08
嫌だ嫌だと思いながらも来てしまったことには行かねばならないのが辛いところだ。
「お嬢様、何色になさいますか?」
「アクセサリーは如何なさいます?」
使用人たちが私に質問を投げかけながらドレスを着せ、小物を選んでいく。
一応聞いてはくれるけれど、相手の着る服に合わせて私も似たような色を纏わないといけないので私の意見なんてほぼないようなものだ。
馬車に乗って久々の外の景色を楽しんだが、彼の家に着いたら仰々しく迎えられてそんな気持ちすらもパッと消えてしまった。
彼の家の一室に通され、誰もいない中一人待たされる。
パーティーが始まるまでどこにも行くなというあらわれで、お手洗いすら部屋の中についている。
尤もドレスで出たところで目立つからすぐ連れ戻されるだけなのだけど、それでも外への憧れはなくならない。
コンコン
扉を叩く音が聞こえて、そろそろ呼ばれるのかしらと「どうぞ」と返事をしたら、入ってきたのは一静さんだった。
一静さん、と大きな声が出そうになったところを手で口を塞がれた。
「大声出しちゃうとバレちゃうよ」
小さな声でそっと呟く一静さんは悪い顔をしていた。
「立ってると疲れちゃうでしょ、座りなよ」
椅子を持ってきてくれたのでそこに腰掛けると、一静さんは徐ろに私の靴を脱がし始めた。
「な、にを…!」
一静さんが手に持ってきた箱を開け、一足の靴を出す。
丁寧に脱がされた靴をその箱へ仕舞い、出した靴を私の足へするりと合わせていく。
測ったかのようにピッタリの靴に驚いていると、一静さんは膝をついて私の足の甲へと唇をつけた。
「足の甲へのキスってね、隷属って意味があるんだよ」
普段背の高い一静さんが跪いて私を見上げ、ニヤリと口角をあげる。
「俺をお嬢様のモノにしてよ」
一静さんの瞳の奥に獣が見えた気がした。
逃げられないように手を頭に添えられ、深いキスをされる。
抵抗しようにも絡む舌に意識がぼんやりして思うように動けない。
口から漏れた小さな声は自分で思うよりももっと扇情的だった。
「そんな声だして誘ってるの?」
唇を離したときに引いた糸をぺろりと舐める一静さんから慌てて目を逸らすと「相手がいるのにこういうことするのって背徳感すごくて燃えるよね」と追い討ちをかけられる。
一静さんの言葉に身体が熱くなるのを感じ、その感覚に我を忘れて一静さんへ縋った。
「ダメだよ、お嬢様。時間だ」
彼の言葉は無情で、扉を叩く音がした。
「さあ、行っておいで」
先程まであんなに情熱的だった彼はどこにもいなくて、爽やかな笑みを顔に貼り付け私を扉へと送り出した。
後ろ髪を引かれる思いで婚約者の元へ向かうと「名前さん、お綺麗ですね」と何も知らない彼は優しい顔をして褒めてくれた。
まだ火照る身体を懸命に冷まそうと手に力が入る。
そんな私を横目で見て笑う一静さんに、ぶるりと身体が震えるのを感じた。
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