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昼休みになると宣言通り治くんは私に声をかけ、そのまま私の手を引いて教室をでた。

途中侑くんの教室の前を通ったとき、侑くんが驚いた表情でこちらを見たのが見えた。
どんなに避けてもやはり目に入ってしまうのは忘れられていない証拠なのだろう。

治くんが向かったのは屋上で、本来鍵がかかっているはずのドアは治くんが押したらいとも簡単に開いた。
どうやら鍵は壊れていてその意味を成していないらしい。

「ええ風やな〜」

気持ちよさそうに背伸びをして治くんは「さ、ここなら誰もおらへんし教えてや〜」と言う。

もう時効だろう。
思い出したくはないけれど、間違いのないようにゆっくり治くんに伝える。

「あんな、私が侑くんを避けたのは部室での会話を聞いてしまったからなん」

「2年の時に侑くんが鍵を教室に落としとって、それを届けに行ったらみんなが部室で私の話しとって…」

「その時に『罰ゲームでもなきゃ告白なんかできん』って言われたの聞いてしまって…」

「私、それまで侑くんとええ感じなんかな?って思ってたんやけど、それ聞いて遊びやったんやなあって」

「そしたら好きになってしまったのが馬鹿みたいで、つらかったん…」

話してる途中でポロポロと涙が溢れる。
過去のこととして置いてきたつもりでいたけれど、やっぱりあの時のことは思い出すだけでつらくて。

あんな酷いことを言われたのに、侑くんと仲良かったことを思い出すと胸がギュッとする。
本当に好きだったのだ。
そして多分、まだその気持ちを捨てきれないでいる。

治くんはハンカチを出して、私に渡してくれた。
困った顔をさせてしまって申し訳ないけれど、涙は止まってくれそうにない。

「なあ、名字さん」

「ん…なに…?」

「俺がみとったツムは名字さんのことすごい好きやったで?遊びやったとは思えへんねん」

「でも…」

「よく覚えてないんやけど…その罰ゲームでもってやつ、多分名字さんが思ってるような理由とちゃうと思う」

真剣な目で私の方を見て一言一言しっかりと伝えてくれる。

「あいつひとでなしやけど、そんな酷いことするようなやつとちゃうよ。それは俺が保証する。ちゃんと、本人と話してみてや」

そう治くんが言って、屋上の扉の方へ視線を向けた。

そこには気まずそうに侑くんが佇んでいて、その顔がお互い話すことがなくなった前日に、体育館でみた侑くんの姿と重なった。



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