05

この歳になってからデートなんてした回数は片手で数えるくらいしかなく、本屋でデートについて特集してる雑誌を見たりもしたがどれもピンとこなくて首をかしげるばかり。

困って先輩に聞いてみれば「名前が今したいことに誘えばええんちゃうの?」となんとも適当なお言葉をいただいた。

迷いに迷って「中華街に美味しいものを食べ行きたいんですけど…」と送り、これだと食い意地の張ったやつだと思われるか?と思い直し「まだ行ったことがなくて」と続ける。
しばらくして「めっちゃ楽しそうやな!」と治くんからLINEをもらったときは死ぬほど安心した。

そしてデート当日、可愛いけど動きやすい格好をコンセプトにコーディネートした服を着て、待ち合わせの場所へと向かう。
10分前について早くきすぎたかと思ったが、そこには既に治くんがいた。

お店で見る時はカウンター越しだったし、お店のTシャツを着ていたのでそんなに気にならなかったが、彼は私服でいるとものすごく目立つ。
身長も高く、スポーツをやっていたからか程よい筋肉のついた体、そして言わずもがなの整った顔立ち。
周りの女性が治くんをみて顔を赤らめているのが遠目からでもよくわかる。

あの中に私は今から向かわねばならないのかとげっそりしたが、彼の待ち人は私なのだから仕方ない。
ほっぺたを叩き気合いをいれ、声をかけた。

「治くん、お待たせしました!」

スマホから顔をあげ、私の方を見ると治くんはにっこり笑ってくれ「早く着きすぎただけやから。今日の服可愛くて似合っとるなあ。」なんて褒めてくれた。
「治くんも私服格好いいですね」と返せば「あんま着る機会ないんやけどな」と少し照れたように笑った。

待ち合わせの場所からJRを使い数駅、目的の駅に着く。
まずは何を食べようかと持参したガイドブックをみれば、治くんは慣れているのかここのお店の豚まんが美味しいだのこの北京ダックは食べてみてほしいとか色々教えてくれた。

私がガイドブックを持っていて、治くんがそれを覗き込むので自然と治くんの顔が近くにくる。
慌ててガイドブックを閉じ「じゃあ行きましょうか!」と先程教えてくれた店へと向かう。

目当ての豚まんを買おうとするが、他にも美味しそうなメニューがあるので悩んでいると治くんが「俺がこっち買うから名前ちゃん半分こしよ?」と提案してくれた。

お店の人が注文した商品を渡してくれ、半分こにしようと手で割ろうとすると、私の持っていた豚まんを治くんがパクりと食べ「美味いなあ」と言う。
ニヤリと笑い「こっちも食べてみてや」と差し出されれば食べないわけにもいかず、治くんの手から一口食べさせてもらった。

今日一日この調子だと心臓が保ちそうにないんですが!と心の中で叫べば「百面相しとるなあ」と笑われた。



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