涼やかな音に左近はおや、と顔を上げた。予想通り、硝子で出来た小さな鐘が、吹き抜ける風に揺られている。ひょいと顔を覗かせれば、屋敷の主が気怠げに軍配を団扇代わりにしていた。
「風流ですねぇ、信玄公」
「そうじゃろそうじゃろ。ナマエが気を利かして吊るしてくれたんじゃよ」
部屋の隅でお茶の用意をしていたらしい娘がぺこりと頭を下げた。見ない顔であるが、どうやらナマエという名らしい。興味を惹かれた左近がじっと彼女を見つめていると、ナマエははにかみながらお茶を差し出してきた。
「……よろしければ、どうぞ」
「有り難く、いただきましょう」
「むう、儂より左近が先とは寂しいのう……」
「も、申し訳ありません!」
かちゃかちゃと音を立てながら用意するナマエの慌てた様子を、信玄が仮面の奥でくつくつ笑う。左近は茶を口に含みながら苦笑を零した。
「……全く、信玄公も人が悪い」
「なんのことかのう」
「虎のお気に入り、ですかい?」
「そうじゃよ。だから傷付けるような事したら、左近でも……許さんよ?」
冗談めいた口調であるのに、仮面の奥の光は真剣だった。その静かな気迫に、怖い怖い、と左近は肩を竦めた。しかし、いつだって飄々としている信玄が、ここまで感情を露わにするほどの娘とあれば、俄然興味も湧いてしまう。
「ま、お手柔らかにお願いしますよ」
「……全く、左近は諦めが悪いのう」
「お互い様でしょう?」
「えっと……お館様、お茶の用意が出来ました」
「うむ。まずは一杯」
――チリン、チリン。
涼やかな音が響く中、二人はにやりと口角をつり上げた。
引く気なんて更々無い
真剣勝負といきましょうか
拍手用に書いたけど以下略その二。
拙宅の左近さんは横恋慕要員です(笑)
風鈴、大好きなんですが毎年買いそびれます……
title thanks:Seventh Heaven
2011/10/07
天倉