オミナエシ

昨日、家で荷物の片付けをしていたら小さい頃のアルバムがでてきて、中身を開けてみたら私の隣に楽しそうに笑っている子と、少し俯いている子が写った写真があった。

子どもの頃は親の転勤が多く、数年に一度知らない街へと引っ越しをしていた。

この写真は、確か小学校も高学年に上がった時。

家の近くには二人の男の子が住んでいて、よくその子たちとゲームやバレーで遊んだ。

今となってはその子たちの名前も思い出せないのだけれど、転勤で友だちのいない私にとってはすごく嬉しかったのを覚えている。

彼らは今もバレーをやっているのだろうか。

高校生になって親の転勤もなくなり、当時住んでいた場所からもそう遠くない場所に今の家はある。

思い立ったが吉日というしな、とSuicaとスマホを鞄にいれ家を出た。

電車を乗り継いで駅に着いて改札を通ると、昔住んでいた時と変わらない景色に懐かしいさで胸がいっぱいになった。

引っ越してから5年も経つとお店や家も変わっていたが、身体が自然と動いてあの時彼らと遊んだ公園へとたどり着いた。

出るのが遅かったためにもう夕暮れ時で、子どもたちの姿は見えない。
私だけしかいない公園で、彼らと乗ったブラコンを漕いだ。
そうだ、一人で遊んでいた私に声をかけてくれたんだった。

「名前…?」

呼ばれた名前に驚くと、背の高い男の子がいた。
あの時のままの髪型で、少しだけ大人びた顔。

「クロ…」

忘れたと思っていた名前がすんなりと口から出た。

「うっわ、ホントに名前!?何年振りだよ!」

「家片付けてたらアルバムがでてきて懐かしくて来たんだけど…まさか会えると思わなかった」

「うわ、マジか。待って、研磨もすぐ来るから」

ああ、そうだ。
もう一人の俯いていた男の子の名前は研磨。
なかなか慣れてくれなくて、最初の方はクロの後ろに隠れてたんだ。

懐かしい思い出が頭の中にぶわっと広がった。

「あ、名前LINE交換しようぜ」

「え、いいの?」

「いやいやいや、ここで会えたのもなんかの縁だろ。今交換しなくていつすんのよ」

ケラケラと笑う彼に、そういえばあの時クロのことが好きだったなと思い出した。
この街から引っ越すってなった時に、いつもは駄々をこねない私が全力で嫌がって親を困らせたんだった。

『いつか絶対会いにくるから、それまで待っててね』

私はクロに何を待っていてと頼んだんだっけ。

「で、名前は約束守りにきてくれたワケ?」

「約束…」

「え、嘘だろ?覚えてねぇの!?」

「ごめん…」

なんだったっけ、とても大事な約束をしたのは覚えているのに内容がでてこない。

「お前彼氏いんの?」

「いないよ」

「じゃあ、約束守ってもらわないとだな」

ニッと笑う彼に、あの時の約束が頭に響いた。

『次もし会えたら私のこと彼女にしてくれる?』

小学生の約束にしてはなんて生意気だったのだろう。
思い出された言葉に顔が赤くなるのを感じる。

「ま、末永くヨロシク頼みますよ」

差し出された手を取り握手をすれば、向こうからきた金髪の男の子が驚いた声をあげたのが聞こえた。

「名前!?」

髪色こそ派手になってはいるけれど、昔と変わらない彼に駆け寄って「久しぶり」といえば「久しぶり」と喜んでくれた。

「クロも長年の片想いが叶ったみたいでよかったね」

さらりと言われた一言に研磨を見ると「あ、内緒だったっけ…」と気まずそうに目を逸らされた。



花言葉:約束


お題:昔来た場所



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