恋する
修羅

むぅ、と顔をしかめた男が文机の前で唸っていた。筆を握りしめながら、一刻も机上の紙面を眺めて…否、睨みつけている。その形相は、気の弱い者が見れば裸足で逃げ出したくなる程の威圧感だ。だが幸いにも、そこへ訪れたのは男の実娘であった。




「如何したのですか、父上?」

「おぉ、稲か」





稲、と呼ばれた娘は控えめに声を掛けた。実父が唸っている理由には心当たりがあるのだが、敢えて素知らぬ振りをする。彼はその事を隠し通せていると思っているからだ。父を尊敬し敬愛している稲姫には、彼の尊厳を崩すという選択肢は無い。





「とある御方に出す文なのだが…最後に歌を付けたものか如何か、と思ってな」

「思い付いた物はあるのですか?」

「いや、全く。父が苦手なのは稲も知っておろう?」





存じております、と稲は小さく笑って返事をした。手先は器用であるのに、和歌や茶の湯などの雅で繊細な物事は、剛直な彼と相性が悪いようだ。その武骨さが父上らしい、と稲は思っていたが。




「無理に飾らずとも良いのでは御座いませんか?父上は父上なのですから」

「無くても問題無かろうか?」

「はい。その方がその御方もお喜びになるかと」

「そうか。では、このままにしておこう」





決断してからの男の行動は早かった。文を懐に突っ込むと、手早く身支度を整える。娘に異常は無いか確認してから、では留守を頼んだぞ!と馬に飛び乗り出掛けていった。









「結局ご自分で渡すのでしたら、文をしたためなくとも良いでしょうに…」






娘が苦笑混じりにそんな呟きを漏らしていたことなど、男は知る筈も無かったのだった。








恋する修羅
何故だかひどく微笑ましい






(ナマエ殿、お久しゅう御座る!)
(ふふ、忠勝様ったら…昨日お会いしたばかりですのに)
(拙者には永久に感じられた。その旨を文にしてみたのだが…如何か?)
(…嗚呼、此れ程までに想われているなんて…私は果報者ですね)
(其れは拙者の事で御座る…ナマエ殿)







何にでも一直線かつ全力だと思うのです、平八は!バカップルじゃないんです、真面目に熱血なんです(笑)


手先が器用云々のくだりは、完璧に天倉の理想というか捏造です。変に不器用だと可愛い。


でもこの話に落ち着くまでに、シリアスやら中編やら色々思い付いてしまったのでいずれ。


title thanks:狐来

2010/06/05
天倉