バラ

今日は信介の誕生日で、朝から高校時代のバレー部の仲間で信介の家に集まってパーティーの予定らしい。

私は残念なことに仕事が入っているので、夜に私の家でお泊まり会をすることになっている。

ちょっといいところで外食でもと提案はしたものの、いつも通りが一番嬉しいと信介が言ったのでケーキだけ買って帰るつもりだ。

会社に着くなり上司から鬼のような仕事量がふってきて、何でよりによって今日なんだとキレそうになるのを我慢してひたすらこなした。
何が何でも終わらせてやるという意地で、夕方までに粗方片付いたのは本当に自分を褒めてあげたかった。

そして定時の鐘と共に「お疲れ様です!」と颯爽と帰った。
途中上司に声をかけられたのを遮って「予定があるので」と睨んでしまったのは少しでも早く帰りたかったからで、決して日頃の恨みが顔に出たからではない。

予約していたケーキを受け取り、いざ帰宅!と家のドアを開ければもう信介はそこにいて「早かったな」と笑ってくれた。

信介の横を見れば、なにやら大きい袋があって「それどしたん?」と聞いたら「侑が名前と開けてくれってプレゼントとは別に渡してきたんや」と言うではないか。

“侑が”っていう時点でもう嫌な予感しかしなかったけれど、ひとまずそれは置いておいて「ご飯にしようか!」と言えば「昼の残りがあったから少し持ってきたで」とタッパーを広げてくれた。

信介のおばあちゃんが腕をふるったであろうその料理たちは実に美味しそうで、どうやら私の出番はあまりなさそうだなと思った。

ケーキを出してロウソクをたてれば「もういい歳した大人やからええのに」と遠慮されたけれど「様式美だから」とこたえれば「なるほど」と納得してくれた。

「信介、誕生日おめでとう!!」

用意していたプレゼントを渡して、お決まりのセリフをありったけの愛と共に伝える。

「ありがとうな」

嬉しそうに笑った信介に満足して、先程の侑がくれたものへと手を伸ばした。

「これ、なんか重ない?」

「触った感じ本かなんかやと思うんやけど」

「侑が本?らしくないなあ…」

「とりあえず開けてみるか」

信介が袋の包装を解いていくと、そこには分厚い本が入っていた。
結婚するカップルがよく買う、例の本が。

一瞬真顔になって侑次会った時に絶対しめると心に決め、笑顔に戻し信介のほうへ向いたら、
信介はページをめくって真面目に考え込んでいた。

結婚とかお互いのタイミングとかもありますし?
いや、考えていなかったわけではないけれど。
侑本当にあいつしばく。

もうなんて言っていいのかわからなくてとりあえず「信介…?」と声をかけてみた。

「あ、スマン。夢中になっとったわ」

そう言うものの、未だに本から目を離さず真顔でページを見続ける信介が何を考えているのか全くわからない。

半分くらいまで読んだところでやっと顔をあげて信介が言ったのは「どこの式場もよくて迷うなあ」という言葉で、展開についていけなくて変な声がでた。

「近いところがええかなと思ってみとったんやけど、ここの方がチャペルが綺麗なんよな」

「でもこういうのは名前が好きなとこのがええよな?」

「名前はどこが気になるんや?」

次々と飛び出す言葉に慌てて待ったをかけると「ウェディングドレスより和装のがええか…?」と斜め上の回答がきて今度こそ大きな声で「そこじゃなくて!」と言った。

不思議そうな顔で私を見る信介に「入籍してないやんな!?」と尋ねるも「これ付録に婚姻届ついとるねん」とサラッと返された。

「俺今日誕生日やから、これからの名前の人生もらえたらそれが一番嬉しいなあ」

本日の主役にそう言われて、誰が断れるというのだろうか。

プロポーズはもうちょっとロマンティックにされたかったと少し嘆いたけれど、これはこれで信介らしいのかと妙に納得した気持ちにもなった。

諦めて「私はここが気になるな」と伝えたら「ほんなら予約して見学行ってみるか」と丁寧に栞を挟んで手帳に書き込んだのは流石だなと思った。

そしてそのまま婚姻届に記入をし、保証人の欄は元凶の侑に連絡して治と二人で書いてもらい、夜間の受付に行って婚姻届を出したのは本当にびっくりした。

「今日から北名前やな」

嬉しそうな信介に免じて侑のことは許すことにした。



花言葉:永遠の愛


北さん、27歳おめでとう!!



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