堕ちる

「ずっと…ずっと好きやった」

そう告げた彼の耳は夕日に照らされただけではない赤さを帯びていて、普段どこか眠そうな目も今はしっかりと見開かれ、その瞳は私を捉えている。

「ありがとう、でもどうして急に?」

告げられた想いを素直に受け止めつつ、私は彼に問うた。

「ずっと名前と友だちでおるのも悪ないなあとは思っとったけど…アカンねん。日に日に他の男に触られとうない、仲良くなんてせんでほしい、そう思ってしまったんや。俺だけを見てほしいんや。」

吐き出された言葉は最も簡単に私を絡めとる。

「頼む、付き合うてくれ。」

聞いてしまった言葉はなかったことにはできない。
友だちだった関係にはもう戻れないんだと彼の目が告げていた。
ずっと友人をやっていたからこそわかる、欲しいものへの執着。
瞳の奥に潜んでいる獲物を狩るような鋭さ。

少しも私が逃げる隙など与えてくれない彼にため息をつきつつ、仕方ないなあと告げれば彼はほっと息を吐いてこれからよろしく、と笑ってくれた。

きっと彼は知らない。
私の方がずっとずっと先に好きで、
彼の生活の片隅に私がいるよう彼の友人と仲良くなったことも、
ご飯が好きな彼に食べてもらえるようわざと彼の友人に自分のおにぎりを分けていたことも、
彼が私を目線で追うようになってから他の男の子と近い距離で話すようにしたことも、
私が彼のいい友人であり続け、私なしで生きられないよう深い深い沼に引きずり込んだのも、
彼はきっと知らない。



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