沈む
暗闇に、一人。
周囲は真っ暗で、真っ黒で、何も見えない。
道という道もなく、壁という壁もない。風の音さえ聞こえない。自分の呼吸の音さえも、吸い込まれて消えてゆく。生きているのか死んでいるのか、そんな境目に一人で立っていた。全てを飲み込まれそうなのに、何故かとても心地良かった。何も考えずにぬるま湯に浸かっているような、そんな。
処刑台に登るような安堵感で歩を重ねる。進んでいるかは分からなかったが、それが唯一の救いな気がした。ここから飛び降りられれば楽だろうにと、終わりのない床を眺めた。
疲れていた。世間に、夢に、希望に、現実に。認められたいのに、諦めたくないのに、眩しすぎて打ちのめされてしまう。冷たい空っ風に吹きさらされて、誰にも見つからない場所で野垂れ死ぬ。人生なんてそんなもの。そんなつまらない人にはなりたくなかったのに、いつしか立っている場所はそこ。世間はマイノリティに冷たくて、夢や希望を灯せと言われても、現実が全て殺していく。きっと勇気がないだけだと人は言うけれど、人生無駄にするつもりで行けと無責任に告げるけれど、頼むから自分の人生滅茶苦茶にしてから言ってくれ。自分だって分かっているのだから、他人の人生に口出ししないでくれ。友人も親も、結局は赤の他人にすぎない。血が繋がっていようがいまいが、どれだけ世話になろうがならまいが、別個体であることに変わりはない。所有物なんかじゃあない。一人の人間なんだと、早く気づいて欲しい。
ふ、と浮遊感。落ちる身体に醒める意識。重力のままに落ちていき、そうしてふわりと浮き上がる。水の中に揺蕩うような、そんな微睡み。ここはどこだろう、という今更な問いには、どうでもいいか、というリタイア宣言。思考を放棄するのは簡単で難しい。だが、眠れば休むことができる。それは一時的な逃避であり、前にも後にも進まない。眠れないのは辛い。現実に常に揉まれ続けるわけなのだから。
薄れる意識を目の前に、取り留めもないことを考えることもなく、ただ目を瞑った。
あの現状から逃げられるなら、何処へだって構わない。
たとえ、今よりも過酷な、狭い道だったとしても。
- 1 -
*前次#
ページ: