12
「ほな、俺はお暇させてもらおかな」
治くんはそう言って私には手を振り、侑くんには「ちゃんと話さなアカンで」と蹴飛ばして屋上を去った。
私の話を聞くというより、多分あれは私と侑くんに話す機会を設けてくれたんだ。
「名字、さん…」
侑くんが私の苗字を辿々しく呼んだ。
私が侑くんにそうさせたのに、悲しくなるなんてワガママだ。
「なに、宮くん」
わざと苗字で呼び返すと侑くんも悲しそうな顔をする。
違う、折角治くんが気を利かせてくれたのにこんなことをしてる場合じゃない。
「ごめん、意地悪した。侑くん、私たちあの時会話が足りんかったね。ちゃんと話そう」
そう言えば侑くんも頷いて、私の隣へと座った。
「あの、二年のあの時、俺名前になんかしてもうたんやろか」
「色々考えたんやけど、心当たりがほんまになくて…謝りたかったんやけど何が悪かったのかわからへんのに謝るのも悪いなと思ったらなんもできんくて」
「俺がアホなことしたんやったら言ってほしい」
「もう名前と喋れんくなるのいややねん」
話している間侑くんはずっと俯いたままだった。
「あんな、侑くん」
私が話しかけると視線が私の方を向いた。
「私、部室に侑くんの鍵を届けに行ったことがあったん。その時に、侑くんたちが私のこと話しとってね、侑くん『名前に告白なんか罰ゲームでもない限り無理や』って言うたんやけど覚えとる?」
侑くんは少し考えて、申し訳なさそうに「あれ、聞いとったん?」と言った。
「うん、私は侑くんとええ感じなんかな?って思っとったから、あれ聞いて遊びやったんやなって傷ついたんよ」
「だから侑くんのこと忘れようと離れたんやけど」
侑の方は小さい声で「すまん」と謝った。
「名前も俺のこと好いてくれとるんかなって思ったけど、バレーもあるし、名前のこと一番に考えられへんのわかっとったから」
「自分から告白して名前のこと悲しませてしまうかもしれんと思ったら、何もできなかったん」
「罰ゲームでもない限り、告白する勇気なんか出えへんって意味やった」
侑くんの言葉にびっくりする。
つまり、遊びではなく本気で私のことを好きでいてくれた?
「名前、傷つけてすまん」
「俺、今でも名前のこと好きや」
「さっきサムに手引かれていったのみて心臓が止まるかと思った」
「名前が許してくれるなら、もう一回チャンスくれへん?」
やっと侑くんと目があった。
いつもの勝ち気な顔はそこにはなくて、不安に揺れる瞳からは今にも涙が溢れそうだった。
「侑くん、あんな、私もずっと侑くんのこと好きやったよ」
「忘れようと思っても、忘れられへんかった」
「やり直したいのは私も同じや」
そう伝えれば目の前が暗くなって、身体に伝わる暖かさから侑くんの腕の中にいるのだと気付いた。
「もう離しとうない。頼むから離れんでくれ」
私を抱きしめる腕に力が入り少し苦しかったが、今はそれさえも嬉しくて涙が止まらなかった。
そのまま5時間目は二人でサボって、今までの話をいっぱいした。
離れていた時間を埋めるようにくっついて喋るその時間はとても心地が良かった。
6時間目に教室に戻ると、治くんが「仲直りできたか?」と聞かれたのでお礼を言えば「お礼はプリンでええよ」と笑ってくれた。
友人にも顛末を話したら「ほんまよかったなあ!」と喜んでくれて、いい友人を持ったなと思った。
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