「ねぇ、スモーカー」
「何だ」
「私のどこが好き?」
「……あ?」
唐突な問いに、俺は間の抜けた返事しか出来なかった。ナマエからそこらの女のような台詞が出てくるとは珍しい。変なものでも食ったか、と思ったが、ナマエの手にした本の題名を見て合点がいった。最近巷で話題になっているらしい恋愛物の本だ。確か、たしぎがきゃあきゃあと騒いでいたように思う。
「たしぎちゃんに借りたのよ」
「やっぱりか」
「うん。これにそんな台詞があったから、言ってみた」
くすくすと悪戯っぽく笑っているところを見ると、どうやら本気の質問ではないらしい。何とも馬鹿げた質問だ、どう答えようが女ってモンは気に入らないと駄々を捏ねやがる。そう一蹴しても良かったのだが、ナマエの事ならまぁ良いか、と思い直して、隣に腰掛けた。
「お前のどこが好き、か……」
「あら、本気で考えてくれるのね」
「たまには、それらしい事をしてみんのも悪くねェかと思ってな」
「そう。光栄だわ」
肩を竦めてくすりと笑う仕草、滑らかな肌、そこかしこに残る傷痕。少し傷んだうねりのある髪から、ちらと覗く綺麗なうなじ。甘さを孕んで潤む瞳に、吸い付けば熱を帯びた吐息を零す唇。おれより小さく細い、しなやかで柔らかい躯。確かめるように触れながら、頭に浮かぶ言葉はどれも照れくさい。
「…ん…スモーカー?」
「……躯はおれ好みだ」
「もう、それじゃあ納得出来ないわね」
そりゃそうだ。体だけの関係ならば、ナマエと共に過ごす意味がない。それに、深い関係になったのも、実はごく最近のことだ。だから、躯云々を好きだと言うのは、ナマエの言うとおり当てにならない。
「お前の持つ、おれへの距離感が、丁度良い」
「抽象的過ぎない?」
「あァ?……難しいんだよ」
「そうよねぇ。私だって、貴方のどこが好きか、って言われたら困るもの」
あげてもあげても、尽きることがない。それに、これから一緒に生きていく内に、増えたり減ったりしていく筈だ。今は好きな仕草なんかも、明日になれば煩わしく感じるかも知れない。人間てのは、ひどく曖昧な生きモンだ。
「というか、スモーカー」
「何だ」
「続けちゃうの?」
「ここまで来て、お預けってのは無理だ」
触れたら欲しくなった。ただそれだけのことだ。伝える為に、言葉を生み出したとか言う割に、一番必要な時はやはり体で確かめるしかないのが、おれには皮肉に感じる訳だが。細かい事は気にしねェで、とりあえず久々にナマエの躯を愉しむことにした。
言うなれば全部、だ
複雑なようで簡単なはなし
まだ煙さんを掴みきれていない時の産物。今もですが……
たまにヒロインを大人っぽく書きたくなる不思議。
title thanks:Largo
2011/10/23
天倉