仕事で帰りが遅くなり、家で待つ名前さんに『終電で帰ることになるから先に寝ててください』と送っておいた。

今回担当になった先生が遅筆で、毎度〆切ギリギリで出してくるため避けようがない残業にため息しかでない。

『了解。帰る時にまた連絡ちょうだいね』

この返答からすると名前さんはおそらく寝ないだろう。
終電で帰るとは言ったものの、あくまで先生が〆切を守るのが前提で、守らければ徹夜覚悟だ。

一応催促の電話はかけてみたけれど、向こうも慣れっこなので絶対にでない。
あまりにも出さないので一度家に伺ったけれど、逃げられて更にギリギリになったのでもう二度とやらないと心に誓った。

カチカチと一定の時を刻む音が眠気を誘うが、寝るわけにもいかないので給湯室で珈琲を入れてなんとか目を覚ます。

終電まであと1時間、そんなときに新着メールのお知らせがピコンと音を立てた。
添付ファイルをダウンロードして、中身を確認する。

誤字脱字がないか、内容は大丈夫か、全ページを確認し終わった時には終電まで20分を切っていた。

先生にお礼と『この内容で大丈夫なので清書お願いします』と送り、急いでパソコンの電源を落とし駅へと走った。

電車に乗る前に名前さんに『これで電車に乗ります』と送ったが、既読はつかなかった。

今日が金曜日なこともあり、電車内はお酒の匂いが充満していて周りの人たちが華金を楽しんだことが伺える。

本当なら俺も名前さんと二人でどこか美味しいところでも行ったのに、と考えたところで仕方のないことを思った。

駅について改札をくぐると、見慣れた服装が目に入った。

俺に気づくと「えへ、来ちゃった」と悪戯っ子のように笑った。

「いつから待ってたんですか…」

手を握ると彼女の手は冷えていて、長い時間外にいたことがわかる。

「だって少しでも早く会いたくなっちゃったんだもん」

「暗いから一人で歩かないでくださいって言ってるじゃないですか」

「京治、今日は月がとっても綺麗なんだよ」

彼女は月を指差してニッコリと笑った。

「明るいでしょ?だから大丈夫」

「そういう話じゃないってわかってていってますね?」

「あんまりにも綺麗だから、帰り道で一緒に見れたらなって思ったの。許して?」

月明かりに照らされた彼女の顔があまりにも綺麗で呆れながら「仕方ないですね」と言ったら「ほら京治、『月が綺麗ですね』だよ」とふわりと笑った。



花言葉:あなたを愛しています


お題:月明かりに惹かれて



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