「如何したのですか、父上?」
「おぉ、稲か」
稲、と呼ばれた娘は控えめに声を掛けた。実父が唸っている理由には心当たりがあるのだが、敢えて素知らぬ振りをする。彼はその事を隠し通せていると思っているからだ。父を尊敬し敬愛している稲姫には、彼の尊厳を崩すという選択肢は無い。
「とある御方に出す文なのだが…最後に歌を付けたものか如何か、と思ってな」
「思い付いた物はあるのですか?」
「いや、全く。父が苦手なのは稲も知っておろう?」
存じております、と稲は小さく笑って返事をした。手先は器用であるのに、和歌や茶の湯などの雅で繊細な物事は、剛直な彼と相性が悪いようだ。その武骨さが父上らしい、と稲は思っていたが。
「無理に飾らずとも良いのでは御座いませんか?父上は父上なのですから」
「無くても問題無かろうか?」
「はい。その方がその御方もお喜びになるかと」
「そうか。では、このままにしておこう」
決断してからの男の行動は早かった。文を懐に突っ込むと、手早く身支度を整える。娘に異常は無いか確認してから、では留守を頼んだぞ!と馬に飛び乗り出掛けていった。
「結局ご自分で渡すのでしたら、文をしたためなくとも良いでしょうに…」
娘が苦笑混じりにそんな呟きを漏らしていたことなど、男は知る筈も無かったのだった。
恋する修羅
何故だかひどく微笑ましい
(ナマエ殿、お久しゅう御座る!)
(ふふ、忠勝様ったら…昨日お会いしたばかりですのに)
(拙者には永久に感じられた。その旨を文にしてみたのだが…如何か?)
(…嗚呼、此れ程までに想われているなんて…私は果報者ですね)
(其れは拙者の事で御座る…ナマエ殿)
何にでも一直線かつ全力だと思うのです、平八は!バカップルじゃないんです、真面目に熱血なんです(笑)
手先が器用云々のくだりは、完璧に天倉の理想というか捏造です。変に不器用だと可愛い。
でもこの話に落ち着くまでに、シリアスやら中編やら色々思い付いてしまったのでいずれ。
title thanks:狐来
2010/06/05
天倉