言うなれば
全部、だ

珍しく休暇が重なり、共にゆったりとした時間を共有しながら、おれは新聞を、ナマエは本をぱらりぱらりとめくっていた。何処かに出かけるような甲斐性も無く、デートなんぞに浮かれるような柄でも無い。互いに好きなことをしつつも、同じ空間にいるというだけで、少なくともおれは満たされているし心地好さを感じている。何週間も会うことが無いような希薄といえばそうであろう仲ではあるが、ナマエから別れ話の類いは出てこないから、まぁ、似たようなことを思っていてくれているのだろう。そんな折のことだ。




「ねぇ、スモーカー」

「何だ」

「私のどこが好き?」

「……あ?」




唐突な問いに、俺は間の抜けた返事しか出来なかった。ナマエからそこらの女のような台詞が出てくるとは珍しい。変なものでも食ったか、と思ったが、ナマエの手にした本の題名を見て合点がいった。最近巷で話題になっているらしい恋愛物の本だ。確か、たしぎがきゃあきゃあと騒いでいたように思う。




「たしぎちゃんに借りたのよ」

「やっぱりか」

「うん。これにそんな台詞があったから、言ってみた」




くすくすと悪戯っぽく笑っているところを見ると、どうやら本気の質問ではないらしい。何とも馬鹿げた質問だ、どう答えようが女ってモンは気に入らないと駄々を捏ねやがる。そう一蹴しても良かったのだが、ナマエの事ならまぁ良いか、と思い直して、隣に腰掛けた。



「お前のどこが好き、か……」

「あら、本気で考えてくれるのね」

「たまには、それらしい事をしてみんのも悪くねェかと思ってな」

「そう。光栄だわ」



肩を竦めてくすりと笑う仕草、滑らかな肌、そこかしこに残る傷痕。少し傷んだうねりのある髪から、ちらと覗く綺麗なうなじ。甘さを孕んで潤む瞳に、吸い付けば熱を帯びた吐息を零す唇。おれより小さく細い、しなやかで柔らかい躯。確かめるように触れながら、頭に浮かぶ言葉はどれも照れくさい。



「…ん…スモーカー?」

「……躯はおれ好みだ」

「もう、それじゃあ納得出来ないわね」



そりゃそうだ。体だけの関係ならば、ナマエと共に過ごす意味がない。それに、深い関係になったのも、実はごく最近のことだ。だから、躯云々を好きだと言うのは、ナマエの言うとおり当てにならない。



「お前の持つ、おれへの距離感が、丁度良い」

「抽象的過ぎない?」

「あァ?……難しいんだよ」

「そうよねぇ。私だって、貴方のどこが好きか、って言われたら困るもの」



あげてもあげても、尽きることがない。それに、これから一緒に生きていく内に、増えたり減ったりしていく筈だ。今は好きな仕草なんかも、明日になれば煩わしく感じるかも知れない。人間てのは、ひどく曖昧な生きモンだ。



「というか、スモーカー」

「何だ」

「続けちゃうの?」

「ここまで来て、お預けってのは無理だ」



触れたら欲しくなった。ただそれだけのことだ。伝える為に、言葉を生み出したとか言う割に、一番必要な時はやはり体で確かめるしかないのが、おれには皮肉に感じる訳だが。細かい事は気にしねェで、とりあえず久々にナマエの躯を愉しむことにした。







言うなれば全部、だ
複雑なようで簡単なはなし










まだ煙さんを掴みきれていない時の産物。今もですが……
たまにヒロインを大人っぽく書きたくなる不思議。


title thanks:Largo

2011/10/23
天倉