訪問者

「なまえ、おかえりー」
「……何でいんの」

時計の針もてっぺんを指そうかという頃。やっとの思いでたどり着いた我が家は、何故か呼んだ覚えのないニートに占拠されていた。

「ありゃ。せっかく来たのにつめたいな〜」
「平日は来ないでって言ったじゃん」
「そうだっけ?なはー、わりーわりー」
「おそ松の晩ごはんないよ」
「ふっ……安心しろ!俺にはこれがある!」
「それうちの非常食」

カップ麺片手にめっちゃいい笑顔なおそ松を見て、何だかどうでもよくなってきて口を閉じた。コンビニ袋を引っ提げたまま、おそ松が座っている居間を素通りしてキッチンへ。やかんに水を入れて火にかけてから、弁当を電子レンジに突っ込んでスイッチを押した。

「え何突っ立ってるの」
「座ったら二度と立ち上がれなさそうだから暖め終わるの待ってる」
「したら今のうちに化粧落としてきちゃえば?」

確かに。おそ松にしてはいい判断。いや私がもうポンコツなのか。ふらふらと今度は洗面台へ向かう。クレンジングオイルを顔に塗って、水でざばざば洗い流す。後ろから電子レンジの暖め完了音が聞こえてきたけど無視。しらない。流し終わってからタオルで顔を拭い、ようやく一息ついた。はあ。さっぱりした。流れでストッキングを脱いで洗濯かごへ。続いてトップスとスカートとブラも放り投げ、代わりに部屋着に着替える。はあ。やっと帰って来たって感じ。
居間に戻るとテーブルの前にちょこんとおそ松が座っていた。何か真剣そうだなと思ってのぞきこんだら、タイマーをじっと睨み付けていた。その奥にはカップ麺と、私が暖めていたコンビニ弁当。

「ありがとう」
「ん?おかえり。何が?」
「え。いや、お弁当取ってくれてさ」
「んー」

おそ松がつけていたテレビを眺める。人気のタレントが二人で最近の出来事についてまったり話すような番組が流れていた。へえ、知らなかった。こんな番組やってたんだ。結構面白そう。今度から見てみようかな。

「おそ松。まだ3分経ってないよ」
「ぐっ」

カップ麺に伸びていたおそ松の手が引っ込んだ。思わず口元が弛む。そうこうしている間にタイマーが鳴った。二人同時に箸を取り、蓋を開ける。

「うんめー!」
「親子丼がカップ麺味になってる」
「まじ?ラッキーじゃん」
「どこが?違和感しかない。ていうか今日泊まんの?」
「うん、そのつもりー。母さんにも言っといた」
「何か言ってた?」
「孫楽しみにしてるって」
「重い」
「いやー、やっぱ俺長男だからさあ。期待されちゃうんだよね」
「弟くん達まだ彼女できなさそう?」
「んー、そうなあ。あーでもトド松はわかんねーや。あいつ彼女出来ても言わなさそうだし」
「確かに」

他愛ない会話。でもなんだか、玄関の扉を開けた時よりよっぽど気分がよかった。こうやって誰かとごはんを食べるのはいつぶりだろう。

「おそ松」
「んー?」
「来てくれてありがとう」
「おう!」