唯一を愛す
君が何よりも
愛しい


夜も更けた丑三つ時。己の欲するままに、愛でるべき価値ある宝を奪い、松永は機嫌良く自らの屋敷に帰ってきた。戦装束を丁寧に脱いだ後、着流し姿となってから軽く香を焚きしめる。疲れは確かに感じていたが、これだけは怠る事は出来ない。




「さて……そろそろ頃合いか」




ゆるりと立ち上がり、向かったのは己の寝室。気配を殺して廊下を進み、辿り着いて障子を小さく開けようとしたその時。





「久秀様?」

「……その通りだよ、ナマエ」




中から聞こえた微かな声に苦笑を洩らしながら、松永は部屋へと足を踏み入れた。敷かれた布団から身を起こし、ナマエと呼ばれた女性が平伏して松永を出迎える。




「お帰りなさいませ、久秀様」

「嗚呼、ただいま。済まないな、起こすつもりは無かったのだがね」

「ふふ、驚かそうとは思っていらっしゃったでしょう?」




顔を上げたナマエは、全てお見通しと言わんばかりに微笑んだ。ナマエは瞳から光を失った代わりに、視力以外の感覚が研ぎ澄まされている。障子を後ろ手に閉めた松永はやれやれ、と溜め息を吐いた。




「忍ですら私の気配を読みにくいと言っていたのに……全く卿には適わないな」

「だって空気が揺らぎますもの。それに、久秀様はお香を焚いていらっしゃるから」

「ふむ。控え目にしたつもりなのだが」

「大丈夫です、微かにしか感じませんよ」




くすくす笑っていたナマエであったが、ふと松永を呼び寄せるように腕を広げた。頼り無げに宙を掴むナマエの手を握り、松永は彼女の傍らへ膝を折る。




「如何かしたのかね」

「もっと此方に寄っていらして?」

「珍しいな、卿がそこまで積極的とは」




茶化す松永には反応せず、抱き寄せられたナマエは松永の首筋に顔を埋めた。すんすん、と鼻を鳴らして香りを嗅ぐナマエの髪を撫で、愉悦に満ちた笑みを浮かべる。ナマエは不意に顔をあげ、自信たっぷりに松永へ微笑んだ。




「……いつもと違う香にしたでしょう?」

「完敗だ。卿の聞香の力は賞賛に値するよ」

「いいえ。私が分かるのは、久秀様の香りだけですもの」




思いもよらない返答に笑みを深めて、松永はナマエに優しく口付けを降らせた。






唯一を愛す君が何よりも愛しい








とあるアニメで、藤原さんボイスのおっさんキャラの奥さんが盲目だったので書いてみました^^←

盲目女性を盲目的に溺愛してる松永さんとかたまらんと思います。この主人公でまた書きたい。

20111122(夫婦の日によせて)
天倉