波がざん、と押し寄せて浜辺へと染み込んでいく先は人が生きる陸。波がず、と砂やらを巻き込みながら引いていく先は、魚人が生きる海。どちらもお互いに行き来は出来るけれど、共に過ごすとなれば自ずとどちらにも平等な境目―波打ち際になる。
「ジンベエさん」
「おぉ、ナマエ。元気にしておったか?」
「昨日も会ったでしょうに。勿論元気ですよ」
くすくすと笑みを零すナマエに、それもそうじゃなぁとジンベエも笑う。ひとしきり笑った後、昨日の日の暮れる前に、別れてからあった小さな出来事を、二人はゆるやかに並べていった。夕ご飯の材料をおまけしてもらったこと、海の中から見る夕焼けが見事だったこと。眠りながら移動する魚の群れに突撃されたこと、帰り道で猫を見かけたこと。
「真っ黒で、瞳が綺麗な美人さんだったんです」
「猫か…うぅむ」
「ジンベエさんは、猫、お嫌いですか?」
「奴ら、獲物を狙う瞳をしてくるからのぅ…」
「まぁ。猫さんにとっては、魚っていう認識なんですね」
「少なくとも儂は鮫じゃ。美味しくないとは思うんだがなぁ」
困ったように眉尻を下げるジンベエに、ナマエはくすくすと笑みを零した。体も大きくて強く頼もしいジンベエが、小さな猫を苦手としているなんて。こりゃ、笑うな、とジンベエは怒ったように言うが、自身も可笑しくなったらしく、二人でまた沢山笑った。
「猫さんに、ジンベエさんは食べられませんよ、って伝えておきますね」
「頼んだぞ、ナマエ」
「はい。では、そろそろ」
「うむ。ではな」
ナマエの頭をぽんぽんと撫で、ジンベエは海に帰っていく。撫でられた頭を嬉しげに押さえながら、ナマエは町へと歩き出す。今度会うときは、何を話そうか。ささやかな愛おしさは、波打ち際で穏やかに弾けた。
愛ぐし淵
境を越えて、明日もまた
(今日は仲良くなってもらおうと思って猫さんを連れてきました)
(にゃぉ)
(そ、そうか。…ぅッ!!)
(わああ!駄目です猫さん!ジンベエさんの指を食べちゃ…!)
日常っぽい優しげな雰囲気のものを目指してみました。ジンベエさんと猫は和む組み合わせだと思うんです…!
こういう話をちょこちょこ思いつけるようになりたいものです。
title thanks:まばたき
2011.05.03
天倉