「そうか、すぐに通すのじゃ、ナマエ!」
来客を伝える侍女、ナマエの隠しきれない弾んだ声に、年若き主である伊達政宗も明るく答える。暫くして、他の侍女に連れられて客人、雑賀孫市が飄々とした様子で現れ、軽く手を上げる。
「よぉ、政宗。久しぶり」
「孫市、元気そうじゃな」
「当たり前だ、何たって俺だぜ?」
「は、何を言う」
軽口を交わしあい、政宗と孫市は互いに笑みを零した。年の離れた二人だが、妙に馬が合う…というより、自由奔放な孫市が、政宗のがむしゃらな生き様を気に入った、という所だろう。政宗としても、諸国の噂話をあれこれと知っている孫市は、信頼の置ける情報源なのだ。久々の対面という事もあって、話題は多岐に渡り、弾んでいく。
「…と、まぁ、中央の連中の動きはこんな感じだ」
「ふむ…そろそろ外交手段を変えねばならぬか」
「……ま、頑張れよ。で、政宗。本題はこれから…」
「女子の話はいらぬぞ、孫市」
思案に耽るよう顎に手を当てた政宗には、幼さの残る顔に当主としての風格が備わりつつある。その頼もしさに、一瞬寂寥を感じた孫市だったが、すぐににやりと口角を上げた。その表情に見覚えのある政宗は、じとり、と隻眼で孫市を見据える。しかし、めげることを知らぬ孫市は、ぺらぺらと先程以上の饒舌さで語り始めた。
「そんなつれない事言うなよ。京の女性は素敵だぜ、雅でしとやかで…おっとここにも素敵な女性は沢山いるな。例えばナマエとか」
「えっ、私はそんな」
「…孫市」
いきなり話題に上ったナマエは、ふるふると首を振った。謙遜するのもまた愛らしいな、と孫市はナマエに詰め寄り手を取る。相変わらずの孫市に、政宗が珍しく低い声音で彼を睨んだ。独眼竜の眼光の鋭さは、修羅場を潜ってきた孫市でも背筋がひやりとする。内心の焦りは隠して、分かってるよ、と彼は肩を竦めた。
「ナマエくらい可愛らしい女性なら、きっと引く手数多だろ?」
「全然そんな事ありませんよ。そろそろ行き遅れになっちゃうかも…」
「勿体ないな、何なら俺…よりも相応しい奴がいるな、なぁ政宗?」
「な、なななな何を馬鹿な事を言うんじゃ馬鹿め!!」
がたっと立ち上がった政宗は、真っ赤な顔で隻眼を彷徨わせる。如何しました、政宗様?とナマエが問いかければ、更に狼狽えた政宗は、何でも無いわ馬鹿め!と叫んだかと思うと部屋を飛び出してしまった。傍らに控えていた彼の腹心が、慣れた様子でついていくのを見届けた後、孫市はやれやれ、と溜め息を吐いた。
「すみません、政宗様いつもあんな感じで。…嫌われてるのかなぁ」
「それは無いから心配はいらない。…が、もうちょっと頑張れよ政宗…」
「?」
まだまだナマエが嫁に行くのは時間がかかりそうだ、と孫市はまた一つ溜め息を吐いたのだった。
自覚と無自覚と本音
素直になれ、気付いてくれ。じゃなきゃ俺がもらっちまうぜ?
いつだったか我が友おとまっさんに催促されたものでした。今頃になってごめんよ。
というかこんな感じでごめんよ。
拙宅孫さんは何だかんだ世話焼きなので、政宗様と侍女がくっつくまで応援してくれると思います。政宗様ちょう頑張れ。
title thanks:確かに恋だった
2013/01/04
天倉