いた」
「そうだけどさー」
分かりきった事を呟きながら、私はクーラーの風を直に受けた。
涼しくないが、気休めにはなるだろう。
「熱中症になっちゃうよー」
「ひよりは体強いから大丈夫だろ」
「私風邪引いた事ないもんね!」
ひよりは胸を張って言った。
ギルは呆れ気味だ。
「馬鹿は風邪引かねーって言うしな」
「失礼な!馬鹿じゃないもん!!」
ギルの馬鹿!等と言いながら、ひよりはこんな昼間からギルと2人っきりで居られる事が、嬉しくて仕方なかった。
仕事や、彼の事情で会えない事の方が多い。
その為、ひよりは起床と就寝の世話しか出来ない。
今も本当はすべき仕事がある筈だが、一緒に居てくれる。
それが嬉しくてならなかった。
「ギルー…クーラーの温度は?」
「25度だ」
「効かなさすぎだよ、これ。変えてもらおうよ」
「無茶言うな。ほら、俺が扇いでやるから」
「ほんと!?」
きらきらした目でギルを見るひより。
ギルは仕方なく、近くの扇子でひよりを扇ぎ始めた。
どっちが世話係か、分かったもんじゃない。
「ん、涼しー」
「そうか」
でも今は、私がギルの時間の中に居る。
それだけで十分だ。
緩く吹く風に安心感を覚えながら、ひよりは幸せだな、と思っていた。
ガタッ
突然幸せを割く原因が姿を現した。
「あ、ギル、こんな所に居たのか」
「オズ!」
不意にひよりが感じていた風が、ふわりと無くなる。
彼の時間の中から、私が姿を消した。
彼の瞳から、私が消えた。
その瞬間には必ず、あの少年が居た。
「ひよりも」
「はい、オズ様」
ひよりは作り笑いを浮かべた。
オズ=ベザリウス。
彼の所為だ。
「オズ、ふらふらしないか?」
「大丈夫だよ。心配し過ぎ。ギルこそ倒れそうなんじゃない?」
「なっ」
俺はだな、と話を続ける2人に、ひよりは背を向けた。
どうして…
私を見てくれないの…?
床に、悲しみを伝える一滴の雫が零れ落ちた。
貴方の時間に、貴方の瞳に、私を存在させて
(それだけが唯一の)
(私の願いだから…)
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暑さで死にかけた上に不意に切ない物が書きたくなって出来た産物。