07

試合当日、姉がわざわざうちまで来てひなを私に預けてくれた。

「名前ちゃん、侑くんの格好ええとこ見てな」とわくわくしてるひなは初めて治さんの店に行った時にサインしてもらったユニフォームを着ていて、とても嬉しそうだった。

はぐれないようひなと手を繋いで、試合会場へと向かう。

本当に出店してたら、どんな顔で会えばいいのだろう。
買いに行くことすら躊躇われるけれど、折角姉とひなが作ってくれた機会を無駄にするのも憚られる。

試合会場へ入るとすぐいい香りがして、ひながその匂いをかいで「名前ちゃんお腹すいた」と言った。

腹を決めていざ買いに行かんとお店に向かったものの、お店にいたのはバイトの人で治さんはそこにはいなかった。

あからさまにガッカリする私にひなが「名前ちゃん、またあとで来ような」と声をかけてくれた。

気を遣ってくれたひなに申し訳なくて、ひなの手をギュッと握り返した。

そんなことがあっても試合は白熱して、実に楽しかった。
宮選手が繰り出す三刀流のサーブも、スパイカーに送り出すトスも格好よくて夢中になって応援した。

試合が終わるとひなが「侑くんにサインもらいに行きたい」というので宮選手待ちの列へと並び、ひなは今日の試合のどこがよかったかを楽しそうに話していた。

いざ自分の番がくると緊張するようで「あの、色紙にサインください」と俯いてお願いする様はまるで恋する女の子のようだった。

かわいいなあと見ていたら、宮選手が「あれ、お嬢ちゃんこの間サムの店で会った子ちゃう?」と気づいてくれて、横にいる私へと目を向けた。

「あ!!お姉さん“名前さん”やろ!!この子“ひなちゃん”やんな!?」

宮選手に認識されていることに驚いたが、宮選手は私以上に驚いていて「サム…!あ、アカンこの場所離れられへん!うわ、どないしよ!」とワタワタしている。

後ろの人も待っていて、サインも書いてもらったし握手もしてもらったので列の横へと逸れたら「サムのとこ行ったってや!!」と大声で言われた。

その声が聞こえたのかどこからともなく「なんやツムめっちゃ響いてるぞ」と治さんがきて、私を見つけた途端「名前さん!!」と宮選手に負けず劣らず大声で叫んだ。

二人から大声を浴びせられている私はすごい目立っていただろう。
後から考えると周りの目が怖くて思い出したくもない。

先程まで手を引いていたひなは私に「名前ちゃん、私この後ママが迎えにくんねん」と告げた。

「え、聞いてへんよ」

「LINE見た?ママそろそろ来るはずなんやけど」

慌ててLINEを開けば姉からたしかに『今会場着いたわ。そっち向かうからよろしく』と数分前に連絡がきていて、遠くの方から「ひな〜」と呼ぶ声がした。

「ほら、ママ来たやろ?私帰るね」

そう言うとひなは姉の方へと駆けていって、私に手を振ると後ろも振り向かずに姉と出口へと向かった。
やっぱり姉が仕事って言っていたのは私のための嘘だったのかと思うと、ありがたくて涙が少しでた。

残された私は治さんに「片付け、あと少しで終わるから外で待っとって」と言われ、指定された場所で一人待つことになった。



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