笑顔に
絆される
事など
ある筈も
無い




遠呂智様がめでたく復活を果たされた。人間共が戦々恐々としながらも、我らが遠呂智様の軍勢に挑んでくるのを、我輩の知略と悟空の武力を活かして完膚無きまでに叩き潰していく日々の中。悟空が捕らえたという人間の娘・ナマエに、何故か懐かれた。



「清盛さま!」

「何かね、我輩は忙しいのだが」

「なら、お手伝い致します!」



捕虜ならばおとなしくしておれば良いものを。悟空に世話を任せたのであったが、「コイツ、逃げる気が無ぇらしくてよ」とあっけらかんとして言うものだから当てにならない。妲己に至っては「おじいさんと孫って感じよねえ…お似合いよ、清盛お・じ・い・さ・ん」などと茶化してくる故に、腹が煮えた。しかし、此の娘と接していると、そんな怒りも何処かに収まってしまうのだからおかしなものよ。



「卿が手伝えることは何も無い」

「じゃあ、お腹は空いておりませんか?」

「此の躯になってから、腹は空かなくなりおったわ」

「では、」

「喉の乾きも無い。眠気も疲れも殆ど無い。まこと良き躯を得たものだ」



呵々と笑えば、そうですか、としょげかえる。…どうしてそこまで我輩に懐いてくるのか、少しばかりの興味が湧いた。遠呂智様より力を頂いてから、姿も力も人から外れた。元々妖魔である悟空や妲己より余程恐ろしい外見になったと己でも思うのだが、此の娘は特にそのような恐怖を我輩に見せたことは無い。



「……我輩が恐ろしくは無いのか」

「何でですか?清盛さまは優しい方です」

「優しい、とは。卿の考える優しさとは、なかなか不思議なものらしいな」



人であった頃より、言われたことの無い表現をされた。どう足掻いても己がそのように形容される人物では無いのは、我輩のよく知るところであるので、可笑しさに耐えかねて笑ってしまった。しかし皮肉を皮肉として受け取る程の知力の無さそうなナマエは、不思議でしょうか、と首を傾げている。



「だって、最初に歓迎してくれたじゃないですか!」

「むぅ?……嗚呼、そのような表現をしたか」



娘を含めた捕虜を見下ろしながら、確か「ようこそ、遠呂智軍へ。卿らを喜んで歓迎致そう」と言ったのだったか。皮肉を解した者共は悔しげに睨み付けてきたものだが、成程此の娘はそのままの意として受けとったのであろう。



「もっと怖い人達だと思っていたんです。だから、嬉しくて」

「……ふむ」



にこにこと笑うナマエを見ていると、調子が狂う。ここいらで恐怖を植え付けねば周りに示しがつかぬような気もするのだが、半分残っているらしい我輩の人としての部分が、どうにもそれを億劫がった。……もう少しばかり、このままでも問題はあるまい。



「手伝えないなら、せめて一緒にいても良いですか……?」

「まぁ……良かろう。決して邪魔にはなるでないぞ」

「はーい!」



元気で素直な返事に少し頬が緩んだ。我輩を見上げてくるナマエの頭に、何気なく手を置いてみた。小さな頭は殆ど我輩の手に収まる。……小さなものであるな、と実感を伴って思った。出来るだけ、力まないように、人であった頃の感覚を思い起こしながらナマエの頭を撫でてやる。ナマエのころころとした笑いと、物陰から見ていたらしい妲己と悟空の隠しきれていない笑いが重なって、やはり腹が煮えた。






笑顔に絆される事などある筈も無い
何をそんなに笑うのか









何を思ったか清さん初夢。いや、声が好きだからついうっかり←

小さい子、もしくは阿呆の子に懐かれておじいちゃんしてれば良いと思って。そんなこんなで遠呂智軍好きです。

前に拍手用として書いた産物でした。そんなマイナーな拍手嫌だろ……


2011/11/28
天倉