ケンマソウ

いつも告白されて、断る理由もないしと彼女がいなければすぐOKして付き合っていた。

でもそうやって付き合った女の子は大抵「バレーと私どっちが大事なの?」と言ってフってくるか一緒にいる時間が少なくて冷めたと二股をかけられてフラれるかのどっちかだ。

俺なりにバレーをやっていない時間をみつけては彼女たちにマメに連絡したし、休みの日の月曜日は疲れた身体を引きずってでもデートに時間を費やした。

それなのに大事にされてないと思われるのは心外だったけど、バレーよりも大切にできるかというとそんなこともないのでフラれても仕方ないかと思った。

岩ちゃんに言わせると俺のことをちゃんと見てないやつと付き合ったって時間の無駄らしいけれど、何人かと付き合えばそのうち俺のことをバレーごと愛してくれる女の子と出会えるかもしれないじゃないか。

夢見てんなキメェとか言われたけど、俺だって夢くらいみたい。

そんな時、いつもみたいに派手な女の子じゃなくて少し地味な女の子が俺のことを呼び出した。

こういうガチ恋タイプは俺みたいなのを好きになっても言わないで見てるだけなんだけど、珍しいなあと思った。

「及川くん、2組の名字です」

しっかりと俺の目を見て話す姿をみて、この子ならもしかしてと淡い期待が俺の胸に膨らんだ。

しかし続けられた言葉は告白ではなく「及川くんのバレーってすごいのね!」という感想で予想外の反応に「え?」と思わず呟けば、昼休み中延々と俺のバレーについてどこがすごいとか、この間の試合はこうだったとか、そういう感想を話された。

岩ちゃんたちに「俺呼び出されたんだよね」とドヤ顔で言って出てきたから、戻ってきた時に成果を聞かれて顛末を話したら死ぬほど笑われた。

「バレーの感想!?」

「新しいタイプの呼び出しだな」

「まあでもそんなに及川の事見てくれてるなんて嬉しいじゃん」

目に涙を溜めるまで腹を抱えて笑ってるこいつらに慰めにも似た言葉を言われ「でもこれラブではないでしょ」とため息をつけば「そこから始まる恋なんてのもあるかもよ?」とまっつんに笑われた。

それからその奇妙な呼び出しは続いて、最初は面倒くさくて仕方なかったけど、ちゃんと聞いているとバレーに対する熱とプレーへの分析がしっかりしていてこちらも勉強になった。

試合後に話すと今後の課題なんかも出てきて、今までこんなに真面目に俺のバレーについて見ていてくれた子なんていただろうかと感動した。

まっつんに言われた通り、まんまと俺が好きになってしまったわけである。

でも多分名字さんはそんなつもりはなくて、こうやって隣に座っていて触れたいと思うのも、名字さんが他の男と話しているのをみて嫉妬するのも俺だけなんだよなと思うとそろそろ仕掛けてもいいのではないかと思うようになった。

意識していないなら、してもらえばいい。

「あ、名字さんほっぺたにゴミついてるよ」

なるべく自然にするりと手を伸ばし、名字さんの頬に手を添えてゴミを取る仕草で少しだけ俺の方を向かせる。
側から見たらキスする5秒前。
見つめ合うその瞬間に、名字さんの瞳が揺れるのを見た。

俺の行動に驚いて勢いよく立ち上がった名字さんの顔は真っ赤で「私!教室に戻るね!」と言うなりすごい勢いで走って逃げて行った。

それから、会う時は必ずスキンシップを一つはするようにした。
慣れてきたら少しずつ増やして、俺が触れることに違和感を覚えなくなるように。

地味な努力が実を結んだのは名字さんが俺に話しかけてから二年目の秋、つまり俺たちが烏野に負けて引退を余儀なくされた時だった。

「及川くん、バレー続けるんだよね?」

不安に揺れた瞳に「そうだよ」と頷いて「俺、卒業したらアルゼンチンに行くつもりんだ」と言葉を続けた。

「あ、それってもしかして前言ってた話?」

「うん」

今までこの話を聞いた人は「それってわざわざ外国まで行くことなの?」と馬鹿にすることが多かった。
彼女はどんな反応をするのだろうかと、怖くてずっと言えないでいた。

「それはすごいね!じゃあこれからも及川くんのバレーが見られるんだね?よかったぁ!」

手放しで喜んでくれた名字さんに、この子は本当に俺のバレーを愛してくれているんだと思わされた。

今言わなくていつ言うのだ。

「名字さん、俺がアルゼンチンに行っても俺の一番近くで俺のバレーを名字さんに見ていてほしい」

告白を通り越してプロポーズだった気もするけど、名字さんは俺のそんな言葉に真摯に向き合ってくれた。

「及川くんがどこにいようと私はずっと及川くんのバレーを追いかけるよ。及川くんの大事にしているバレーを、私にも一緒に大切にさせてくれると嬉しいな」

背後の夕陽に負けず劣らずの赤い顔をして、名字さんは嬉しそうに笑った。



花言葉:あなたについて行きます


お題:恋のステップ



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