熱を
孕む
右手

ふと夜中に目が覚めた。暫くぼんやりしていると、外からさあさあと静かな音がする。雨の所為だったか、と思った私は次に雨の嫌いなあの人の事を考えた。睡眠という、己の身体をいたわる行為を忘れてしまった彼には辛い夜だろうと、私はぬくい布団から起き上がった。




(寒っ……)




外気はひやりと私の身体に纏わりついた。それから逃れるように、傍らに置いてあった上掛けを着込む。微かに震える身体を抱きしめながら、私は部屋の外へそろりと足を踏み出した。




(……三成様)




時折足元でぎしりと軋む床板にびくつきながらも、薄暗い廊下を進んでいく。雨の勢いは弱いが、止む気配を見せずにしとしとと降りしきっていた。日を増す毎に冬へと近付いているから、今年最後の雨かもしれない。そう思い、何気なく中庭を見ながら三成様の居室へ向かっていると。




(……!)




傘もささず、ただ雨に打たれて立ち竦んでいる三成様の姿があった。駆け寄ろうか迷ったが、静かに静かに歩み寄る。日頃からぎらぎらとした鬼気に満ちている三成様だったが、今は生気の無い抜け殻のように思えて、私はそっとその背中に寄り添った。




「……ナマエ、か」

「はい、三成様」




驚いた様子も嫌がる素振りも見せず、三成様はぽつんと呟いた。ずっと雨の下に居たのであろう、触れた背中は温もりが欠けている。




「消え失せろ。貴様は斬滅する意味すらない」

「はい、三成様。でも、此処にいては風邪を召します」

「それは貴様もだろう」

「ですから、三成様もお早く」




聞き入れてくれないだろうと思っていたが、ふらりと細身の体は動き始めた。縁側に上り、水を滴らせながら三成様はご自身の部屋へ滑り込む。慌てて後を追うと、拭う布を探す間もなく腕を取られた。




「三成様?」

「……雨は嫌いだ。貴様の声で紛らわせろ」

「その前に濡れた衣を取り替えなくてはなりません。冷えてしまいます」

「冷えなど感じようも無い」

「……左様ですか」




ならば、前より痩せて細くなった貴方様の身体は、何故小刻みに震えておられるのでしょうね。思ったものの、口には出さずに彼の白い手を私は両手で包んだ。




「……っ何の真似だ」

「私はすっかり冷えてしまいました。三成様のお力をお貸し下さいませ」

「何故私が……」




顔をしかめた三成様だけど、手を振り払う事は無かった。私は己の手を温める名目でほう、と息を吹きかけ三成様の手をこする。





ぽたり、と白銀の髪から伝う雫は、まるで涙のようだった。











熱を孕む右手
どうか、温もりを取り戻しますように










雨が嫌で寝られない石田とあやすヒロイン、という比較的簡単なネタの筈なのにスゴく難産。

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title thanks:嘘吐きは誰だ

20111114
天倉