玉響に咲く

さあさあと春雨が降っている。仄明るい庭を眺めると、芽吹き始めた草木が生き生きと輝いて見える。手入れが行き届いているそれらは、絵に描いた様な美しさだった。



そこへ、傘を差した男女が現れた。女は悲しげな様子で、桜の木を見上げる。昨日やっと綻び始めた花が、細雨に打たれてひらりひらりと散っていた。



「嗚呼…折角咲き始めましたのに」

「天の恵みなのですから、是非もないでしょう。貴女が悲しむ事はありませんよ、ナマエ」

「そうですけれど…」



男―明智光秀は、穏やかに笑った。ナマエと呼ばれた付き人は尚も浮かない表情で、桜のしっとりと濡れた幹を撫でる。その儚げな佇まいは、まるで桜の精が舞い降りたかのように光秀には見えた。ナマエが薄桜の着物だったからだろうか。



「育花雨、というのをご存知ですか?」

「いくかう?」

「春先に降って草木に恵みを与え…綺麗に花を咲かせなさいという慈しみに満ちた雨の事です」

「まぁ…じゃあこれが?」



ナマエは傘の外に手を伸ばし、霧の様な雨に触れてみた。思ったより冷たくは無く、光秀の話を聞いた所為か、柔らかく優しいものに感じた。春の雨は光秀の様だとナマエは思う。穏やかに優しく春を告げる雨がもし人に成れたなら、きっと光秀に似た容貌を取るのだろうと。




「蕾はいつか花開きます。見て御覧なさい、全てが散った訳では無いのですから」

「あ…」



光秀が手を伸ばした先には、確かにふっくらとした花の蕾が露に濡れていた。この雨が止んだら、きっと可憐な花を咲かすことだろう。それに気付くと、沈みかけていたナマエの心は随分軽くなった。



「桜が咲いたら、一緒に花見でもしましょうか」

「はい、喜んで」




花を育てる雨の音が、微笑み合う二人を優しく包み込んだ。






玉響に咲く
やっと笑顔になりましたね







3の明智ストーリー見てからずっと書きたかったネタでした。雨と明智と古き佳き日本語は美しい^^

育花雨は桜が咲く前らしいですが…まぁ良いか風流万歳\(^O^)/←

綺麗な文体を目指してみたけど…微妙な所である。


Title thanks:もしもし


2010/03/30
天倉