06

久しぶりに婚約者と会った。

お互いもう慣れ親しんだ仲なので、話すのも苦ではない。

私はあまり外の話を知らないので、彼は最近流行りのものとかを私に教えてくれ、そして最後にいつも「名前さんにも今度見せたいな」と言う。

今まで気にしたことはなかったが、その約束が果たされたことは一度もない。
父が許さないのか彼にその気がないのかはわからない。

一静さんのいう『籠の中の鳥』という言葉が痛いほど私の胸に響く。

自由は少ないけれど幸せだと思っていた。
彼も優しくて、目鼻立ちだって悪くない。
家柄だって釣り合っていて、きっと周りからみたらそんな悩みだって贅沢なんだと思う。

でも、たった2回会っただけなのに一静さんは私を外に連れ出して素敵な思い出を作ってくれた。

今ここにいるのが一静さんなら、そんなことを考えてしまうことが目の前にいる彼に悪くて辛かった。

「名前さん?」

そんな私の様子を心配して声をかけてくれる彼に申し訳なさが募る。

夢なんか見たところで幸せになんかなれないのに、一静さんを想ってしまう私は愚かだ。

精一杯の笑顔を作って「他のお話も聞かせてくださる?」と聞くと、彼は嬉しそうに顔を綻ばせた。



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